第137話 職業の恩恵は凄まじい

久々の更新ですみません…… 

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 一時間こく程休憩を取った後、二十階層の中ボスに挑む事にしたリュート一行。

 重い扉を開くと、そこには五メートルミューラ程あるであろう赤い体色の大男が仁王立ちしていた。

 額には二本の短い角が生えており、口を真一文字に閉じてはいるが、上下の犬歯が発達しており唇で隠せていない。

 一行は一目でわかった。

 相手は、大鬼オーガであった。

 討伐難易度はAの中の最上位に君臨する魔物で、戦闘能力はゴブリンチャンピオンより遥かに上である。

 膂力、運動能力、知能全てにおいて、ゴブリンと比べるのが失礼になる程に高く、個体によっては人間の言葉も片言ながらに話す事も可能だ。

 

「……ちっ、赤のオーガかよ」


 ガンツが舌打ちした。

 オーガは体色で強さが違っており、弱い順から白、青、赤、赤黒、黒となっている。

 今回のオーガは真ん中の赤。

 赤のオーガだと、一匹に対して《超越級》冒険者が束になってかかっても、苦戦してしまう程の強さなのだ。

 赤も含めてだが、以降のオーガは体表すらも硬くなっており、攻撃の通りも悪くなる。

 一説には物理耐性と魔法耐性が身に付いてしまっているのではないか、という説も冒険者の中で流れている程だ。


「……とりあえず、ういんどうとやらを出すか」


 ボスがいる部屋に入ると、ウィンドウが表示された。

 そこには驚くべき内容が記されていた。

 ガンツは驚きつつも内容を読み上げる。


「は!? 『この階層から、貴様達が倒した敵から宝箱を落とす仕様にした。人間にとっては非常に役に立つ品物を用意しておいた。中ボスに関しては確定で宝箱が出現、道中の魔物からは運次第という設定だ。それも踏まえた上で中ボスに挑む者を決めよ』だと?」


「マジかよ」


 何故ここから宝箱が出る仕様にしたのかは不明だ。

 だが、何となく思惑が透けて見えた。


「これ、多分宝箱で釣って、冷静な判断をさせないように仕向けている気がしない?」


 エリーが意見を言う。

 恐らくそういった狙いがあるのだろう。

 ガンツを含めた全員が、彼女の意見に同意した。


「恐らく、そういう事だろうな。ま、超常的存在やつらの真意なんて、俺達人間じゃ測れないから気にしない方がいいか。さて、誰が挑む?」


 ガンツはウィンドウに視線をやると、一覧からリュートが消えていた。

 リュートはどう足掻いても中ボス戦に参加出来ないようだ。


「オレ達が出てもいいか?」


 ガンツの問いに名乗りを上げたのは、《黄金の道》のラファエルだ。

 

「一応名乗り出た理由を聞いてもいいか?」


「ふっ、宝箱に目が眩んだと思われても仕方ねぇな。だが、理由は単純だぜ。オレ達は三人パーティだ。ここでオーガが出てくるって事は、この下はもっと強い魔物が中ボスになっている可能性が高い。となると、三人しかいないオレ達が後半になると不利になるかもしれねぇからな」


「……成程、確かにな。まさか二十階層でオーガが出るとは思わなかったからな。よし、お前達の案を採用しよう」


「あんがとよ。それに、これは驕りでも何でもねぇんだけど、今のオレ達なら、オーガなんぞ相手にならねぇ気がするんだ」


「おいおい、慢心は死に繋がるぞ」


「慢心なんかじゃねぇ、確信だ。まぁ見ててくんな」


 ガンツはラファエルの眼を見る。

 確かに慢心しているような眼ではなく、確固たる自信があるようだった。

 やがて観念したかのように息を吐き、ウィンドウに表示されている《黄金の道》の名前を指で触れる。

 ぴこんと電子音が鳴り、オーガに挑むメンバーが承認された。

 

