第146話 ミスリルゴーレム


 ガンツはウィンドウを操作し、《竜槍穿りゅうそうせん》にタッチした。

竜槍穿りゅうそうせん》以外のメンバーが入れないように、足元から光のカーテンが出て来て、手助けが出来ないように分断される。


「……さて、俺達の相手はまさかまさかのミスリルゴーレムか」


 リーダーのハリーの目の前に立ちはだかるのは、ミスリル鉱石を身に纏った巨人であるミスリルゴーレムだった。

 ミスリルは魔法銀と呼ばれており、魔法等に耐性が強い性質を持っている。

 つまり全くではないのだが魔法が効きにくくなる為、冒険者達の中でもミスリル装備を好む者が多いのだ。

 そしてゴーレムは身体の中心に魔力が凝縮されて出来た核が存在しており、これが心臓でもあり頭脳でもある魔物だ。

 この核が生まれた際に最も近くにある固い物質を引き寄せ、人型の巨人へと形成する。

 そうして生まれるのがゴーレム種と呼ばれる魔物である。

 木を取り込めばウッドゴーレム、泥を取り込めばマッドゴーレム、鉄を取り込めばアイアンゴーレムとなる。

 そしてミスリルを取り込んだこのゴーレムは、魔法耐性と強固な硬さを手に入れた非常に厄介なゴーレムだ。

 物理攻撃も通りにくく、魔法も通りにくいとか、厄介という言葉を体現している存在なのだ。


「これは……骨が折れるねぇ」


 破壊魔法使いデストロイヤーの職業を得て魔法の威力が格段に向上したヨシュアも、流石の相手に顔が引きつる。


「私の攻撃、通らないかも……」


 主に斥候がメインのエリーの装備は短剣である。

 これは囮役になるしかないかもしれない、と覚悟を決める。


「皆さんの補助はわたくしにお任せくださいませ」


 天使崇拝者アコライトで回復・補助特化となったニーナは、怯まずに真っすぐ敵を見据えている。

 負けるつもりは一切無いようだ。

 貴族出身でありながら、挫けない心を持つ高貴な彼女を見て、元々片思いをしているハリーは再度惚れ直す。


「ありがとう、ニーナ。そうだな、お前補助と回復があれば俺達は絶対に負けない!」


 ハリーは剣先をミスリルゴーレムに向ける。


「《竜槍穿りゅうそうせん》、行くぞ!!」


『応!!』


 ハリーを先頭に、ゴーレムに向かって走り出す《竜槍穿りゅうそうせん》。

 ミスリルゴーレムは拳を作って迎え撃つ。


「攻撃が来るぞ、散開!!」


 五メートルミューラはあるであろう、青白い光を放つ巨人は巨体に見合わぬ鋭さで拳を振り下ろす。

竜槍穿りゅうそうせん》が避けた事で拳と地面がぶつかり、地響きを立てながら地面が粉砕される。

 同時に地面の細かい破片が周囲に飛び散り、ハリー達の肌を掠めて細かい傷を作る。


「ちっ、もう少し避けないと地面の破片で怪我を負うか! ヨシュア、通る通らないは無視していいから、威力の高い魔法をぶっ放せ!」


「了解!」


 ハリーはヨシュアに魔法を使用するように指示を出しつつ、試しに渾身の力で大剣を振って攻撃を仕掛ける。

 しかし、金属がぶつかり合う鼓膜を刺激する金属音が鳴り響き、渾身の一撃は弾き返されてしまう。


「くっ」


 ハリーの手に衝撃が伝わり、痺れてしまう。


「ハリー、受け取ってくださいませ! 《戦天使の息吹ファイトブレッシング》!」


 ニーナは予め詠唱が完了した補助魔法である《戦天使の息吹ファイトブレッシング》を、ハリーに対して発動した。

戦天使の息吹ファイトブレッシング》は、戦いを司る天使 《ファイナ・デム=ラージュ》の力を借りて発動する魔法で、対象者に約三分程の筋力大幅上昇を付与するものだ。

 この魔法を受けた者は体表が赤い光の膜に覆われ、包み込まれる。

 この光が消えると、効果が切れたという知らせになるのだ。


「助かるニーナ! おおおおおおおっ!!」


 自身の身体が赤い光に包まれた事を確認したハリーは、もう一度攻撃を仕掛ける。

