第3話 始まりのダンジョン攻略 2




「ふう。今日も俺、最強」



「流石馬鹿…脳筋、いえ…戦闘狂ですね」


「おい、何も言い直せてないし、全て悪口だ」



馬鹿、脳筋と最後まで言い切り、あたかも良い言葉に言い直す振りをして追加で罵しる。無表情で。


これがジャンヌクオリティである。



「実際の所、本当に流石です。こうもあっさり難易度測定不能のダンジョンボスを倒すんですから」


「ふっ、惚れたか?」


「ふふっ、いやですよマスター。冗談は顔と脳筋と見た目と外見だけにしてください」


「殆ど見た目じゃねえか」


「まあそれはいいとして、本当にこれで終わりですか。難易度の割りに随分と呆気なかったですね」


「よくねえよ。だが、多分まだ終わりじゃない」



何で敵を倒したのに罵倒されないといけないんだ、俺ってそんなに不細工なの?違うよね?などと涙目になりがらブツブツと文句を言う万治であったが、ジャンヌの言葉にはすぐ様真面目な顔をして言い切る。


ジャンヌはあのナマズが最深層のボスだと思っているようだが、万治は違った。

理由は様々だが、1番はこの始まりのダンジョンがある場所にあった。



「ここが何県だか覚えているか?」


「えっと確か、茨城県、でしたか」


「そうだ。そして、この始まりのダンジョンがあった場所には元々、神社があったんだ」



約10年前まで、この地には神社があった。

そして、その神社に覆い被さるようにダンジョンが出現した。



「その神社の名は鹿島神宮。そして、ある神が祀られている神社なんだ」


「ある神、ですか。…まさか」



そもそもダンジョンとは、基本ゴブリンやコボルト、オークなどの異世界・・・のモンスターが生息している。

だが、稀にその地に由来する偉人や英雄といった、この世に存在しない過去や架空の人物が出現する事が稀にあった。


ジャンヌがそうであったように。



「でも、まさか。神とは架空の存在なのでは?」


「ああ。だが、ここはダンジョンだ。何があっても不思議ではない」



ジャンヌもかつては宗教上、盲目的に神の存在を信じていたが、生前での出来事、そしてダンジョンから解放されこの世界で過ごした経験と万治の影響で神とは存在しないものだと理解した。

