第150話 悪質なタイムアタックに聳え立つ巨人鬼


「くそっ、ふざけやがって!!」


 そう吐き捨てたのは、ショウマだった。

 元の世界に帰る事が出来る可能性があるボスまで、もう少しという所でのルール変更。

 しかも半日を過ぎてしまったらカズキか《ジャパニーズ》のどちらかしか、元の世界への帰還が出来ないというものだ。

 ショウマは我慢出来ずに、硬いダンジョンの地面に拳を叩きつける。

 リョウコは目を潤ませて泣く一歩手前だ。

 チエも下を向いて小刻みに震えており、タツオミはそんな彼女の肩を抱く。

 カズキも拳を強く握り締め、あまりの理不尽に怒りを抑えているような感じだ。


 そして当然ながらここからは休憩なしでボス部屋まで行かないといけないのだ、かなり厳しいタイムアタックになる事は容易に想像出来た。

 恐らくここの中ボスを倒したとして、以降の階層は更に強力な魔物が跋扈しているだろう。

 なのに中ボスを含めた半日でボス部屋に辿り着かないとタイムオーバー、とてもじゃないが現実的じゃない。


――これは、無理かもしれない。


 元の世界に帰りたい五人は、心が折れかけていた。

 五人を手助けしてきたガンツ達も諦めムードを漂わせている。


 ただ、一人を除いて。


「ほら、さっさと中ボス倒してくるだよ、ガンツ」


 リュートだった。

 彼の燃えるような赤い瞳は、光を失うどころか更にギラついているように見える。


「何諦めてるだよ、まだ半日もあるべ。落ち込んでる暇さあるなら、ちゃっちゃと中ボス処理してけろ」


 リュートは力一杯ガンツの広い背中を平手で叩く。


「だが、流石に――」


「だがもしかしも、やって間に合わなかったら言え。今まで以上に力出せば、オラ達なら余裕だべさ」


 リュートはもう一度ガンツの背中を叩く。


「……そうだな。よし、皆! ここでうだうだ言っても仕方ない、更にペースを上げて攻略していくぞ。いいな!?」


 ガンツの問いに、リュート以外の面々は弱々しく頷く。

 仕方ない、半日でボス部屋まで攻略するというのは、かなり非現実的なのだから。

 だが、やるしかない。

 やらなかったら、既に仲間と認識している《ジャパニーズ》達と、職業という強力な力をくれたカズキに対して恩返しが出来ない。


「お前達っ!! 彼等を元の世界へ帰す事を条件で職業という力を得たんだろう!! まだ可能性がある中で諦めてどうする!? ただ力を貰ってはいお終いで良い訳ないだろう!! だったらうじうじするのは後にして、さっさと悪辣な超常的存在をぶっ殺しに行くぞ!」


 ガンツが皆に向かって怒鳴る。

 そこでようやく落ち込んでいた面々は顔を上げ、「そうだな」と気持ちを切り替える事が出来た。


「よし、良い面に戻ったな。じゃあディブロウス、久々に俺達二つのパーティで大暴れしてやろうじゃないか」


「いいぜ、ガンツ! だが、活躍するのは俺だぜ!」


 ガンツとディブロウスが拳をぶつけ合い、ウィンドウに表示された《烈風》と《灼華》の文字を指先でタッチする。

 その瞬間にタツオミは事前に取り出したスマホのタイマーを起動させる。

 

「さぁ、門を開くぞ!」


 重厚な扉を男性陣で押して開ける。

 ゴゴゴと音を立て、ゆっくりと扉が開き、ついに最後にする予定の中ボスの姿が現れた。


「……マジかよ、《巨人鬼ギガンテス》じゃないか」


 広い空間に仁王立ちしていたのは、オーガよりも更に巨大な一つ目の鬼、ギガンテスであった。

 小さい個体でも体長十メートルミューラもあるというこの巨人は、討伐難易度はSに相当している。

 勿論その巨体も倒しにくい理由なのだが、更に厄介なのは再生能力にある。

 ギガンテスは切り傷程度なら十秒も掛からずに塞いで完治してしまう。

 その為、これを攻略する際は、深い傷を負わせられる重い一撃を見舞わなければならない。

 そして再生させる暇を与えず、攻撃し続ける事も重要だ。

 だが、ギガンテスは動きに関しては見た目通り俊敏性がないのだが、見た目通り一撃が即死級である。

 ギガンテスの攻撃を一撃も喰らわずに懐に入り、死ぬまで袋叩きにしなくてはいけないのだ。


「……ちっ、これはまぁ厄介な敵だぜ」


 ディブロウスは悪態をつく。

 しかし闘志は失われていない。

 他の面子も大丈夫なようだ。


「とにかくやるしかない。皆、行くぞ!!」


 効率良くギガンテスを狩る戦いが、始まった。


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