 すると同様に弾かれたのだが、ミスリルゴーレムの体表にうっすらと傷を残す事に成功した。

 しかし同時に大剣の刃が少し欠けてしまう。


「これじゃ武器が壊れてしまうな。ニーナ!」


「わかっておりますわ! 詠唱に時間が掛かるので、暫くお待ちくださいませ!」


「んじゃ、私が囮になって時間稼ぎをするよ!」


 エリーがゴーレムの視界に入り、攻撃を始める。

 勿論短剣の攻撃はダメージが通っていないが、ゴーレムからしたら鬱陶しい羽虫のように思えて敵視をハリーからエリーに向ける。


「ほら、鬼さんこちら!!」


 地面を抉るように地面すれすれで放たれるゴーレムのボディブローのようなものは、エリーの身体に狙いを定めている。

 非常に鋭い攻撃だが、身軽さで上回っているエリーにとっては回避は容易であった。

 が――


「ほいっと――わきゃっ!」


 ゴーレムが放つ攻撃は大気を切り裂き、衝撃を生む。

 余裕を以て回避したのに発生した風に、体重が軽いエリーの身体は巻き込まれて吹き飛ぶ。

 空中で錐もみ状態となり、視界が激しく回転して最早地面や壁が正しく把握できない。


(やば、このままだ地面か壁に身体をぶつけちゃうっ)


 大ダメージを覚悟したエリーだったが、彼女の耳にとある人物の言葉が聞こえた。


「エリーっ!」


 愛しのリュートだ。

 彼に格好悪い姿を見せたくないエリーは、空中で身体を大の字にして空気抵抗を作り、錐もみ状態を解除。

 そして冷静に自身の状況を確認した後、空中で体勢を立て直して無事に脚で地面に着地する。

 直後に地面を蹴って再びゴーレムに向かって走り出す。

 ゴーレムもそれに気付き、再びエリーに敵視を向ける。

 今度はゴーレムの足元に潜り込み、ミスリルで出来た太い足に対して短剣で攻撃を加える。

 勿論ダメージは通っていないが、ゴーレムからしたら鬱陶しい事この上ない。

 ゴーレムは足を上げて踏み潰そうとするが、予備動作が大きい為に身軽なエリーからしたら余裕で回避できる。

 が、衝撃が地面を揺るがす。

 普通ならまるで地震が起きたかのような衝撃に怯んでしまうが、エリーはそれすら読み切っていた。

 エリーはゴーレムの脚を使って壁蹴りをし、空中に逃げていた。

 そして、ゴーレムに向かって――


「あっかんべーっだ!」


 挑発をする。

 今、彼女は回避盾役タンクとして役割を担っていた。

 ここまでコケにされたら、ゴーレムも彼女を無視する事は出来ない。

 むきになってゴーレムは何としても一撃を加えようとエリーに攻撃を仕掛けるが、エリーはまるでサーカス団の一員のような身軽さでひょいひょい避ける。

 

 しかし、ここでイレギュラーが発生する。

 ゴーレムの拳が地面とぶつかり合い炸裂した際、大きな礫が不幸にもエリーの腹部に直撃する。


「かふっ」


 突然の痛みにその場でうずくまってしまう。

 これを見たゴーレムは、学習してしまう。

 エリーのような動きが身軽な人間に対しては、地面を攻撃してその破片を飛ばすのが意外に有効だ、と。

 ゴーレムだからこそ出来る、ある種の範囲攻撃だ。

 エリー、絶体絶命のピンチ。

 だがその時である。


「お待たせ! 熱を周囲じゃなくて上に逃がすように調整した《終焉の炎ブレイズエンド》だよ! たっぷり堪能して頂戴!」


 ヨシュアがついに魔法を放つ。

 本来は周囲を巻き込んで所構わず焼き尽くす魔法だが、卓越した魔力操作によって魔法の効果を改変。

終焉の炎ブレイズエンド》は周囲を巻き込む爆裂魔法ではなく、威力はそのままの、まるで炎の剣を思わせるような火柱となる。

 ミスリルゴーレムは、火柱の中心で焼かれる事となった。

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