「行くぜ、ゴーシュ、トリッシュ」


「ああ」


「はい」


 彼等が前に出ると、またも地面から光の帯が出てきて、《黄金の道》以外の面々が入れないようにされてしまう。

 そして、オーガが三人を敵と認め、見下ろしつつ殺気を放つ。

 だが、《黄金の道》の面々にとってその殺気は、そよ風に等しいものだった。


「生憎と、うちにはとんでもねぇ殺気を放つ狩人がいるんだ。てめぇの殺気なんかじゃひるまねぇよ」


 ラファエルは不敵に嗤いながら、剣の切っ先をオーガに向ける。

 ゴーシュも槍の先端をオーガに向け、トリッシュも身構える。


 オーガは言葉を理解できるらしく、不機嫌そうな表情になる。

 そして、両腕を重力に任せてだらんとさせた直後の事であった。

 オーガは樹の幹程の太さの筋肉質な脚を隆起させ、地面を蹴って凄まじい速度でラファエル達に向かう。

 普通の冒険者なら、あまりの速さに怯むだろうが、ラファエル達は腐っても元 《超越級》冒険者。

 ゴーシュとトリッシュは散開し、ラファエルは対峙するかのように剣を構える。


「来いよ、筋肉ダルマ」


 ラファエルの言葉に呼応するかのように、拳を作って右腕を振り下ろすオーガ。

 巨体に似合わず非常に鋭い攻撃だ。

 だがラファエルは半身でそれを躱すと同時に、オーガの肘目掛けて斬り上げる。


「ふっ」


 職業によって身体動作が最適化された斬撃は、まさに熟練の剣士を彷彿とさせるものだった。

 しかし流石は赤色のオーガ、体表は硬くなっており、断ち切る事は出来なかった。


「ちっ、両断するつもりだったんだけどなぁ。けど、その腕はもう使えねぇだろ?」


 ただ皮膚を切った程度にしか見えない傷だが、苦悶の表情を浮かべながら右腕をだらんと垂らしたままのオーガ。

 なんと、ラファエルはただ肘を両断する為に斬撃を放ったのではない。

 刃が通らなかった場合の事を考えて、肘から下の筋肉の腱を斬ったのだ。

 腱とは、骨と筋肉を繋ぐ部位。

 そこを切断してしまえば、動作も上手く出来なくなってしまうし、無理に動かせば激痛が走る。

 こうなってしまえば、右腕は死んだも同然である。


 してやられた。

 オーガは眼下の剣士に対して、怨みを込めた視線をやる。

 が、相手はひるまない。


「で、オレばかりに気を取られていいのか?」


 そこでオーガははっとした。

 他にも二名敵がいた、と。

 しかし既に遅かった。

 

「《パワースロー》」


 ゴーシュは手に握られた槍を投擲する。

 金色のオーラに包まれた槍は、まるで矢のように放たれる。

 目指す先は、オーガの太腿。

 槍は突き刺さるどころか、周囲の肉も削って貫通した。

 太腿に風穴が空き、直立出来ずに悶絶しながら倒れ込むオーガ。

 更に追い打ちをかけるようにトリッシュが鞄からアイテムを取り出し、穴が開いた太腿に投げる。

 それは、刺激臭の強い辛味成分マシマシの液体だ。

 液体が入った瓶が強靭な太腿で割れ、見るからにやばそうな液体がオーガの傷口に触れる。

 するとオーガが断末魔と思わせる程の悲鳴を上げ、地面をのたうち回る。


「悪いな、オーガ。本当はてめぇと正々堂々と戦いたかったんだが、こちとら時間がねぇ。だから効率良くやらせてもらった。という訳で、死ね」


 ふと、オーガが我に返ると、自分より遥かに小さい剣士に見下ろされていた。

 そして彼が持つ剣は上段に構えられており、刃は金色に光っている。

 

 これは死んだ。

 オーガは素直に思った。


「《パワースラッシュ》」


 ラファエルはそう呟くと、剣を包む金色のオーラの輝きが増す。

 そして振り下ろす。

 刃が狙う先は、オーガの首だ。

 スキルによって数倍の威力にもなった斬撃は、オーガの皮膚を容易く斬り、強靭な筋繊維すらも断ち、骨すらも両断。

 それでも勢いが収まらない斬撃は、ダンジョンの地面に爆発音と思わせる程の音を立てて食い込んだ。


 勝利が確定した瞬間、ラファエルは剣に付いたオーガの血を振るって落とし、鞘に刃を仕舞う。

 ゴーシュは投げた槍を回収し、トリッシュは念の為にオーガが死んだかを確認している。

 トリッシュは宣言した。


「対象の死亡を確認。戦闘終了です」


「……おう」


 パーティリーダーであるラファエルがトリッシュの報告に応えた。


 まさに瞬殺劇だ。

 彼等の戦闘を見届けていた全員が、驚きを隠せないでいた。

 そして、ハリーが一言漏らす。


「……何で彼等は、こんなに実力があったのに、あんなに酷く落ちぶれてしまったんだ?」


 ごもっともである。

 理由はあるのだろうが、全く思い浮かばずに全員で「さぁ?」と首を傾げるしかなかった。

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