第4話 空飛ぶ弁当屋

 午後のミーティングはソムチャイさんも呼んで4人での実施になり、伊央さんがIMキャピタルの投資先について1件1件説明するところから始まった。その中で社長の食いつきがダントツで良かったのは、民間実用に向けてドローンの機体改良と実証を進めている技術系ベンチャーだ。


「飛行機からドローンをわーって撒いたらさ、なんかできないかな?爆弾みたいに」

「社長、その例えは色々不穏なんで今後やめてください」

「できそうですが、さすがに色々な規制にひっかかるみたいですね」

「向こうの規制、まだ結構厳しいヨ。高い所飛ぶなとか、操縦してる人が見える所で飛ばせとか」

「うーん、そうなるとハブアンドスポークス*みたいに途中の拠点までは飛行機で運んで、そこからはドローンって感じかねぇ。最終的には高付加価値のものを運びたいけど、車やバイクに勝てるかなぁ」

「そうでないと航空機を絡める意味がないですからね。当面はドローン単体のビジネスになるでしょうか」


 ドローンビジネスに手を出そうとした時に引っかかる問題が、すぐに思いつくだけでも幾つかある。代表的には規制の問題と、他の輸送手段との競争の問題だ。規制の方は技術の発展と時間で(間に合うかは別として)ある程度なんとかなるかもしれないが、車やバイクの方が安くて速いという話は難しい。


「ドローンを商売の流れに乗せる方法は、向こうもうちもまだノウハウがないからね。まずは規制が緩い地域で弁当屋でもやることを目指してノウハウを貯めようか。牧田さん、向こうの社長さんに繋いでもらえる?」

「はい!連絡つけますね!」

「ソムチャイさんは現地でスポンサーになってくれそうな人をみつけて。ドローンの操作手が各都市数十人単位で必要になる」

「OKヨ」


 ランチはとうに終わっているが、おやつ替わりに追加の弁当を食べながら参加するソムチャイさんを見ながら社長はそうまとめた。道がありそうならまず動いてみる、情報が増えれば打ち手も出るかもしれないというのが当社の基本方針だ。


「カレー屋はやらないんですね」

「こぼれそうじゃん」

「カレー……?」




 そこからは、先週に負けず劣らずの大変さが日々の基本となった(体を壊さないように、さすがに深夜や土日は減らしたが)。なにせ撤退が決定しているとは言え、旅客航空の方も継続しながらの新規事業だ。IMキャピタルの出資が決まったことで即倒産の危機は免れたが、結果が出なければ赤字が続いていずれ倒産することに違いはないし、追加の資金調達は難しい。専門職であるパイロットは仕方ないにせよ、社員の雇用だってある。背水の陣というやつだ。それでも、久々に社長とやる事業立ち上げはとても楽しかった。




 *ハブアンドスポークス方式:生産拠点から消費地へ品物を直接輸送するのでなく、各所に設けたハブ拠点にまず輸送し、それ以降の輸送はハブ拠点から行う形式。経路数の削減や管理の簡便化に役立つ。

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