夢見る英雄候補と、踊って笑うホラ吹き道化

MHR

プロローグ

 とある村、そこには幼い少年と、その眼前に立つひとりの男しか生きてる者はいなかった。


 そこは凄惨たる惨状だった。


 原型をとどめてない、かつては少年の両親だった肉塊ミンチ

 体は無く、ただ何気なく転がる兄の頭。

 肉片すら残せず弾け飛んだ親友の血痕シミ

 生きたまま解剖され、内蔵を弄ばれ、最後には頭蓋の中身をごちゃ混ぜにされた弟妹たちの亡骸。

 雑巾を絞るように全身をひねられた村民たちの屍肉によって築き上げらた屍山血河。

 四肢を引きちぎられ、そのうえ全身の骨を丁寧に取り除かれた、幼いながらに心を通わせていた恋人の女の子の成れ果て。


 そこには悲劇しかありはしない。


 そんな中、まだ幼い少年はただ静かに慟哭いていた。

 少年にできることはそれだけだった。



「ヒャハハハハハハハハハハーーーッ!!!」



 少年のすすり泣く中、男の壊れたかのような高笑いだけが辺り一帯に響く。



「いい、いいぞ。やはり虐殺は楽しいな! 迸る叫び! 溢れる血潮!! 止まらぬ涙!!! 弾ける肉!!!! 死ぬまで続く底無き絶望!!!!! 嗚呼、実に素晴らしいスーパーブ!」



 元凶は恍惚に笑み、歓喜に叫ぶ。

 その様はまるで、はじめて神の声を聴き、祝福を受けた敬虔無邪気なる信徒こどものようだ。


 それから一体どれだけ経っただろうか。

 男はしとしきり笑った後、その場を去っていった。


 泣き続け、とうとう泣くことすらできなくなった少年は、ただ悲劇の元凶が立ち去るの見ていた。

 少年は絶望の中に微かな、弱々しくも確かな憎悪を灯した瞳で男を睨みつけていた。


 視線に気づいたのか、男は振り返り、その目を見た。

 そして凄絶に、腹の底から嘲笑わらったのだった。

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夢見る英雄候補と、踊って笑うホラ吹き道化 MHR @31lord

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