第127話 リュートの顔力は未知数
無事にレッドバーンズ街に辿り着いたリュート一行は、早速ダンジョンアタックに向けた行動を開始した。
リュートとカズキ、そして《疾風》の面々は冒険者ギルドに足を運んでダンジョンアタックの申請をしに、それ以外のメンバーは食糧等のダンジョンアタックに必要な備品の購入に動いていた。
「……カズキ、なしてオラがギルドに行く側なんだ?」
「簡単ですよ、リュートさんがいらっしゃった方が手続きが非常にスムーズなので」
「……なして?」
リュートという男、自身が持つ顔面の強さをまるで理解していない。
ラーガスタ王国では『漆黒の弓を使う美男子』として何処でも噂が持ちきりであるリュートは、実は国外でも有名となっている。
この帝国においても彼の名は非常に広がっており、是非ご尊顔にあやかりたいと思う女性が山ほどいるのだ。
そして帝国の冒険者ギルドは、受付する人間はラーガスタ王国と同じく全員女性である。
王都の受付嬢全てを篭絡した顔面力を持っているリュートがいるならば、きっと帝国でも通用するはずだ。
彼に魅了されている間に、ちゃっちゃとダンジョンアタックの手続きを済ませ、帝国から足止めを食らう前にダンジョンに潜りこんでしまおうという算段なのだ。
未だに本人が自身の魅力に気が付いていない点が、男性陣からしたら非常に解せぬのだが。
だからと言ってリュート本人に「今からお前の魅力を教えてやる」なんて言える筈がなく、意味がわかっていないリュート本人に説明する事無く計画を推し進めたのだった。
この目論見は、面白い程にドはまりした。
「これからダンジョンアタックに行きたい。手続きを済ませて貰えないか?」
「はいぃぃ、今すぐ手続き致しますぅぅぅぅ♡」
……大丈夫か、このギルド。
と、内心リュートは不安に思ったが、手続きがスムーズに済むのならなんだっていい。
帝国にはそんなに足を踏み入れないだろうし、帝国のギルドがどんな状況であってもリュートにとっては知った事ではない。
リュートはカズキに指示されて標準語のまま、手続きを淡々と進める。
一方、リュートに恋心を抱いている《烈風》のカズネの内心は、非常に面白くない。
今手続きを担当している受付嬢は、完全にリュートに心を奪われて目がハートマークとなっている。
それに他の受付嬢もリュートに目が釘付けで、業務がそっちのけになっている。
更に、建物内にいる女冒険者達がそわそわし、今にも話し掛けたがっている素振りを見せている。
非常に面白くないし、リュートが取って食われないかが心配で仕方ない。
……自身もその取って食う側だという事を忘れて。
「それで、どちらのダンジョンへ行かれるのですか?♡」
受付嬢が素早く地図を広げる。
地図には今発見されているダンジョンの一覧が記載されており、それにはお目当てのダンジョンもしっかり記されていた。
リュートは迷わず、そのダンジョンを指差す。
「俺達はここを目指している。問題ないか?」
「えっ、ここですか? ここは非常に長いダンジョンとなっておりまして、危険度におきましてもAからSになるかと思われますが……」
リュートは彼女の言葉を聞いて、まだ国から制限が掛かっていない事を把握した。
ならば今の内に手続きを済ませないと、攻略は困難になってしまう。
ここでリュートは、カズキに教わった
「心配してくれて、ありがとう。でも俺達は大丈夫だよ」
カズキに何度も練習させられた、必殺リュートの微笑みの爆弾である。
効果はまさにクリティカルヒットだったらしく、無事受付嬢のハートを粉々に爆発させられたようだ。
ついでにカズネも余波を食らって、胸を苦しそうに抑えている。
この必殺技、受付中に彼女達がごねた場合に使用するようにとカズキに言われ、リュートもそういう事ならばと仕方なく練習していたものである。
練習している最中でも、エリーを含めた女性陣すらもときめいてしまう程の威力なので、充分過ぎる破壊力を有していた。
「はぅぅぅぅぅ♡ わかりましたぁぁ、今申請しますのでお待ちくださいませぇぇぇ♡」
リュートの笑顔で腰が砕かれる寸前にまで陥った受付嬢は、切なそうな吐息を漏らしながら速やかに手続きを終わらせた。
こうして、最大の難関かと思われたダンジョンアタックの手続きは、リュートの手柄によって十分前後で終わってしまったのである。
しかし、少なからずリュートの心にもダメージを与えてしまった。
「……あの受付嬢、すっげぇぇぇぇぇ気持ち悪かっただよ」
軽い女性恐怖症を持っているリュートは、非常に気疲れしている様子だ。
カズキもちょっと悪い事してしまったなと、反省するのだった。
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〇リュートの顔面力
言わずもがな、リュートのイケメン度は既に国外にまで知れ渡っており、とある国の貴族令嬢が「彼を夫にしたい」と動き始めているのだとか。
しかし、次の日には簀巻き状態でリンチされた状態で発見されたようで、犯人は複数犯――候補は数十人にも及ぶ――らしく、未だに逮捕に至っていない。
既にラーガスタ王国では「彼を知らない女性は異常」などと言われる程の認知度で、他の男からはリュートに対して批難の声を挙げたいのだが、実力もあって財もあって性格も良く女遊びを一切しないという非の打ちどころがない男なので、文句も言えない状態となっている。
とある流れ者は、
「言いたい事も言えないこんな世の中じゃ、ポ――」
と意味不明な事を言っているのだとか。
帝国でも非常にリュートの名前は知れ渡っており、女冒険者達はどうにかしてラーガスタ王国に行けないものかと模索しているのであった。
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