だが万治は、この地にあった神社に祀られていた神こそが、最新層のボスであると予感していた。


そして元来、悪い予感というものは当たってしまうもの。



「その通りよの」



「「!?」」



万治達は背後から聞こえた声に驚き振り向くと、そこには1人の男が座っていた。


それも、地面に突き刺した刀の上に。



「我がこの見知らぬ地で、自我が芽生えて数年程か?長いのか短いのか分からぬがよくぞ来たの。我は酷く退屈であった」



男が未だ刀の上に座りながら、そう言った。

そして、気づけば先程まで湿地帯であった場所が、神社に変わっていた。


男は袴を着ておりその上から羽織りを着込んでいて、まるで造形物のように顔立ちが整っており、黒の長髪を後ろで縛っている。


万治はその男のその風貌に、自身の予感が当たっていた事を知る。



「タケミカヅチ」


「ほう。そこの男、我を知っているのか」


「ああ、それ程詳しい訳ではないけどな。名前くらいは知っている」


「それは嬉しいのぉ」



万治が男の名を予想し口にすると、男は頬を緩ませる答える。

その後の会話も何が嬉しいのか、楽しそうにしている。


万治は名前を言った時に男が否定しなかったことから、嫌な予感は完全に合っていたと内心で舌打ちする。



「う、嘘。本当に神様が…」



ジャンヌ自身、英雄型のダンジョンのモンスターと言える存在であり、かつては万治と死闘を繰り広げ苦しめた過去がある。

しかし、生前は数々の戦争を経験し自ら軍を率いて勝利を収めるなど、それなりに強さに自信はあったが、当たり前の事だがこれ程の力はなかった。

あくまでも生身の人間の範疇に収まる程度だった。


故にジャンヌは知っていた。

英雄と呼ばれた存在が、ダンジョンのモンスターとして躇現けんげんすれば、どれ程の脅威となるかを。

それが、神ともなればジャンヌには想像も付かなかった。


英雄はあくまで元は人間である。

しかし、神とは神話の時代の、言わば空想上の存在である。

元から人よりも格の上の存在として造られた神が、モンスターとして顕現すれば一体どれ程の力を持つのか、ジャンヌには想像も付かなかった。


だからこそジャンヌは、目の前にいる男ーーータケミカヅチが神であるなど、いくら万治に言われようとも信じたくはなかった。



不意に、タケミカヅチがジャンヌに視線を向けた。



「ふむ。お主は我と同胞モンスターのようじゃが、何故その男に付き従うておる?我はそれに驚いておっての」


「…どういう意味でしょうか」


「お主も気付いておるだろう。この体から湧き出る感情を。まるで、この地に侵入する敵を排除しろと何者かに強制されているような使命感を」


「……」


「我はこの感情を抑える事が出来そうになくての。今とてお主らを即刻殺さなくてはという衝動を必死に押さえ付けてはおるが、それもいつまでも持ちそうにない。お主は何故、平然としておる?そもそも、何故お主を生み出したであろう地から離れる事が出来ておるのじゃ?」


「……それは」



ジャンヌはすぐに答える事が出来なかった。

ジャンヌもかつてはタケミカヅチと同じであった。

その場所を逃げ出す事も出来ず、ダンジョンに足を踏み入れた者を問答無用で敵と見做し排除しなければならないという謎の使命感に囚われていた。

そして、ジャンヌの場合は生前の過去にも囚われていた。


そんな中、万治と出会った。

ダンジョンの侵入者として相対した2人は、死闘を繰り広げ、最終的にジャンヌは万治に救われた。

ダンジョンからも生前の過去からも。


その結果、こうして万治に付き従っているのだが、この事をジャンヌの独断で話す訳にはいかなかった。

万治は何も気にしないだろうとは思う。

寧ろジャンヌにどこまでも甘い童貞のマスターなら笑って許してくれるだろうと内心では思っているジャンヌであったが、それにジャンヌは甘えるつもりはなかった。


万治の所有物・・・であるジャンヌが、どんな些細な情報でもそれが万治の不利に繋がる可能性が僅かでもあるなら勝手に漏らす訳にはいかなかった。


そう考えたジャンヌは、どうするのかと伺うように万治に視線を向ける。


そんなジャンヌの内心を知ってか知らずか、万治は口を開き始めた。



「タケミカヅチ、それを知ってお前はどうする気だ?」


「はっはっは、そんな警戒するでない。なに、そこの女子が解放される術を持っておるならば、それを知りたいと思っておっただけよ」


「そうか」


「じゃが、我は間違っておったやもしれんの。そこの女子が解放されたならば、その術を知っておるのは女子ではなく、女子を解放したであろうお主という事になるの」


「まあ、そうだな。確かにジャンヌをダンジョンから解放したのは俺だ」


「ふむ、この地はダンジョン、というのかの。それより、やはりお主であったか。ならばその術を我にも教えてはくれんかの?」


「悪いが、それは出来ない」


「むっ、何故じゃ?」



ジャンヌを如何にしてダンジョンから解放する事が出来たのか、その方法を知りたいというタケミカヅチに対し、万治は間髪入れずに断った。


それに気分を害したのか、若干不機嫌そうに眉間に眉を寄せるタケミカヅチ。


万治はそんな様子のタケミカヅチを見て、こいつちょっとイケメン過ぎない?不機嫌そうな顔もイケメンだなーこんな顔なら常に機嫌悪くても許してもらえるんだろうな本当何でこの世は俺に厳しいんだ理不尽極まりないイケメンは1匹残らず滅ぼしたい、などと考えていた。


呑気なものである。



「あー、いや。その方法を教えたくないとかじゃなくて、教えるのは全然いいんだけど、それを出来るのは多分俺だけで、恐らくその方法じゃお前は解放出来ない」


「なるほど、そういう事かの。それは残念じゃ」


「悪いな。すまない」


「はっはっは、お主が悪い訳ではないのじゃ。気にするでない」



実際、万治の言った事は事実だった。

寧ろジャンヌを解放できた事自体が奇跡だった。

それ程までに、ダンジョンとモンスターというのは根深く繋がっていた。



「ならば、我はこの湧き出る感情に従わなければならんの。これを抑える術を我は知らぬ。よいかの」


「「!?」」



よいかと聞いてはきているが、返答を求めての事じゃないとすぐにわかった。

今まで抑えられていた殺気が、タケミカヅチから溢れ出していたからだ。



「ジャンヌ」


「はい」



この先を望むなら、この戦いは避けられない。

それを2人は嫌という程分かっていた。



「行くぞ!」


「はい!」



始まりのダンジョン、最後の戦いが始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

帰還者の現代ダンジョン無双〜異世界から帰還したら、こっちの世界でもダンジョンが出来てたんだが〜 蘭童凛々 @kt0222

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