第145話 竜槍穿、出る
第三十階層の中ボスを無事に撃破し、一行は順調にダンジョンの階層をクリアしていく。
道中の魔物はゴブリンチャンピオンやハイオーク、挙句の果てには白いオーガ等大型種が増えてきていた。
手強くなってきているように感じるが、逆に単独で徘徊している事が多くなっており、数が減った分殲滅速度は上がっていた。
更に単独徘徊のおかげで《ジャパニーズ》の
装備品も更新されたおかげで単純に火力が増しており、快適に攻略が進んできている。
カズキはたまに《ジャパニーズ》の鑑定をして《ステイタス》を確認しているが、現在
これで少しは勝算が増したようにも思える。
それに心なしか《ステイタス》に関係なく、ショウマの剣の腕が良くなっているようにも感じた。
これは職業が身体に馴染んだせいなのか、はたまた本人自身の技量が成長しているかは不明ではあるが、無駄の無い動きになっているのがわかる。
(……元の世界へ帰れる。もしかしたら本当に実現するかもしれない)
カズキは心の中で希望が見え始めた事に喜びを隠せないでいた。
後はより確実なものとする為に、《ジャパニーズ》の面々を可能な限り強化しなければ。
カズキ自身の
恐らく八十台になると、一つ
ならば、自分自身を強化するよりかは、このダンジョンで伸び代がある《ジャパニーズ》達を育てた方が効率的で確実だろう。
本人達にとっては非常に厳しいかもしれないが、これも元の世界に帰る為である。我慢をして貰うしかない。
しかし、ショウマ達もこの苦行に関しては文句ひとつも言わずに、高いモチベーションを保ってこなしていた。
彼等も自分達の世界に帰りたい一心で、自身の強化に専念しているからだ。
この世界において大切な仲間や友達は出来た。
だが、やはり自分達の世界の方が、こんな命が軽い世界より何万倍も好きなのだ。
それに大切な家族の元に帰りたい。
「おおおおおおおおおおおおっ!!」
ショウマが叫ぶ。
この世界に来てからずっと願っていたものが、もうすぐ叶う可能性がある。
ショウマは覚悟を決め、気合の雄叫びを上げて剣を振るう。
「はぁぁぁぁぁぁあああああっ!!」
殺生が嫌いな心優しき少女だったリョウコも叫ぶ。
好きになった男と共に、元の世界に帰る為に魔物を殺す。
《念動力》で短剣を操り、確実に敵の命を散らしていく。
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」
あまり運動が得意でない頭脳派のタツオミも、今では剣を握って魔物を屠っていく。
その目には決意が宿っており、この世界で結ばれたチエと一緒に元の世界で暮らす為に、我武者羅に剣を振るう。
「っっっっっっっっ!!」
物静かなチエは、小声で詠唱しては魔法を敵に当てて灰に変えていく。
タツオミと添い遂げる為、そしてこの血生臭い異世界から一秒でも早く脱却する為に、チエも全力で魔法を放っていく。
四人の気迫たるや鬼気迫るものがある。
しかし、あまりにも視野が狭くなっているせいか、彼等は気が付いていない。
何度か死角から現れた魔物を、リュートがさりげなく処分している事を。
リュートは常に周囲を探っており、《ジャパニーズ》達が気付いていなさそうで、バックアタックを仕掛けられそうな状況のみ限定で素早く矢を射って、たった一射で確実に仕留めていた。
斥候のエリーも気が付いているのだが、遠距離攻撃の手段を持っていない為、どうしてもリュートよりも初手で出遅れてしまっている。
いや、リュートの感覚があまりにも鋭く、そして判断力・決断力が速過ぎて付いて行けていないのだ。
(リュート、早すぎるよぉぉ!!)
いい所を見せたいエリーだが、残念ながらそれは叶わず。
彼のハイスペックぶりに、ただただ驚くしかなかった。
更に驚愕なのが、リュートはなるべく矢が損耗しないように、敵の骨の柔らかい箇所を的確に狙っている点だろう。
例えばこめかみや肋骨の間をすり抜けて心臓を貫いたり等。
こうする事で鏃が欠けたりしないので、矢を再利用出来るのだ。
リュートは慣れた手付きで素早く魔物の死体から、刺さった矢を回収して血を振り払い、使えるかどうかを瞬時に判断して矢筒に仕舞う。
クロスボウ等の弓系統の武器を使う人間なら、リュートのこの行動の人間離れした異常性は瞬時に分かるが、近接専門の人間からしたら非常に効率悪いなと感じてしまう。
人によっては評価されないけれど、地味に凄まじい技術である。
そしてついに四十階層へ到着した。
タツオミが時間を確認すると、現在十八時。
予定よりも早く中ボスの部屋に辿り着く事が出来た。
《ジャパニーズ》の面々はノンストップでここまで来たので、その場でへたり込んで動けなくなっている。
「よくやった、《ジャパニーズ》の皆! 随分と予定より早く到着したので、今回はこのままボス戦へと移りたいと思う」
ここまで頑張った《ジャパニーズ》は、ボス戦においてはゆっくり休める為、ダンジョン攻略時のリーダーであるガンツはこのまま中ボスとの戦いへ移ると宣言したのだった。
彼の言葉を聞き、一人の男が前に出る。
ハリーだ。
「では、ここの中ボスは俺達 《
「……成程。等級で見たら君達が低いからか」
「ああ。それにこのダンジョンは五十階層以上六十階層未満。だが、六十階層に届く可能性がある。もし六十階層までこのダンジョンが成長していた場合、《超越級》である《灼華》か《烈風》のどちらかが残っていた方がいいだろう」
このまま順調に六十階層未満だった場合、一つパーティが余った状態で最奥に辿り着ける形となる。
もし六十階層までダンジョンが成長していた場合、《超越級》が残っていた方が確実性は遥かに増すだろう。
後は七十階層まで成長していない事を祈るしかないのだが……。
「ふむ、そういう事か。わかった、《
「ありがとう」
異世界の友人達の悲願を達成する為に、《
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