43話 よかった





 批評ではいつも通り多田師には参加してもらって、1年2年の何人かにも読んでもらった。今回書いた小説はかなり私小説的で、面白い小説を書いたつもりではあるけど、他人の評価がどうなるかまるで予想がつかなかった。

 でも読んでもらってる間、多田師がいくらメモを取ろうと、沈黙が続こうと、落ち着いていた。ただ最後なのだという実感だけが残って、この批評時のドキドキを味わうのもこれで終わりと思ったらやっぱり寂しい。


『ランナーズハイ』より分かりやすい内容だったため、全員が読み終わるのも早く、スムーズに批評に入った。

 多田師は「とにかくよかった!」と拍手してくれて嬉しかった。書くのがはやい多田師は先日、批評を終わらせていたけれど、彼は今までの作品全ての要素を含んだ終末モノを書いてきた。面白かったし、よかった!多田師らしさがあって。

「実はこれ結構実話なんだよね」

 と言うと、多田師が冗談めかして「え?じゃあヒロインが首しめられたのも?」とにやけたので、「そうだよー」と言ってあげたらフリーズしてウケた。わなわなと震えて、(やべ、やらかした、まさかとは思ったけど、まじか)みたいな心の声が聞こえてきそうで笑った。世の中にはうんとやばいやつがいるんですよ。こういう時に使う言葉ではないけど事実は小説より……。怪奇?恐怖?残酷?なり。




 秋祭でも猫くんのお母さんがわざわざ隣県から来てくださったので挨拶をした。

「お世話になってますー」

「いやいや、こちらこそです」

 と言葉を交わしたくらいだけど、後日猫くんから、母から感想が届いて……と言われて、感想の内容を聞くと「よかったね〜……うん、池添くん、よかったねぇと思った」とのお言葉をいただいた。本当に嬉しい。ぼくも客観的にこの小説を見て「作者さんよかったねぇ……」と思う気がする。

 要因は、もしかするとあとがきにあったかもしれない。

 あとがきの言葉はギリギリまで迷ったけれど、多田師が文芸部に入った理由とか、最後の小説への想いを真面目に書いていたので、ぼくも真面目なあとがきを書いてやるかなと思った。今までは「ヴェルナッツァ行きたい」とか「フィエールマンっていうのは実は競走馬の馬名です」とか短文でテキトーなことを書いていた。


 今回載せたあとがきはこんな感じ。





 感謝を忘れずに生きていく覚悟を、短編ですが小説に落とし込んだつもりです。

 この作品をもってぼくは文芸部を引退します。

 読みたいから入部したなんて嘘です。

 いつもぼくの周りにいる人は、何かしらの才能を持って光り輝いていました。それに少しでも近づきたくて、小説を書くということに踏み切りました。共感できない世界があるって、なんだか悔しいじゃないですか。

 ちなみにペンネームのレグルスというのは一等星のことで、それが隣にいると、自分も光っているはずなのに目立たない。という意味です。星なのに暗い。

 でも、天体観測はもうやめました。

 自分は自分なりに、光り輝いています。誰しもそうです。だから、他の星と見比べることもないなって、今は思えます。

 そして自分なりの強烈な光とは何なのか考えた時、それが小説を書くことなら、ぼくは小説家を目指すでしょう。

 今は、違うだろうと考えています。






 文芸部として最後の秋祭も十二分に楽しんだ。ブースとして使う教室の黒板に絵を描いて、人気投票してみたり、2年生でコスプレをしてきた子がいたので写真を撮ったり、ゼロ太郎がベトナムに行ったのでお土産ですと買ってきてくれたスタバロゴのパチモンTシャツをお揃いで来て記念撮影などした。

 とにかく楽しかった!


 ただ、後輩たちにも今まで何度も「引退してからも部室に来ていいですよ」という言葉を貰ったけど、それだけは出来なかった。やっぱり追い出した側なのだ、ぼくらは。ぼくも多田師も行かないの一点張りで、そのまま秋祭が終わって、ついに最後の部活の日ーー




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