第136話 余裕のあるダンジョンアタック
「行って! 《ファング》!!」
現在十一階層。
《サイキッカー》の職業を得た《ジャパニーズ》のリョウコは、腰に付けている短剣三本を念動力で操作し、敵を切り裂いていく。
この短剣三本は何故か赤く発光しており、念動力で飛んでいく度に赤い残光を残している。
何故これを《ファング》と呼ぶのか。
それはショウマのせいである。
「うっひょぉぉぉっ!! 生ファングありがとうございます!! 愛してるぅ!!」
「しょ、翔真が気に入ってくれて、よかった」
オタクであるショウマが、リョウコにどうしてもやってほしいと頼み込んで産まれたのが《ファング》だった。
短剣が発光しているのも、ショウマの趣味である。
本来ならもっと短剣の本数を増やしたいのだが、今のリョウコには三本が限界だった。
出来るなら好きな相手であるショウマの願いを百パーセント叶えてあげたいのだが、今は無理そうなので内心へこんでいたりする。
そんなショウマはテンションが上がりながらも押し寄せる魔物を、伸びた草を剣で刈るかの如く斬殺していく。
時にノールック(リョウコが操作する短剣に目が釘付け)で魔物を処理していくのは、職業を得てパワーアップしたからこそ成し得る技だ。
十一階層はテンションが上がりまくっているショウマ、そして好きな人に褒められて俄然やる気が出ているリョウコの独壇場だ。
ほぼ二人で迫りくる魔物を殺していった。
「……何、この桃色空間」
などと呟いたのはハリーである。
ショウマとリョウコの周辺だけ、やけに甘い空間となっており、独身連中からしたら口から砂糖が延々と漏れ出てくる感覚に襲われてしまう。
しかし第三者から見たら、魔物の血が大量に舞っているので、あまり羨ましいとは思えない状況だった。
そんな桃色空間のまま第十一階層は制覇し、次の第十二階層。
『うおぉぉぉぉぉぉっっ!!』
ショウマとリョウコのラブラブっぷりに当てられてしまった、《ジャパニーズ》の面々とリュート以外の全員が鬱憤を晴らすかのように大暴れしていた。
(俺も……)
(私も……)
((恋人欲しいっ!!))
ある者は「畜生ぅぅぅぅっ!」と涙しながら魔物を真っ二つに斬り、ある者は「りゅぅぅぅぅぅとぉぉぉぉっ!!」と叫びながら魔物を殺していたり。
当のリュートは一瞬身体をびくんとさせて、若干恐怖を感じていた。
そして魔物も気のせいか、一歩後ずさりしたような気がした。
それ程までにえげつない迫力を放つ集団だ、魔物も怯えてしまうのは仕方ないだろう。
普段冷静そうに見えるカズキですら「リア充死すべし!」とニホンゴと呼ばれる言語で叫んでおり、最早混沌としている状況だ。
斥候とかそんなものは関係なく、目に入った魔物は皆が一目散で距離を詰め殺害している。
出番が無いリュートは傍観しているだけなのだが、生まれて初めて魔物が可哀そうと思えたのだった。
この勢いは衰える事はなく、あっという間に二十階層。
そして中ボス部屋の扉の前まで辿り着いていた。
「……はっや」
タツオミはスマホを取り出して時間を確認して驚いた。
リュートが第十階層で中ボスを倒したのが午前九時。
そして第二十階層まで辿り着いた時間は午後一時である。
予定だと夕方辺りの到着だったのにも関わらず、もう中ボス部屋まで来てしまった。
別に強行軍をした訳ではないのだが、皆が「リアジュウシネ」という言葉を呪詛のように唱えながら進んだ結果、魔物の死体を積み上げながら途轍もないペースで進行出来たのだった。
だが、このハイペースのせいか、今になってツケが出てくる。
リュートと《ジャパニーズ》以外のメンバーが、疲労により立てなくなってしまった。
「……『リアジュウシネ』がどんな意味かしんねぇけんど、バてるのは流石に阿呆すぎだぎゃ」
「……仰る通りで」
リュートは呆れた目で座り込んでいる面々を見下していた。
ハリーも息絶え絶えで苦笑して応えた。
「とりあえず、休憩するべ」
『さ、賛成……』
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