第129話 進むリュート達、焦る凡帝
無事にダンジョンへ侵入出来たリュート達は、休む間もなく進行を開始した。
何故なら、恐らくそろそろ帝国側も気が付いて、誰かしらを派遣していると予想したからである。
ならばある程度階層を進めていき、安全地帯を確保した上で休息を取ろうという事になったのだ。
結構な強行軍なので精神的に多少疲弊はしているが、流石職業によって身体能力が最適化されて向上したおかげで、肉体的疲労は一切ない。
むしろ重たい荷物を背負っているにも関わらず、素早い動きが出来てしまう。
誰かが言う。
「本当、職業様様だなっと!」
遭遇した魔物は、ホブゴブリンの二十匹以上の群れ。
ホブゴブリンとなると知恵も付いているし武具も身に付けている為、集団で襲われるとそれなりに苦戦する相手だ。
《超越級》冒険者であったとしても、気を抜いたら大怪我を負わされてしまう程度には危険度が高い。
なのだが、リュート達はまるで雑草を鎌で刈るかの如く、効率的に倒していく。
聞こえるのはホブゴブリン達の断末魔のみ、職業によって武器の振るい方が最適化された彼等にとっては、もはや雑草を刈る方が一苦労だと感じてしまう程なのだ。
それにガンツの戦闘での指示が素晴らしかった。
全てが的確で、どのような場面でも焦る事無く切り抜けられる。
その為、メンバー全員がガンツに全幅の信頼を寄せており、彼が出した指示に迷いなく従っている。
「……しかし一階層からホブゴブリンか。これはなかなか手強そうだ」
ハリーがぽつりと呟く。
リュートは《遊戯者》のダンジョンが初めてのダンジョンアタックだったので、「そうなのか」という感想しか出て来なかった。
「恐らく階層が下がる程に強い魔物が出てくるだろう。
ガンツが皆にそう言った。
オーガは約三
引き締まった肉体をしており、膂力、防御力、速度は《ステイタス》の
一体を処理するには、
あくまでもしかしたらの話なのだが、有り得なくはないので、ガンツは敢えて気を引き締める目的も含めて発言をしたのだ。
事実職業を得て実力が上がった事で、リュート以外は浮足立っていたのが雰囲気で分かった。
ガンツの狙いは成功し、皆それぞれが気を入れ直したようだ。
(よし、これなら大丈夫そうだ)
ガンツも皆の反応を見て、満足気に頷く。
確かに職業は強力な力を与えてくれたが、結局はその力を有効に使えるかはその人間次第だ。
心に油断があったら、如何に最上位の職業を得たリュートであったとしても、呆気なく死んでしまうだろう。
気を引き締め直したメンバーの顔を見て、油断は無くなったと判断できた。
最短ルートで一階層を駆け抜けた一行は、二階層へ降りた。
すると、目の前には今までとは違う魔物が出現した。
「くそっ、
全身がゼリー状の超強酸性溶解液に包まれており、体内中央にある核を壊せばそのまま死ぬのだが、武器で貫くと十中八九溶かされる。
また、溶解液を飛ばしてくる為、防具も溶けるし肌に触れたらたった一滴でも皮膚を溶かして骨が見えてしまう程の即効性がある、非常に厄介な魔物である。
スライムはあまり地上では見かけない魔物なので、リュートは初めて遭遇して物珍しそうにスライムを見ていた。
主にスライムは三色の色の個体が存在しており、青色が一番酸性が低い。
そして赤が中間で、黄色が一番酸性が高く、たった一滴で一瞬で皮膚や筋肉を溶かして骨をも溶かしてしまうのだ。
今目の前にいるスライムは青色、一番酸性が低い個体だ。
「リュート」
「どした、ガンツ?」
「試しに一本、矢を放ってくれ。狙うのは奴の中央にある丸い核だ」
「んだ」
リュートは大型の矢筒から素早く鉄の矢を取り出し、速射で矢を射る。
漆黒の弓から勢い良く飛び出した鉄の矢は、見事スライムに命中。核を貫きスライムは死んだ。
が、鉄の矢はスライムに突き刺さった箇所が溶けてしまっており、矢の再利用は不可能だ。
「……成程、リュートはスライムに対しては攻撃しないでくれ。矢が無駄に損耗するだけだ」
