第151話 これぞ真の超越級冒険者


《烈風》と《灼華》のリーダーは、即座に指示を出す。


「リック、兎に角奴の全身を斬りまくれ! カズネ、お前の最大火力を叩き込めるように詠唱を始めて、俺の合図でいつでも放てるように待機! 俺は奴の意識を集中させる!!」


「「了解!」」


 ガンツが自身のパーティメンバーに指示を出す。

 ギガンテスとの対戦経験は一回しかないが、その一回の経験を活かして素早い指示を出した。


 そして――


「俺達も《烈風》に負けてられねぇな!! アルフォンスぅ、ガンツと一緒に敵視を引き付けな! エンデは俺と一緒に全力で攻撃するぞ!! トルバランは《ダブルスペル》で最大火力の魔法を準備!! 放つタイミングはカズネって娘と同時だ!!」


「「「あいよ!!」」」


 ディブロウスも的確な指示を出す。

《烈風》をライバル視しているが、別に嫌っている訳ではない。

 認めているからこそ、目標としてライバル視しているのである。

 故にパーティ間の仲は決して悪くなく、時に一緒に依頼をこなしたりもするので、連携はお手の物だった。


「なら、先手は盾役タンクが貰おう。おらデカブツ、俺を見ろ」


「吾輩も共に行くぞ。ぬあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 盾役タンクのガンツとアルフォンスが、ギガンテスの足元に潜り込んで足の脛に自身の得物を叩き込む。

 しかし流石はギガンテス、皮膚が強固で少ししか傷を与えられなかった。

 が、ギガンテスにとって敵視を集めるには丁度良い攻撃だった。


 ギガンテスが怒りの咆哮をボス部屋内に響かせる。

 耳の鼓膜を突き破る位の大気の震えに、巨人にとってちっぽけな人間だったら足を止めてしまうであろう。

 そんな矮小な人間の中でも、目の前に対峙している人間達は《ステイタス》によって既に人外の域にいる《超越級》冒険者だ。

 この程度の咆哮に対する心構えや対処は習得済みである。


「うっさいんだよ、木偶の坊」


《烈風》の超神速攻撃役スピードアタッカーであるリックは、ギガンテスの背後に回って首辺りまで高く跳躍、そしてナイフを首に突き立てる。

 が、小柄故に体重も軽く、そこまで重い一撃を放てない彼の攻撃は、切っ先がほんの少ししかギガンテスの皮膚に食い込ませる事が出来ず、有効打にはならなかった。

 それでもリックは諦めずにギガンテスに攻撃を与え続ける。

 彼のスキルである《バックスタブ》と《急所攻撃》の効果が発揮され、深くはないが傷を確実に与えていた。


 更に――


「《スピンスラッシュ》!!」


 エンデは、盾役タンクの二人が傷をつけた脛目掛けて、全力の《スピンスラッシュ》を叩き込む。

 丁度アルフォンスが付けた傷の所にエンデの攻撃が命中したので、脚の骨まで傷を深くする事に成功した。


 だが、ギガンテスはその傷すらも瞬時に回復していく。

 リックが頑張って付けた傷はあっという間に塞がり、エンデが与えた深い傷すら、既に塞がり始めている。


「ちっ」


 ガンツが舌打ちをする。

 それと同時に、ギガンテスが太い腕を天に掲げ、そのまま足元にいるガンツ、アルフォンス、エンデに向かって振り下ろす。

 まるで大岩が自分達に向かって落ちてきているようだ。

 しかし彼等は引かない。

 何故なら、職業を得て相当なパワーアップを果たしているから。


「おおおおおおっ!! 《パリィ》!!」


 ガンツがなんと、自身の大剣を使い、ギガンテスの太い腕を弾いたのだ。

 流石戦車戦士タンカーという職業の名に相応しく、ギガンテスのパワーに負けていなかった。

 しかもただの《パリィ》ではない。

 タイミングよく《パリィ》になったので、《ジャストパリィ》となっていた為、巨人の腕すらも弾く事が出来たのである。

 あまりにも重い一撃だったので足が地面に多少めり込んだが、問題はない。

 隙だらけになったギガンテスに対して、更にスキルを叩き込む。


「《パリィカウンター》!!」


 大剣を横に薙ぐ。

 初手の攻撃より威力があるカウンターは、ギガンテスの強固な皮膚を切り裂き、脚の骨に到達して骨に少し切れ込みを入れられた。


「今だ、ディブロウス、アルフォンスにエンデ! 俺が与えた傷を中心に攻撃を叩き込め!」


「おっしゃ! 《神速三段突き》ぃ!!」


「吾輩の《アックスボンバー》を食らえ!!」


「おおおおおっ、《パワースラッシュ》!!」


 ディブロウスの眼にも止まらぬ超神速から放たれる鋭い三段突きで、ギガンテスの脛付近の肉を抉り、アルフォンスの全力の《アックスボンバー》が骨を断ち、とどめにエンデの《パワースラッシュ》が足を切断した。

 片足の脛から下を断たれたギガンテスはバランスを失い、そのまま地面に倒れ込む。

 何とか起き上がろうとするが――


「もう少し寝てようね」


 リックがギガンテスの一つ目にナイフを深く突き立てる。

 いくら再生能力があるといっても、痛みを和らげる効果はない為、ギガンテスは両手で目を抑えて痛がりのたうち回った。

 だが人間では致命傷だが、ギガンテスにとっては目であろうと十秒もあれば完治する。

 切断した足すら、一分程度で新しい足が生えてきて、元通りになるだろう。

 なら、今こそ最大火力を叩き込む場面だ。


「カズネ、トルバラン。今だ、叩き込め!!」


 ガンツが指示を出し、前衛組は後方に跳んでギガンテスから離れる。


「行きます。《渇望の果ての虚無カオティック・ヴォイド》」


「私はそこまでの大技は放てませんから、これで。《ダブルエクスプロージョン》」


 カズネは《無限の渇望者 ル=ディナ・ン》の力を借りて放てる、最高クラスの魔法である《渇望の果ての虚無カオティック・ヴォイド》を。

 トルバランは《ダブルスペル》のスキルを活用して、《爆炎の拳 ガウル=ディエ・ボラァ》の力を借りて放てる《エクスプロージョン》を両手から放つ。


渇望の果ての虚無カオティック・ヴォイド》は、敵の部位をランダムで無くすという大技だ。

 無くす部位は《無限の渇望者 ル=ディナ・ン》の気まぐれによって決まるのだが、今回はギガンテスの腹部だった。

 ギガンテスの腹に何の前触れもなく、綺麗な円形の風穴が空く。

 ギガンテス本人も急な激しい痛みに戸惑っているようだ。

 そこに追撃と言わんばかりに襲ってくる、灼熱の爆撃が二つ。

 

《エクスプロージョン》はギガンテスの皮膚を焼き、傷口から体内もしっかりと焼いて行く。

 流石に体内も焼かれてはギガンテスもたまったものではない。

 巨人の断末魔が響き渡る。

 二つの灼熱の爆撃は、巨人を容赦なく焼いていき、ついには再生能力を司る脳を沸騰させ焼き尽くした。

 本来一番強度の高い頭蓋骨で守られている脳は、物理攻撃に対しては滅法強いのだが、ここまで遠慮ない魔法だと一溜りもない。


 こうしてギガンテスは、一回の攻撃だけして蹂躙され、死んだ。


 そしてリュートを含めた《烈風》《灼華》メンバー以外は思い知った。

 これが、これこそが、真の《超越級》冒険者の実力なのだ、と。

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