第130話 大失敗の帝国側
帝国側が用意した人材は、ストレートに言えば寄せ集めである。
それどころか、非常に歪なチームと言えるだろう。
まずは帝王に忠誠を誓った
亜人は獣人やエルフ、ドワーフと多種族であり、皆見るからに不健康そうである。
こんなメンバーでダンジョンを攻略しようというのだから、帝国側もダンジョンを舐めているとしか思えないだろう。
何故奴隷を使う事にしたのか。
理由は簡単で、最上である人間を失うよりも下等な亜人程度を
亜人はやろうと思えば調達は可能である。
小競り合いをしている獣人は基本的に生け捕りにし、問答無用で奴隷に身を落とさせているからだ。
帝国側にとっては獣人は良い労働確保である。
産んだら数年で成人と変わらぬ身体になるし、一度の出産で帝国にとっての多数の労働力を産んでくれる。
その為、実力があって死んでも懐が痛くない奴隷達をピックアップしたのだった。
「さぁ行くぞ醜い亜人共! もしダンジョンを攻略出来たら、奴隷から解放すると帝王陛下からのお達しであるぞ!」
「……本当に、解放して、頂けるのでしょうか?」
「貴様、帝王陛下が嘘を付くとでも思っているのか?」
「……いえ」
「なら、死ぬ気で攻略せよ!!」
奴隷として堕ちた亜人達二十名に選択肢はなかった。
生きてダンジョンを攻略して、奴隷の身分からの解放。
嘘か本当かもわからない条件だが、一縷の望みに賭けて死地へ向かうしかないのだ。
充分な食事も与えてもらっていない、本当に生きる為の最低限の食事のみ。
それでも、やるしかない。
普段死んだ目をしている奴隷二十名の瞳に、僅かながら生気が宿る。
しかし、そう簡単に上手くはいかない。
「あぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁ、俺の腕がぁぁぁぁぁ!!」
「いだい、いだい、やめで!!」
「おぐ、ばっ、げっ」
第一階層。
ホブゴブリン達が闊歩する階層にて、奴隷達は好き勝手に蹂躙されていた。
それもそのはず。
確かに《ステイタス》では非常に優秀かもしれないが、食事を満足に取っていないのであればそもそもまともに動ける筈がない。
ホブゴブリン達が醜悪な笑みを浮かべてはナイフで奴隷の身体を何度も突き刺したり、拷問のように腕を剣で斬り落としたり、棍棒でひたすら全身を殴打したり、やりたい放題だ。
しかも兵士五名は奴隷を助けようともしない。
むしろにやにやと笑みを浮かべている。
「あぁあ、やっぱ所詮は亜人か。全然役に立たない」
「どうする、これ攻略無理じゃね?」
「俺は亜人共が攻略チームに入るって聞いた時点で、失敗する未来しか見えなかったわ」
「はは、俺もだわ」
この兵士達、確かに帝国に忠誠を誓ってはいるのだが、人間至上主義が任務よりも優先されてしまったのであろう、亜人達がなぶられているのを楽しんでいた。
オーデュロンに住む人間の大半が、亜人を家畜以下と考えている。
まともな扱いを受けている亜人を見るのは、残念ながら空から蟻を探す位に難しい。
それ程までに、帝国内での亜人の扱いは凄まじく酷いのだ。
「とりあえず、どうすっか」
「こいつらを全滅させた後、第二階層位まで行こうぜ」
「ほぅ、その後『奴隷達が足を引っ張ったせいで、攻略できませんでした』って言えばいいって訳か」
「その通り。で、次に攻略する際は人間で固めないと難しいって言えばいいのさ」
「成程、そりゃいい」
奴隷達が兵士に助けを求めているが、まるで聞いていない。
笑いながら雑談をしている最中に、奴隷達は全員惨殺されてしまった。
ホブゴブリン達の数は、一匹も減っていない。
「はぁ、やっぱ亜人は役立たずだ。ホブ程度に死んでやがる」
「まぁ帝国の役に立てたんだ、有難いと思って死んだだろうよ」
「違いない」
ホブゴブリン達は今度は兵士達に一斉に襲い掛かる。
だが流石は兵士、軽くいなして片手間でホブゴブリン達を屠っていく。
とある兵士は口笛を吹きながらロングソードを振っては、ホブゴブリンの首を跳ねていた。
「んじゃ、ちゃっちゃと第二階層へ行こうぜ」
「了解~」
兵士達は進む。
わざと亜人達の屍を強く踏みながら。
他国の人間が見たら、おぞましい態度と仕打ちである。
これが、軍事帝国オーデュロンが他国から恐れられ、同盟も共存も拒否された国民の人間性である。
オーデュロンの人間は知らない。
あまりに行き過ぎた人間至上主義によって、国際的に孤立している事を。
そして気付く筈もない。
帝国こそが世界の覇者だと信じ切っているのだから。
