第143話 嗤うウォーバキン


 この状況で、ウォーバキンは嗤っていた。

 まるで血に飢えた狼のような、犬歯をむき出しにしてこの状況を楽しんでいるようだ。


「う、ウォー?」


 何故嗤えるのか?

 ずっと傍にいたカルラですら、今のウォーバキンの心境は理解できなかった。

 それもその筈、ウォーバキンは皆に内緒で、こんな状況での対処方法を既に会得していたからだ。


 ゴブリンチャンピオンはそんな事も当然知る由もなく、三匹の内一匹がニタニタと勝利を確信した、醜い笑顔を浮かべながら近寄ってくる。

 他の二匹も今から始まる蹂躙劇を妄想し、気持ち悪く笑っている。


「皆、あのチャンピオンはオレ様が貰うぜ!」


 そう言って、ウォーバキンは得物を構えてチャンピオンに突進する。

 しかし、ただ走っているのではない。

 転がっているゴブリン達の死体を足場のように踏みつけて進んでいるのだ。

 走り回って死体に足を取られるなら、最初から踏み場として認識して利用すればいい。

 攻撃に意識を回しつつ、足元にも少し意識をくれてやる事で、転倒を防止していたのだ。

 これには流石のチャンピオン達も、キングも驚きを隠せない。

 そして向かってくるチャンピオンから一番近いゴブリンの死体を踏み越えた直後、体勢を低くして地面を蹴って突進する。

 驚き怯んでいたチャンピオンは対処に遅れてしまい、ウォーバキンに足元を潜られるという失態を犯す。

 これが、致命的なミスとなる。


「喰らえ、《超・破斬》!!」


 ウォーバキンはチャンピオンの大きな左脛にスキルである《超・破斬》を放つ。

 本来これは真空刃を飛ばす遠距離スキルなのだが、敢えて接近戦で放つ事で、真空刃と斬撃の二種類の攻撃を同時に当てる事が出来るのだ。

 真空刃と斬撃は骨を断ち、左足を真っ二つに斬り落とす。

 耳を塞ぎたくなる程の醜い悲鳴を上げながら、チャンピオンはうつぶせに倒れ込む。

 更に運がいい事に、スキル《急所斬り》が発動。

 チャンピオンの首筋に横に光が見えた。

 確実に殺す事が出来る急所がはっきりと視認出来た、後は光の線を正確に剣でなぞるだけ。

 勝機だ。


「《真っ向両断》!!」


 振り下ろしの斬撃の威力を高めるスキル《真っ向両断》を使用し、切れ味が増したウォーバキンの攻撃は、容易く太いチャンピオンの首を両断する。

 さながら斬首刑を務める処刑人のようだ。


「へっ、まぁ随分とお粗末な策を披露してくれたなぁ? まぁ、ゴブリンにしちゃぁ上出来じゃねぇの?」


 剣を振って血糊を払うと、ウォーバキンは馬鹿にしたような笑顔をゴブリンキングに向けて言い放つ。

 内心「あんたもゴブリン並みに馬鹿だけどね」と呆れたカルラだったが、こと戦闘においては非常に頭が回る。

 彼の思考は、全て戦闘関連にリソースを回しているのだ。


「レイリ、オレ様の真似位ちょちょっと出来るだろう?」


「……ああ、これ位ならすぐに出来る」


「んじゃ、左のチャンピオンはくれてやるから、しっかり仕留めな! オレ様は右を貰う!!」


「承知!」


 接近戦大好きインファイター達は勝手に話を進めると、それぞれがチャンピオンに向かって走り出す。

 当然のように、無数に転がっているゴブリンの死体を足場にしながら。


 だが、チャンピオン達も黙ってはいない。

 瞬時に大きな拳で迎撃の体勢を取り、迎え撃つ。

 レイリは身軽なので軽く避けるが、ウォーバキンは残念ながらそこまで身軽ではない。

 だが――


「ガイ!!」

 

 信頼できる盾役タンクの名前を呼ぶ。


「応」


 それにガイが短く答える。

 ガイはスキル《ガーディアン》を発動すると、ウォーバキンの前にまるで瞬間移動したかのように現れる。

 そして、ウォーバキン目掛けて放たれた拳を、タワーシールドで防ぐ。

《グランドディフェンス》というスキルの効果により、吹き飛ばされる事もなければ後ずさりする事もない。

 職業の人間要塞フォートレスと成り、より盾役タンクとして強固となった。


「ナイス、背中借りるぜ!」


 ガイの背中を踏み台にして、高く飛び上がる。

《ステイタス》の効果によって人外の身体能力を得た彼のジャンプは、巨体なチャンピオンの頭上を越える程だ。


「貰った、《真っ向両断》!!」


 そのまま降りると同時に《真っ向両断》を発動し、チャンピオンの脳天から剣を一直線に振り下ろす。

 何事もなく地面に着地したウォーバキンの剣にはべっとりと血糊が付いている。

 それもその筈、チャンピオンを頭から縦に真っ二つにしてしまったからだ。

 

 軽く息を吐いて呼吸を整えた後、レイリに視線をやると、レイリも問題なく一刀の元に首を斬り落としたようだ。


「やるな、レイリ。さて、王様を――って、あれ?」


 最後にキングを仕留めようと思ったら、既に死んでいた。

 眉間の間には、クロスボウ用の矢が深く突き刺さっていた。


「いやぁ、何かこのキング、めっちゃおどおどしてたから、狙ったら見事的中しちゃったぜ☆」


 仕留めたのはカルラ。

 あまり積極的に戦闘には参加しないが、あまりにもキングが狼狽えていたので、ダメ元で攻撃してみたら、見事一射で仕留めてしまったのである。

 てへっと可愛く見せるカルラに、「似合わねぇ」と舌を出して悪態を付きながらも親指を立てて彼女を労うウォーバキン。


「やったね、皆ぁぁぁっ!」


 そして、パーティ全員のスタミナ管理、怪我の管理をしてくれていたリゥムも駆け寄り、無事に中ボス戦を乗り切ったのだった。

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