第128話 ダンジョンアタック開始! そして魔界では――


 リュートの顔面力のおかげで、手続きが異様に手早く終わった為、予想より速くダンジョンアタックへ挑めるようになった。

 それにおまけとして現在明確にわかっている、四十七階層までの地図を手に入れる事が出来た。

 本来有料なのだが、これもリュートだから成し得る業なのだろう、無料でゲットだ。

 勿論、浮いた時間を無駄にしない。

 カズキ、リュート、《烈風》の面々は酒場の一席を借りて、ダンジョンの最短ルートを検討する。

 斥候の能力も断トツにリュートが上なので、彼が最短ルートを頭に叩き込み、現場にて予想外の危険があった場合の回避ルート等も打ち合わせをした。

 更に危険度がAかSと言っていた事からも、序盤から強力な魔物が出てくる可能性すらある。

 となると、体力や魔力を温存しておくという手段が悪手となる可能性すら出てきたのだ。

 ダンジョン内での指示を任されているガンツは、全員に的確な指示を送れるようにカズキから渡されたメンバー全員の能力が書かれている紙を熟読し、頭の中で戦闘シミュレーションを行い、指示のパターンをある程度用意する作業をしている。

 

 メンバーは《超越級》に達していない者が半数いるが、それでもあの《遊戯者》のダンジョンを攻略した経験を持つ、《超越級》に匹敵する実力者だ。

 そんな彼等は更に職業の恩恵も受けて、実力は飛躍的に向上した。

 戦闘面で足を引っ張る人間は、誰一人いないであろう。

 そしてリュートの存在が非常に大きい。

 彼はメンバー内で唯一 《ステイタス》を持っていないのにも関わらず、職業は最上位――それどころか神クラスに届いているかもしれない――を得て、とんでもない能力補正を得た。

 遠距離攻撃においては、彼に敵う人間や魔物はそうそう居ないだろう。

 唯一の不安要素が、《遊戯者》のダンジョンで確執が生まれた《黄金の道》の存在であるのだが、彼等は職業によって大きなメリットと大きなデメリットの両方を得てしまった。

 故に致命的な職業の退化を引きたくないから、メンバー内に亀裂を生むような行動は出来ないであろうと予測するカズキは、特に《黄金の道》に対しては若干の不安要素としか考えていなかった。

 仮に大きな態度に出たとしても、恐らく職業が退化する為、使えなくなったら肉壁にでもしてしまおうとすら考えていた。


 無事に最短ルート等の話し合いも終わり、合流時間となっていた。

 他のメンバーと合流した後、急ぎ足でダンジョンへ向かう。

 数秒でも時間を無駄にする事は許されない。

 全員が緊張感を持ち、早足で目当てのダンジョンへ向かう。

 

(恐らく、まだ封鎖されない筈だ)


 不安な気持ちが膨れ上がり、心は焦りを抱かせて身体を急がせようとする。

 当然 《ジャパニーズ》の面々も同じ気持ちを抱えている。

 だが、無駄に焦らせては、手伝ってくれる異世界の友人達の体力を損耗させる事になってしまう。

 だから必死に焦る気持ちを落ち着かせる。

 全ては確実に元の世界に帰還する為に。

 カズキは気持ちを入れ替えようとした、その時だった。


大丈夫でぇじょうぶだ、オラ達がぜってぇにおめぇ達を元の世界に帰す」


 いつの間にかカズキの隣にいたリュートが、励ましてくれたのだ。

 彼の見据える視線は常に真っすぐで、そう簡単に決意は鈍らない。

 そんなリュートだからこそ、職業の無形シリーズは最高と言ってもいい職業を与えたのかもしれない。


(……はは、敵わないなぁ、俺より年下なのに)


 顔面も含めて全てにおいてリュートに敗北感を感じたが、いっそ清々しさまである程の完膚無き敗北。

 だからこそ、彼に全幅の信頼を寄せる事が出来るのだ。


「ええ、よろしくお願い致しますね」


「任せてけろ」


 カズキとリュートは自然と互いの拳をぶつけ合い、互いに士気を高める事に成功した。

 こうして早歩きをしつつ、まだ封鎖されていないお目当てのダンジョンに侵入する事が出来たのだった。

 









 一方、《魔界》では。


「……ふむ、ラデュのダンジョンに侵入者か」


《遊戯者》の代わりにゲームマスターとなった《最古の道標 バーヤ=ドル・キルス》が、自身の能力である《探知》を使って人間達が侵入してきた事を察知した。


 彼は天使達と上手く連携を取り、定期的に障害となり得る人間を各ダンジョンへ派遣するよう、協力を要請していた。

 結果凄まじい程のダンジョンの成長速度を誇るようになり、魔族の約五十パーセントが五十階層まで成長させる事に成功したのだった。

 そこでバーヤは天使達の思惑を何となく察した。


(……あ奴等、相当に暇なのだろうな。我等に早く《現界》を攻めて欲しいらしい)


 ならば期待に応えてやろうと、バーヤはゲームマスターとして魔族全員に発破を掛け続けていた。

 その一つが、ランキング発表であった。

 バーヤの能力の一つに、魔族全員に念話を送る事が出来るものが存在している。

 バーヤは《探知》で魔族達のダンジョンの成長具合を探り、念話によって定期的にランキングを発表する。

 するとどうだろう、魔族全員のモチベーションが見るからに上がったのである。

 現在ランキング一位は、リュート達が侵入したラデュのダンジョンで、現在階層は五十八となっている。

 以降はほぼ僅差となっており、二位は五十三階層である。

 ラデュに関しては、前回の人間を始末した事で、大量の魔力を得た。その魔力を使って、人間達が喜びそうな武具と階層の増加に注力したようだ。


 人間は何か得がない限りダンジョンアタックをしない。

 ラデュは自身のダンジョンに来て欲しいが為に、餌として魅力的な武具や道具を用意していた。

 そして得た魔力によってラデュ自身もかなり強くなり、出現する魔物は強力になっていく。

 このまま順当に行けば、ラデュが魔王になる事間違いなしであった。


 しかし、今回侵入してきた人間は、今までの人間に比べて強いようだ。

 これは天使達が敢えて強い人間を送ってきたのだろうか?

 確かめたいのだが、バーヤの念話は魔族限定だし、天使達に連絡を取るには天使達からコンタクトを取って貰わないと会話すらできない。


(……さて、これはどう判断するべきか)


 少しばかり悩んだが、結局は結論が出なかった。

 ならばラデュに人間達が来た旨を伝え、様子を見るしかない。


「ラデュよ、聞こえるか」


『聞こえるぞ、道標殿』


「今、お主のダンジョンに人間が侵入した。今までの人間に比べたらかなり骨がある奴等だ」


『おお、おお! そうか! ついに我は強者と戦えるのか!!』


 ラデュは《遊戯者》から教わったゲームによって、強者と緊張感ある勝負に楽しさを見出した魔族である。

 バーヤも知らないが、道中にばら撒いた武具や道具は、自身と良い勝負が出来るようにする為の救済処置でもあった。

 最近はただ様子見に来ただの、よりよい魔法を授けてくれというお参り程度の人間しか来ていなかった為、ラデュは心の底から喜んだ。


「沢山の魔力が手に入るやもしれん、チャンスを逃すなよ?」


『わかっている。だが、今は強者と戦える事を楽しみとして待っていよう!!』


「……わかった。健闘を祈る」


 バーヤは念話を終了させると、溜息を付く。

 魔族全員が感情を得たのはいい。

 だが、その分全員の個性が非常に強くなったのだ。

 バーヤも感情が芽生えたばかりなので、彼等の個性を上手く捌ききれずにいた。


「……《旅人》よ、お主だったらどうしていたのか」


 既にこの世界から消え去ってしまった《旅人》こと《遊戯者》の事を思い、もう一度深い溜息を吐いた。


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