第368話 王都奪還!

「アルフォンス陛下、万歳!」

「聖女ロッテ様、万歳!」

「テオドール殿下すてき! こっち向いて!」


 王都は、国王凱旋に沸いている。


 アルフォンス様の国民人気はイマイチだって聞いていたから心配していたのだけれど、市民の反応を見る限り、それは杞憂だったようだ。不人気の元凶であった私が、こうやって援軍を率いて彼を熱く支持している姿を見せることには、やはりかなり意味があったらしい。


 そして、一昨日まで玉座にふんぞり返っていたトゥールーズ公と、彼に与する叛乱軍の振舞いが酷かったのも、かえって幸いした。叛乱軍占領下の王都は、略奪暴行のはびこる悲惨なものであったそうで、軍律がびしっと守られているアルフォンス連合軍との差が際立ったというわけよね。


 そのトゥールーズ公は、王宮で捕らえられ、処分を待つばかりになっている。アルフォンス様が王都奪還に向け進軍していることはわかっていながら、城壁を過信して備えを怠っていたことの報いと言うほかないだろう。もちろん国家転覆を図った張本人だから、極刑となるのはやむを得ないよなあ。


 主犯は捕まえたけれど、裏で糸を引いていた西教会の上層部はさっさといずこかへ逃げ出していて、確保することができなかった。バイエルンへの影響を考えたら、こっちの奴らの方を何とかしたかったのだけれど……教会の情報収集力は強い。叛乱側は勝てないと、早い段階で見切りをつけていたものらしい。


 懸念していた凄惨な市街戦は、起こらなかった。連合軍は王都の東門を占拠して突入したけれど、その他の門をふさぐ行為を意図して行わなかったことで、泡を食った敵軍が逃げるに任せたのだ。叛乱側に戦力を残してあげるのはよろしくないけれど、それ以上に王都の中で徹底的に戦ったら兵の損耗が大きいし、何より市民がどれだけ死ぬかわからない。そう進言した私に、ベルフォール辺境伯もローゼンハイム伯も深くうなずいて下さった。そう、大事なのは、王都を取り返して、国の主導権を握ることなのだから。


 そんなわけでほぼ完勝で王都を奪還した私たちは、王都の目抜き通りを凱旋行進しているわけなのだ。こういう目立つデモンストレーションは嫌いだけれど、王都市民の支持を早急に取り付けないといけないことは私も理解しているから、お付き合いせざるを得ない。アルフォンス様とテオドール様と一緒に八頭立ての王族用馬車に乗っけられて、ひきつった微笑みを顔に貼り付けながら左右の民衆に向かって、手を振り続けるのだ。


「はぁ……疲れるわぁ」


「今日のところは仕方ないだろう、我慢しようではないか、聖女。どうせ間もなくバイエルンの寂しがり屋どもが口をそろえて、聖女よ帰ってきてくれと騒ぎ出すだろうからな」


「ははっ、私も早く帰りたいです」


 テオドール様の言葉は、げんなりしている私を励ますための、何気ないものだったのだろう。だけど結果的にこれは、最悪のフラグになってしまったんだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 それから一週間。私たちバイエルン軍は王都周辺に駐留し、近郊の支配を確立すべく動いていた。それは武力による活動とは限らない。内戦で荒れた道路や農地などの復旧、あるいは家族を失った子供の保護などといった民生的なものも含め、ようは民衆のご機嫌取りが必要なのだ。


 そんなわけで私も、自分にできることをやろうってわけで、近郊の村を回ってはちょっとした怪我や病気の治療なんかをやっているのだ。珍獣扱いの聖女をわざわざ見に来る王都の市民もいるので、そう言う人には村の復興活動などを手伝ってもらって、その代わりやっすいお茶と微笑みを配ることにしたけど、それで喜ばれているから、まあ良しとしよう。


 ロワール聖女の本業である妖魔退治も二件ほど請け負った。王都近郊まで妖魔が出るようになったというのには驚いたけれど、どうも教会の養成するブラック聖女システムが崩壊しているようなのだ。討伐自体はテオドール様、そしてビアンカとルルに手伝ってもらえば過剰戦力だ、さくさくっと済ませてしまったけれど。


「ロワールでは、妖魔討伐をうら若い令嬢にやらせているのか?」


 テオドール様が、首を傾げる。武断の国アルテラでは、男が女を守るというポリシーが徹底している。若い娘が一番ヤバい仕事をさせられているのが、理解できないらしい。


「ええ、西教会がそういう仕組みをつくったのです。そして、令嬢を死地に送って民を守らせるのがノブレス・オブリージュなのだと貴族たちに刷り込んだことで、うまく回っている側面があったのです。あくまで三年前までは、ですけどね」


「君が追放されて、状況が変わった?」


「そうですね。『聖女』は身の危険はあるものの名誉が確実に得られるお仕事と思っていたのが、政治的な思惑で簡単に断罪されることがあるってことを。教会自らが示してしまったのです。貴族たちはもう、大事な娘を差し出すことはしませんよね。そしてとどめに、断トツ最強の聖女であるレイモンド姉様が、この国を見限ってしまった……」


「なるほどな。じゃあこの国はこれから、どうやって妖魔の害を防げばいいのかな」


「う~ん、それを考えるのはアルフォンス陛下のお仕事ですけど、私個人の考え方としては、冒険者ギルドを招くのがいいと思います。おカネを払って妖魔を討伐してもらうのが、一番合理的なのでは……」


 なるほどとテオドール様が手を打った時、後方からひどく慌てた調子で馬蹄の音が響いた。


「何事か!」


「テオドール殿下! 聖シャルロッテ様! すぐにお戻り下さい、一大事です!」


◆◆作者より◆◆

カクヨムコンも始まりましたので、新作公開しました。

「定年後は異世界種馬生活」https://kakuyomu.jp/works/16817330667316963697

異世界現地人ファンタジーばかり書いてきた私ですが、初めての転移(というより憑依かな)モノです。

ストレス少ない展開を予定しています。

当面毎日更新しますのでよろしければお楽しみ下さい。

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