「わかっただよ」
「ここはセオリー通りに魔法使いに対処してもらう。炎系の黒魔法を使えるのは?」
ガンツの問いに手を挙げたのはカズネ、ヨシュア、トルバランの三名。
精霊魔法を操るウォーバキンも一応炎系の魔法を持っているが、残念ながら攻撃として使える魔法は持ち合わせていない。
「わかった。スライム五匹までは魔法使い一人に対処してもらう。順番はカズネ、ヨシュア、トルバランというローテーションで魔法を放ってくれ。五匹以上出た場合は、都度指示を出す」
「「「了解」」」
リュートとエリーを先頭に立たせ、その後ろに魔法使い三人、以降は他メンバー、最後尾をリックという陣形で二階層を進んでいく。
所々でスライムが一から三匹程度の数で遭遇するが、問題なく処理していく。
だが、三階層へ繋がる階段の前にある大部屋にて、スライムの群れに遭遇する。
数は二十を超えていて、ちらほらと黄色の個体も存在する。
歩く隙間もなく、スライムのぎゅうぎゅう詰めだ。
「……これは、俺達近接職では対処出来ないな。ヨシュア、
「ふふん、任せてよ!」
歩く度にじゃらじゃらとアクセサリーがぶつかり合う音が聞こえるヨシュア。
これは全て魔道具で、魔法の威力を高めるものだ。
ヨシュアは陣形の最前列に立ち、胸元のネックレスを掌に乗せて目を瞑る。
「《疑似魔力炉》展開」
掌のネックレスが赤く輝き出すと、ヨシュアの足元に魔方陣が展開される。
これは一時的に使用者の魔力を底上げし、魔法の威力を向上させる魔道具だ。
「《泣き喚き、絶望せよ。其の炎は全てを跡形も無く燃やし尽くし、塵一つも残さぬ破壊の炎。其の炎は終焉を与える福音の炎也。我と其が一つとなりて、愚かなる者に良き終焉を与えん事を》!」
ヨシュアの詠唱により、スライムの群れの頭上に赤い光が生まれる。
その光は徐々に拡大していき、まるで太陽を思わせるかのような灼熱を帯びていた。
「喰らいなよ! 《
これは《全能なる炎 エイリ・ラク=ザーン》の力を借りた広範囲炎系魔法の《
特に爆発とかはしない為、味方に対する被害は一切ないのだが、疑似的な太陽を生み出した為、喰らった相手は何千度にもなる炎の塊によって一瞬で蒸発する。
通常だと《
これはヨシュアだからこそ出来る芸当である。
《
敵の全滅を確認すると、ヨシュアは指をぱちんと鳴らして《
「はい、処理完了だよ」
爽やかな笑顔を向けるヨシュア。
「よくやってくれた、ヨシュア。本当に心強いよ」
ガンツはヨシュアの肩に手を置いて労った。
こうして二階層も怪我一つ無く攻略を完了したのだった。
「何、他国からの冒険者パーティが例のダンジョンに侵入しただと!?」
一方、帝王エミリオが憤っていた。
人材をリストアップして攻略チームを結成し、今からダンジョンへ進攻する直前で入ってきた情報だった。
一歩、いや、数歩も遅れを取ってしまったのだ。
「何という事だ、これでは流れ者の世界の技術を吸収できないではないか! 既に国境は封鎖したのだな!?」
「はい、そちらは滞りなく」
「ならば早急にダンジョンへ向かい、《ラデュ・オン=バーン》を討伐せよ!!」
「はっ、畏まりました」
宰相は攻略チームに早急に向かうように指示を出した。
件のダンジョンへは、早くて一日という距離だ。
向かっている最中でも、既に侵入している冒険者パーティは奥へ進んでいくだろう。
「……だが、危険度がAかSのダンジョンであったな。ならば冒険者といえど、素早く攻略する事は出来ぬだろうな」
エミリオは安易な予想を立てるが、当然ながら予想は大きく外れてしまう。
その冒険者パーティは、職業という強力な力を存分に振るって、有り得ない速度で次々と攻略しているのだから。
帝国が用意した攻略チームがダンジョンに侵入した頃には、既にリュート達は九階層まで進めていたのだった。
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