メリークリスマスというのは何ですか?~氷の国の役立たずな魔王の息子~
花月夜れん
とある乙女ゲームの雪の国の物語
「なぜ、植樹に飾り付けをしてるんだい? ヒナ」
「だって、今日はクリスマスなんですもの」
「クリスマス? なんだいそれは。またヒナの国の行事なのかい?」
「そうなの」
嬉しそうに手をパンッと一度叩いて、笑う彼女はヒナ。ヒナ・ナカガワという名前だそうだ。
しかし、目の前の彼女はキュエリアスという、名前も持っている。金色の輝く長い髪、青緑色の宝石のような瞳を持つ女の子だ。少しつり目だけれど、それが逆に魅力的に感じられる。
「それで、それは何なんだい?」
「これはね、クリスマスツリー。毎年冬になったらもみの木に飾り付けをするんだ。ほんとはね」
「ふーん」
彼女が言うには、この世界は乙女ゲーム『スノーダイヤモンド・雪降る国の氷王子』とかいう世界らしいのだ。
彼女はそのゲームをしていたというニホンジンの生まれ変わりなのだとか。それがヒナ。
僕は、そのゲームでラスボスとかいうものにあたるらしいのだが、悪役令嬢役のヒナに攻略されて、現在に至るそうだ。
初めて聞かされた時は、いや、今もいまいち理解は出来ていない。
僕の名前は、クリス。雪のような白銀の髪と氷のような瞳をしている。魔王ブリザードと平民の女との間に産まれた子だとか。父さんが魔王とか、聞いてない。
彼女から聞かされて、目が飛び出て空まで飛んで行きそうなくらい驚いたからね。
「あとはケーキと、チキンとプレゼント! サンタ服は――無いよね」
「楽しそうだね」
「だって、一年に一度なんだから! あー、雪も降って欲しいな」
雪なんて、嫌になる程積もっているのに、さらに降って欲しいなんて変わってるなぁ。
「ヒナは降ってくる雪が見たいの?」
「今日はクリスマスでしょ。クリスマスに雪が降るとホワイトクリスマスって言って恋人同士で見るとそれはロマンティ――」
こちらを向いて途中まで喋っていた彼女が急に真っ赤になった。恋人同士という言葉に照れているのかな。
初めて僕の前に現れた時のヒナは、涙と鼻水を垂らしながら、「グリズ、貴方が好きでず。私は貴方を死なせたぐないぃぃ」と、ずびずびしながらやって来て――、あれはかなり引いたなぁ。
それから、僕がこれからどうなるかや、彼女が破滅しかないという事を聞いて、回避する方法を探していたら、お互い――。
「しょうがない」
僕は、この雪の世界で役立たずと言われた雪を降らせる魔法を唱える。
すぐに白いふわふわした雪が降りだした。
「わぁー、ありがとうクリス!」
「どういたしまして」
役立たずと言われ続けた僕が使える唯一の魔法で彼女がこんなに喜んでくれることが、とても嬉しい。
「あのね、私、前の世界で最初はジーク王子を選んでしまったの。でもそれはあくまでゲームクリアのための必要な手順だったからで、私が一目惚れしたのは最初から――」
「ゲームの話なんだろう?」
彼女の唇をそっと指で押さえると、頬をピンク色に染めながら彼女は頷く。
「この世界の話だったら、僕は本当に氷の魔王になっていただろうな」
そう言うと、彼女はわたわたと慌てている。
「さぁ、そろそろ中に入ろう。身体が冷えてしまう」
僕は彼女の手をとって、屋敷の中へと誘う。
「そうそう、今日に使う特別な言葉があるんだっけ?」
「うん、メリークリスマスって――」
可愛い唇に僕は軽く口付けをした。
寒さで赤くなっていた彼女の顔がもっと赤くなってしまった。
「メリークリスマス、ヒナ」
「あ、不意打ちはずるいです。……メリークリスマス」
小さな声でごにょごにょと彼女は喋っている。その姿が可愛くて僕はとても久しぶりに、それと彼女の前で初めて、――――笑った。
メリークリスマスというのは何ですか?~氷の国の役立たずな魔王の息子~ 花月夜れん @kumizurenka
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます