第134話 よぎる不安


「まず、この文章が非常に気になりました」


 カズキはウィンドウのとある文章を指でなぞる。

 その文章とは、『これを中ボスと仮称する。挑戦できるのは十階層毎に一組のパーティだけだ。もし討伐した場合は、以降のボス戦には参加できない』という箇所だった。


「何故、中ボス・・・と仮称したのに、『以降のボス戦・・・には参加できない』という文章になったのか……」


 カズキはこの文章を見た時から、とある懸念事項が常に頭によぎっていた。

 それは――


「恐らく、このボス戦という意味は、超常的存在との戦いも含まれているのではないか――と予測できます」


「なっ!?」


 つまり、《ラデュ=オン・バーン》戦でもこのルールが適用される懸念が出てきたのだ。

 もし中ボス戦だけであれば、『以降の中ボス戦』という文章になる筈だ。

 だがそのような文章になっていないので、意図的に文章を作成したようにも感じる。

 当然確証はないが、可能性は充分にあり得るだろう。


「つまり、帰る予定である私、後は《ジャパニーズ》が何処かの中ボス戦を行ったら、超常的存在との戦いは参加できない可能性が非常に高いです」


「でもそれは憶測の域を出ないだろう?」


 ガンツはカズキに訊ねる。


「ええ、仰る通りですが、懸念事項があるなら色々想定をして動くべきです。ちらっと耳にしましたが、《遊戯者》との戦いは相当過酷だったとか」


 カズキはその当事者であるリュート達に視線を向けると、当事者全員が頷く。

 特に《黄金の道》のメンバーにとっては苦い思い出だ。

 なんたって自身のパーティメンバーが内通者どころか、分身体にすり替わっていたのだから。


「ならばより様々な予測を立てて動くべきです」


「……成程。となると、カズキと《ジャパニーズ》は中ボス戦に参加しない方がいいという事だな?」


「はい。ですがまだ懸念事項があります」


「何だ?」


「このまま行くと、私か《ジャパニーズ》の皆さん、どちらかしか元の世界に帰れないかもしれません」


『はっ!?』

 

 カズキの更なる懸念事項に、カズキ以外の全員が声を揃えて驚く。


「よく思い出してください。ボス戦にチャレンジできるのはパーティ一組ずつ。それはあのリスト化されているメンバーとなっています」


「……わかった、わかってしまった。つまり超常的存在との戦いでもパーティ一組でしか参加できない可能性がある」


「その通りです。そして、超常的存在に勝利したパーティしか世界を跨ぐ権利を与えられない可能性すらあります」


「っ!!」


 思った以上に深刻で最悪な懸念事項だった。

 正直全員で超常的存在に挑み、勝利して流れ者の彼等を元の世界へ帰す予定でいた。

 しかし、余計な趣向を入れてきたせいで、それすら出来なくなってしまったのだ。

 そんな、と小さく声を漏らすショウマ。

 

「まぁ色々言って皆さんを不安にさせてしまいましたが、頭の片隅に入れておいた方がいいでしょう。もしかしたら超常的存在との戦いでは、交渉を行って私と《ジャパニーズ》の皆さんで戦えるように仕向ける事だって可能かもしれませんし」


「……そう、だな」


「兎に角、中ボス戦は私と《ジャパニーズ》の皆さんを頭数に入れずに攻略する必要があるのですが……最後の懸念事項があります」


「まだあるのか!?」


「多分これが一番最悪です。今世界中のダンジョンが急速に成長しています。もし、この攻略中で第六十階層以上に成長していたら……」


「……はっ、それは最悪だ!!」


 カズキの最後の懸念事項は、更なる最悪なものだった。

 現在、彼等の耳に入っている報告では五十階層以上であった。

 しかしもし、このダンジョンのルールが適応された状態で六十階層以上も成長していたならば、六回中ボス戦をやった後の超常的存在との戦いの為、確実にカズキか《ジャパニーズ》のどちらかがボス戦に参加出来なくなる。

 これも予測でしかないのだが、予測が全て的中していたと仮定すると、必ずどちらかが帰還出来なくなってしまうのだ。


「不味い、それは不味い!!」


「はい。ですので我々も休憩を少なくして、より速く攻略をする必要が出てきました」


「くそっ!!」


 皆、職業という大きな力を与えてくれたカズキの為にも、恩義を返す為に何とかして流れ者組を元の世界に帰したいという一心でダンジョンアタックに挑んでいる。

 しかし予測をすればするほど、より困難な状況になっているのが分かる。

 

「とりあえず、全ては推測の域を出ません。しかし、頭の片隅に入れて状況に合わせて臨機応変に動きましょう。今はまず、この中ボス戦の早期突破を目指しましょう」


「それしか……今は出来ないか」


「はい、自分で色々言って皆さんを混乱させて申し訳御座いませんが、最悪の想定は必須かと思います」


「ああ、わかってる。じゃあ扉を開けるぞ」


 全員で重厚な扉を押すと、ごごごと音を立ててゆっくりと扉が開く。

 完全に開き切ると、人間が百人いてもまだ余裕な程の大部屋が、一行の眼前に広がっていた。

 そんな部屋の中央に堂々と立っているのは、体長三メートルミューラあるであろう、巨大な猪だった。

 リュート達一行が部屋に入ると、また半透明なウィンドウが表示される。


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 誰が彼に挑む?

 挑む者の名に触れよ。


・リュート

・カズキ

・《黄金の道》

・《竜槍穿りゅうそうせん

・《鮮血の牙》

・《ジャパニーズ》

・《烈風》

・《灼華》

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 誰が中ボスに挑戦するかは、ウィンドウによる選択式のようだ。

 ガンツが皆に相談しようとした時、一人が手を挙げる。


 リュートだ。


「あれ、オラがやるだよ」


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