第142話 非常にまずい状況に
《鮮血の牙》がホブゴブリン達を排除し終わった様子を見ていたリュートは、一言「こりゃやべぇ」と呟く。
この小さく呟かれた言葉を、リュートガチ恋勢のエリーとカズネはしっかりと拾っていた。
「リュート、やばいってどういう事?」
「……ウォー達の足場さ見てみ」
リュートが指差した先には、ホブゴブリン達の死体が地面に転がっていた。
だが理解できない。
何がまずいのだろうか?
「……良ければ教えて下さい」
カズネも同様に分からなかったので、首を傾げながら聞く。
「ウォー達の足場には、無数のゴブリンの死体さ転がってるべ? だから、死体が邪魔で動き回れねぇだよ」
「っ!!」
「あのキング、多分これを狙ってホブゴブリン達を突撃させてたんだと思うだ」
リュートが今思い返すと、ホブゴブリン達の動きはウォーを仕留めに行くというより、取り囲んで満足しているようなものだった。
ゴブリン達の言語がわからないので予想にはなってしまうが、足場を悪くするようにホブゴブリン達に指示を出して死んでもらったに違いない。
「ここからのチャンピオン戦は、相当大変だべよ……」
「そ、そんな」
勿論足場が悪くなったという事は、チャンピオン達も同条件になるのだが。
チャンピオン達は体格が大きい為、気にせず死体を踏み潰せる。
対してウォーバキンの体格では、どう頑張っても踏み潰して移動するなんて力業は不可能だ。
「……ウォー、頑張れ。オラ、まだ友達さ亡くしたくねぇだよ」
リュートは、しっかりと彼等の戦いを観つつ、心の中で奇跡が起きる事を祈った。
光のカーテンが妨害しているせいで、助太刀も出来ない。
見ている事しか出来ないのがあまりにも歯がゆくて、悔しくて。
漆黒の弓を持つ手の力が、無意識的に強くなっていた。
壊れない筈の弓が、ギリギリと少し悲鳴を上げている。
リュートレベルで、動き回らずに弓で仕留められればいいのだが、ウォーバキン達は遠距離攻撃手段が非常に乏しい。
本当に、厳しい状況だ。
当の本人達も、心の中で今非常に不味い状況だというのは理解していた。
特にカルラは表情には出さないが、しくじったと内心落ち込んでいた。
(くそ、あのキングはこの状況を狙ってた訳か……。ホブゴブリン達を特攻させて死体で足場を悪くするとか、あいつ、私より性格悪すぎでしょ)
ゴブリンとの知恵比べは惨敗が目に見えている。
後はこの状況を切り抜ける方法を考え抜かなくてはいけないのだが――
(うちのパーティに黒魔法が得意な魔法使いはいない……。ウォーの精霊魔法はどちらかと言ったら補助系だし、
一応カルラはクロスボウを装備してはいるが、リュートのような一撃必殺の腕は持ち合わせていないし、正面から放ってもチャンピオンに防がれるか回避されるだけだ。
(恐らく、ウォーもこの状況のヤバさに流石に気付いてる筈。お願い、絶望してないで!!)
ウォーバキンはその時の気分で実力の波がある、所謂気分屋である。
重要な攻撃役がもしテンションが低かった場合、この状況を乗り切る事は不可能に近いだろう。
カルラは祈るようにウォーバキンの表情を覗く。
(……えっ)
カルラは驚いていた。
何故なら、犬歯をむき出しに嗤っているウォーバキンの表情が目に飛び込んできたからだ。
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