第147話 畳みかけろ!


 ミスリルは高温の炎に焼かれると、鉄と同様に溶ける性質を持っている。

 ただし、それは通常の炎・・・・での話。

 魔法での炎がいくら温度が高くても、原理は不明だが魔法耐性の方が優位となって何故か溶けにくい。

 世の学者達も頭を悩ませており、様々な仮説が出ているが実証は出来ていないようだ。


 さて、数千度を超える《終焉の炎ブレイズエンド》をまともに喰らったミスリルゴーレムはどうなったのか。

 正解は、軽く赤熱化する、である。

 炎が無くなり、爆心地にいたゴーレムの姿が見えた。

 姿は一切崩れておらず、核にダメージは行っていない。

 しかし所々小さく赤くなっている箇所があり、ダメージは通っていないが温度はしっかりミスリルに影響を及ぼしていた。


「皆、赤くなっている所を攻撃して! 僕は次の魔法を用意する!!」


「わかった、ニーナ! 《闘争か逃走かファイト・オア・フライト》を俺とエリーに頼む!!」


「もう詠唱は済んでおりますわ!! ストック解除! 《デュアル闘争か逃走かファイト・オア・フライト》!」


 ヨシュアの指示にハリーが了承し、更なる指示をニーナに出す。

闘争か逃走かファイト・オア・フライト》は戦天使 《ラーファイール・エル=ザンハ》の力を借りて発動する魔法の一つで、対象者の武器に対して祝福のオーラを纏わせる。

 すると、武器の消耗を極限に抑え、且つ切れ味も増す。

 効果時間は約一分。

 実はニーナは《ジャパニーズ》のリョウコの力を借りて、時間の概念を頭と体に叩き込んだ為、効果時間を誤差一秒程度まで図る事が出来るようになっていた。


「効果時間は私にお任せくださいまし。気にせず攻撃なさって!!」


「ありがとう!!」


 ハリーの大剣が白銀のようなオーラに包まれる。

 エリーの短剣も同様だ。

 しっかりと《闘争か逃走かファイト・オア・フライト》が発動した証拠である。


「エリーは上半身を狙え! 俺は下半身の赤い所を叩く!!」


「りょーかい!」


 エリーが赤熱状態の上半身の箇所に短剣で斬り込んでいく。

 効果は薄いものの、ほんの少し切れ込みが入った。

 ゴーレムもこれはたまったものではなく、何とかエリーを迎撃しようとするが、身軽なエリーはひょいひょい避ける。

 その間、ハリーは腕に力こぶを作る程に力を溜め、渾身の横薙ぎを赤熱化しているゴーレムの脛に叩き込む。

 空気を切り裂く鋭い渾身の一撃だったのだが、刃が通ったのは敵の脚の太さに対して約四分の一程度。

 だが、通常攻撃をしても弾かれるだけだったので、大きな進歩である。


「よし、ヨシュア! 次のを叩き込んで――」


「ハリー!!」


 ハリーが次の魔法の催促をしている最中の事だった。

 ニーナが叫ぶ。

 痛覚がないゴーレムは、ハリーの攻撃に怯む事無く足を上げ、足裏を力一杯地面に叩き込む。

 すると地震が起きたかのように地面が揺れると同時に、地面が割れて礫が飛び散る。

 足に近かったハリーは、無数に飛び散る礫を全身に浴びてしまう事になる。


「がぁぁぁぁぁぁっ!?」


 身体の所々に礫の破片が突き刺さってしまうが、流石ハリー、急所である顔面を瞬時に腕で守る事に成功する。

 しかし代償は大きく、腕に大きな礫が勢いよく当たり、腕の骨を容赦なく折る。


「ハリーっ、今治療しますわ!! エリーはそのままゴーレムを引き付けてくださいまし!! 私は治療を行います!! ヨシュアは詠唱の続きを!」


 ハリーが骨折の痛みでうずくまって指示が出せない状態になったが、即座にニーナが副リーダーとして咄嗟に皆に指示を出す。


「《偉大なる癒しの天使よ、美しき生命の天使よ。傷付き倒れた戦士に最大の癒しを。名は息吹、役は治癒》詠唱完了! いきます、《癒しの息吹ヒール・ブレス》!」


 ニーナは癒しの天使とされる《ララァフェス・オブ=デュラハ》の力を借りて、表面の傷というより骨折や内臓破損等、体内の裂傷・状態異常に絶大な効果がある《癒しの息吹ヒール・ブレス》を発動した。

 表面の傷よりまずは骨折を治療する方が優先だと判断したのだ。

 曲がってはいけない方向に曲がっていた腕は、みるみると真っすぐとなっていき、やがて正常な腕に戻る。

 だがニーナは更に詠唱を始める。


「《嗚呼、麗しの天使様。どうか勇ましいつわものにどうか癒しの息吹をお与えくださいませ》」

 

 そして《ラーファイール・エル=ザンハ》の外傷を治療できる魔法の《麗しき癒しの息吹ホーリーヒール》を発動。

 どうやらハリーの戦い方をある程度気に入ってくれたようで、回復効果は通常より気持ち高くなっていた。

 突き刺さっていた礫の破片は皮膚からぽろりと落ち、傷は小さくなる程度には塞がっていた。


「すまない、ニーナ。面倒を掛けた」


「いいえ、これが私の役目ですわ。その代わりしっかりと奴を倒してくださいまし!」


「ああ。ヨシュア!!」


「あいよ! すっごいの一発お見舞いするけど、暫く魔力は売り切れになるから守ってね!!」


 ヨシュアは目を瞑り、詠唱に集中する。


「《我焦がれる、無限に続く焦熱を。其の抱擁は、汝に業火の城の中で永久とわに続く儚い安息を与えよう》」


 彼の身体から魔力が噴出される。

 それは熱を帯びており、肌が焼かれるようだ。

 詠唱はまだ続く。


「《汝に許可しよう、業火の城の主となる事を。灼熱の玉座に座して悦に浸りて燃え尽きよ》」


 これこそ、《全能なる炎 エイリ・ラク=ザーン》の力を借りて放てる炎系最大火力の魔法。

 その名も――


「エリー、避けて!! 《太陽の城キャッスル・オブ・ザ・サン》!!」


 エリーが後方へ大きく跳び下がると同時に、魔法が発動。

 ゴーレムの全身が球体の炎に包まれる。

 直後、炎の内側からは何度も爆発音が響く。

 それもその筈、球体の炎の中では何度も核爆発が起きている。

 球体の炎はまさしく超高温で超威力の爆発を封じ込めた城なのだ。

 中心にいるゴーレムは今、その地獄のような城の主となっているのだ。

 

「ぐ、ぐぅぅぅぅぅっ」


 ヨシュアは高温と爆発によって周囲に被害が出ないように、自身の魔力で必死になって抑え込んでいる。

 魔力によって《太陽の城キャッスル・オブ・ザ・サン》を更にコーティングし、辛うじて周囲の人間に熱や爆発の衝撃が行かないように出来ている。

 そんな状況が一分程続くと、《太陽の城キャッスル・オブ・ザ・サン》は弾けたように解除される。

 中にいたゴーレムはというと、いくら魔法耐性が高いとは言え地獄の城の主として長く留まれなかったようだ。

 身体のあちこちが大きく赤熱化しており、何なら体表にひびすら入っている。

 好機なり!


「全員、畳みかけろぉぉぉぉ!!」


 ハリーの怒号が響いた。

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