しかし、ここでこの兵士達にも天罰が下される。
「……マジかよ」
なんと、ゴブリンチャンピオンの群れに囲まれてしまったのだ。
群れの数はざっと三十。
いくら腕に覚えがある兵士達と言えど、ゴブリンチャンピオン三十匹となると、五人では対処できない。
「おいおいおいおいおいおい!! どうするんだよ!」
「どうするもこうするも、戦って逃げ道を作るしかねぇだろ!」
「ちっ、数匹の奴隷を残して肉壁にするべきだった」
「亜人程度じゃ時間稼ぎにもならねぇよ!」
ぎゃあぎゃあ騒ぐ兵士達を気にせず、凶悪に嗤ってにじり寄るチャンピオン達。
やらなきゃ、やられる。
兵士達は武器を構えて、ようやく戦闘態勢に入る。
「おおおおおおっ!!」
ロングソードを持った兵士が、一匹のチャンピオンに斬りかかる。
そして、剣が金色の光に包まれる。
「喰らえ、《オーラブレイド・斬》!!」
スキル《オーラブレイド・斬》。
剣の切れ味を二倍にするオーラを纏い斬りかかるスキルだ。
渾身の一撃に、更にオーラを乗せて破壊力抜群の斬撃を放った。
が――
「なっ!?」
なんとゴブリンチャンピオンは半身になり、余裕をもって斬撃を回避したのだ。
「下手くそ! 《パワースラッシュ》!」
別の兵士もスキルを使って斬撃を放ったのだが、それも回避される。
ならばと威力より命中を重視した小技を放つが、それすらも回避されてしまう。
まるで武芸に精通しているような、そんな身のこなしをしている。
「なんで、なんで当たらねぇんだよ!!」
「知るかよ、ってかチャンピオンだとしてもあまりにも強すぎる!」
「うちの兵士長と戦ってる気分だぜ」
何故ゴブリンチャンピオンが洗練された身のこなしを行えるかというと、原因はリュート達にあった。
時は遡り、リュート達の第一階層攻略中。
ゴブリンチャンピオン達は戦慄していた。
このチャンピオン達は、数多の冒険者から生き抜き強くなった、言わば精鋭である。
そこら辺の冒険者程度なら負けないと自負していたのだが、どう頑張っても自身が惨殺される未来しか見えない相手がダンジョンにやってきたのだ。
ホブゴブリン達が、リュート達に瞬殺されていく。
まるで屠殺場の作業員が日常的に行う流れ作業のように、リュート達全員が非常に無駄の無い動きで一撃で殺していく。
しかも早歩きしながらすれ違いざまに殺していくのだ。
表情を見れば、余裕が滲み出ている。
勝てない、絶対に勝てない。
チャンピオン達は息を潜めて身を隠した。
あの
だが、漆黒の弓を持った狩人に視線を向けられ、発見されてしまった。
彼は素早く矢筒から矢を取り出しては、即座に放とうとする。
ええい、ままよ。
チャンピオン達は、冒険者から学んだある仕草をする。
それは、両手を挙げて全面降伏の意を示すものだった。
たった数秒、お互いを探るかのように見つめ合うリュートとチャンピオン。
しかしチャンピオンからしたら、数秒が何分も経っているかのように感じていた。
「……ガンツ、こっちの通路からつえぇ気配さ感じるだ。厄介そうだから行かねぇ方がええ」
「成程、わかった。ならばこちらへ行こう」
リュートは敢えて見逃した。
彼は戦闘になった際のリスクを減らす為に、戦闘を避ける選択肢を取ったのだ。
リュート達からしたら別に戦う事が目的ではない。
最速で最下層まで行き、ショウマ達を元の世界へ帰す事が重要なのだ。
チャンピオンと戦うのは時間の無駄なのである。
リュート達が去り、チャンピオン達は助かった事に安堵し、感謝した。
しかしチャンピオン達もただでは転ばない。
リュート達の動きを見て、見様見真似ながら可能な限り自身の戦闘技術を向上させてしまったのだ。
攻撃の無駄の少ない回避方法、効率的な攻撃方法、そして立ち回り。
たった一回の遭遇で、可能な限り戦闘技術を盗んだのだ。
その経験を今、帝国の兵士達にぶつけていた。
この兵士達も決して弱くはない。
だが、今のチャンピオン達からしたら、取るに足らない相手だ。
さて、攻撃の練習相手になって貰おうか。
チャンピオン達は指の骨を鳴らす。
兵士達五名は、チャンピオン達の
「や、やめ――」
兵士達は死んだ。
しかし、即死ではない。
ゆっくり時間を掛けて、コンパクトに打ち込む為の攻撃を研究されながら、全身の骨が砕かれて苦しみながら死んでいった。
断末魔は聞こえない。
ただ、生々しい殴打の音と骨が折れる音が、第一階層には鳴り響いていた。
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