第114話 商人さんの能力 其の三
「……成程、型に捕らわれない職業をお選びですね。その無形シリーズは、本人の素質や目標、想いによって能力が変動します。上がる事もあれば下がる事もあるものです。まぁ下がったらすぐに変更しますので、すぐに申し出てくださいね」
「わかっただ」
「では、どのような弓使いになりたいか、明確に思い浮かべてください」
リュートは目を閉じ、自分の理想像を思い浮かべる。
リュートは、冒険者になった事で心境が大きく変化した。
自分で考え、試行錯誤し、たった半年で金等級冒険者になった。
更には《ミーティア》を手に入れた事で、弓の腕前が向上した。
そして今、職業を得る事によって、更なる高みに行ける可能性も見えてきた。
どうしても、欲が出てしまう。
今までの目標は、国一番の弓使いになって聖弓を得る事だった。
だが、今この状況になって心境が変わった。
(……国一番で満足かえ、オラ?)
自身の心に問いかける。
即答で「否」と返ってくる。
どうやら自分の心は迷いが一切無いようだ。
今、聖弓を手に入れるのは、リュートの野望の通過点でしか無くなってしまったのだ。
勿論聖弓を目標にしているのは確かなのだが、その先すらも渇望していた。
もし、自分が国一番の弓使いとなったのなら、今度は世界を狙いたい。
世界で一番の弓使いをどうやって証明するか、それは今はわからない。
いや、まだ聖弓を得てもいないのに想像すらできない、と言った方が正しいだろう。
しかし漠然とだが、目標が出来た。
(オラは、傲慢かもしれねぇけんど、世界で一番の弓使いになりてぇ。いや、世界だけじゃねぇ、超常的存在すら射貫いて殺せる程の、すんげぇ弓使いになりてぇ!)
夢物語、夢想、口八百。
口に出したら色々言われそうな、だけど真剣なリュートの目標。
目指すのであれば、弓の頂点に座したい。
叶うかどうかではない、生涯を賭けてその目標を狙って行くのだ。
きっと非常に困難だろう。
だから、面白いのだ。
(だから人生は、すんげぇおもしれぇ!!)
リュートは目を見開き、カズキを真っすぐに見つめる。
(……ほぉ、これはこれは。途轍もない大志を抱いたようだ)
リュートの眼を見たカズキの感想は、これだった。
この眼は、直近の目標を抱いているものじゃない。
もっともっと、ずっと先を見据えた眼だと直感的に感じたのだ。
(俺の時は無形シリーズ、最低になったんだよな。次期後継者になった俺が貰ったのは《ひよっこ侍》だったからな)
カズキも当然居合を全て修め、腕にも自信があったので《無形の侍》を選択した。
その結果、職業名が変化した結果が《ひよっこ侍》だった。
正直言ってショックだった。
次期後継者なのにひよっこなのか、と。
結局はこの異世界では、自分の腕前がなかなか通用しなかったのだから、嫌でもひよっこ侍だった事を突き付けられたのだった。
「ではリュートさん、行きますよ?」
「よろすく頼む」
カズキは《職業付与》を発動する。
そして、《無形の弓使い》を選択して、リュートに付与を実行した。
リュートの身体は淡い緑色の光に包まれ、やがて徐々に光が小さくなっていく。
この光は、ゆっくりと優しく職業に適した肉体に最適化する光だ。
《ステイタス》のように激痛が伴う痛みは一切無く、光が丁寧にリュートの肉体を変化させていく。
やがてリュートを包んだ光は消え、無事職業が付与された。
果たして《無形の弓使い》は、リュートに良い方向へ働いてくれたのだろうか。
「……うん。はっきりわかるだよ。より感覚が鋭くなったっちゅうか、弓の事を理解出来るようになっただ」
「ほほぅ。良い方向に働いたようですね。鑑定しても?」
「いいだよ」
「では……。――っ!?」
カズキはリュートの鑑定を行って、息を飲んだ。
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名前:リュート
筋力:A(《ミーティア》特化)
防御:E
技量:測定不能(弓限定で、弓以外はF以下)
速度:C
体力:B
魔力:無し
視力:S
職業:
〇スキル
無し
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(そ、測定不能!? 何だそれ!! それに《
更に鑑定を使い、謎の職業である《
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〇
弓に全てを捧げ、弓で世界を変え得る可能性を持った者のみが成れる職業。
その道は果てしなく困難で、周囲からは夢想家と指を刺されるかもしれない。
それも含めて覚悟を決めた、強い信念を持った弓使い。
其の者が狙いを定めているのは、神の眉間。
技量を大きく上昇し、弦を引きやすいように筋力も上昇。
そして視力も上昇する。
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(リュートさん、貴方は神をも
目の前の若者は世界一で飽き足らず、どうやら神をも射殺す弓使いに成りたいと望んだようだ。
何と恐れ多い願いだろう。
しかしだからこそ、この職業を得る事が出来たのだろう。
(唯一無二――"The One"か。英語では《神》という意味もある。俺のスキルは「弓の神に成りうる存在」と判断したようだ)
現人神なんて冗談で言われているリュートだが、もしかしたら――冗談じゃなくなる可能性すら出てきた。
もう、呆れて物が言えない。
「か、カズキ?」
リュートが不安そうにカズキを見つめてきた。
「おっと、失礼しました。正直かなり驚きましたよ……。情報を紙に書いても?」
「んだ。よろすく」
「では」
リュート本人と《ジャパニーズ》の全員が見守る中、カズキはリュートの能力を紙に記していく。
それを見た全員が――
「「「「「なんじゃこりゃ」」」」」
と同時に叫んだのだった。
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