16話 この三人で
Kさんのいる写真部は、文芸部部室より更に上の階にいる。三回ノックすると、ぬっと写真部の先輩であろうお兄さんとKさんが出てきた。
1年3人が、直近の事件で思った感想としては、あいつらはダメだということだった。3年生がいる時も酷かったが、まだ3年生がなんとか喧嘩や議論をおさめていた。でも、今は2年の代。やりたい放題なのだ。もうストッパーはいない。ぼくらはあくまで後輩だし、変に口を出せば火に油を注ぐこともあるだろう。
「もうこの三人で変えてくしかないな」
とKさん。「そうやな」とぼくら。Kさんはあまり部室に来ないので、その間にあった事件を説明して、3人で苦笑いやため息のオンパレード。
「まあ私らの代になるまでの辛抱や。私らの代になってまだ出しゃばってたらぶっ潰そう。それまではなんとか耐えよう」
ということで、3人は結束した。引退した現3年のように、秋以降は部室に来ないようにしてもらうしかない。それまでは我慢。ぼくも同意見だ。無理やり追い出すっていうのも難しいし、無理な話だ。
部室では最近、展示会の話で持ちきりになっている。締め切りが決まりはじめたり、なんだか慌ただしい日々だ。
ぼくは一応副幹事という役職についたし、2年秋からは幹事になる。それもあって、少しずつ文芸部を変えたいと思っていた。
春祭や秋祭を思い出すと、手作りの部誌ゆえのメリットよりもデメリットが勝っていた。何にでも映えが意識される時代では、受け入れがたいデザインにも思う。
まして、合同展示会では各大学の部誌が並ぶ。他大学の学祭でわかったことだが、少なくともぼくが行った大学は全て製本所に頼んで「本」の形をした部誌を配っていた。
ちなみに夏に参加させてもらったK大学の学園祭にもこの前多田師とお邪魔したのだが、文芸喫茶という名前で、喫茶店を模したブースに、不思議な名前の飲み物と部誌が売っていた。飲み物と部誌を購入し、じっくり読んだけれど、面白かった。本当にK大学の小説は自由だ。中には自由すぎて、思わず笑ってしまった小説もあったけれど。(内容がグロいエロいえぐいの欲張りセット。エロは少なめ)
K大学の部誌も製本所に頼んで作ったものだったので、かかった費用を訊ねてみた。そしたら意外と安くて、うちでも予算的には問題ないと思った。
というわけで、ぼくはホワイトボード前に立ち、製本するの良くないですか?手作りだとデザイン的にダサいっすよ(笑)、他大学どこもしっかりした本ですよと言ってみた。先輩たちも特に異論なく「いいね」「そうだね」とのことだったので安心した。謎の手作りへの執着を見せられたら、また変な議論にならないかちょっと不安だった。(カザマ先輩はうーん……って言ってたけど、彼は何をしても何を言っても初見はこの反応しか示さないことが全員わかっているので全員で無視)(だから議論や喧嘩になるんだよガソリン男め!)
それから冬が来て、年明けくらいには新しい部誌に載せる小説を書き上げる決まりになった。
ぼくは純文学に挑戦することを決めた。
多田師はあの時ぼくに見せてくれた小説を出すのだそう。
多田師にミステリーは書かない旨を伝えると、「まあ頑張れ」と短く励ましてくれたので、早速純文学の執筆に取り掛かる。
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