第113話 商人さんの能力 其の二
『……思いっきりチートやんけ。どこの主人公やねん』
ショウマがニホンゴと呼ばれる言葉で何かを呟いていた。
理解が出来るのはリュート以外の全員。
リュートは置いてけぼりである。
「とりあえず、《超越級》の皆さんには決して劣りませんので」
「いやいやいや、劣るどころか勝ってますって!」
カズキの《ステイタス》はスキルも異常だが、各種能力も相当だ。
技量に関しては人外より更に先へいってしまっている程だ。
ちなみに技量はどのようなものかを訊ねた所、その人物が持ち合わせている、純粋な戦闘技術をランク付けしているようで、SSとなると現人神と言われてもおかしくないのだとか。
つまり、カズキは純粋な戦闘技術が非常に高いと言えるのだ。
「私は幼少期から《円城流居合術》を学んでいまして、十六の時に次代継承者として認められましたから、それが能力に反映されたのです」
「すっご! 居合いかっけぇぇぇ!!」
どうやらショウマのオタク心に火が付いたようだ。
リョウコはショウマの頭をぽんぽんと叩いて、何とか宥めようとしている。
「後は、就職先が派遣会社の正社員でして、そこで様々な方に職業を紹介していたから、このようなスキルを与えられたのではないかと思います」
「……継承者なのに選んだ仕事」
今度はタツオミがツッコミを入れた。
「兎に角、私のスキルで皆さんに職業を付与する事で、皆さんが今以上に強くなれるのは間違いないです。私が鑑定して、皆さんに最適な職業を付与するのもいいですし、なってみたい職業があるなら選択して頂いても構いません。ただし、注意すべきは、その職業に合った得物でないと上手く扱えなくなってしまう点です」
例えばリュートが剣士を選んだとしよう。
すると、職業が付与されると肉体は剣を振るうのに最適なものへと変化する。
変化した後、剣はしっくり来るが弓を持つと違和感しか抱かなくなり、弓を今まで通りに扱う事が不可能となるのだ。
なら弓に特化した職業を選んだらどうなるか。
答えは簡単で、より弓を扱うのに最適な体に変化し、弓の腕前は更に上がる――可能性がある。
「……正直、リュートさんの場合は弓の腕前がかなり極まっていますから、職業を付与したとして、更なる高みにいけるかはやってみない事にはわかりません」
「「「「ああ……」」」」
「なして皆納得するだよ」
元々リュートは弓の腕前に関しては天上人と言われている程だ。
そんなリュートが今更職業を得て、肉体が最適化するかと言われたら疑問が残る。
《ジャパニーズ》の皆は、カズキの言葉に納得できたのだった。
「さて、ではまず皆さんに職業を付与したいと思うのですが――」
「ちょっと待ってくれないか?」
カズキが皆に職業を付与しようとした時、ショウマが待ったをかける。
「どうしても、ど~~~~してもなんだけど! リュートを鑑定してもらえない?」
「……ああ、成程。私も気になりますね」
「僕も」
「「私も」」
「なして?」
リュート本人は納得していないが、彼には《ステイタス》が何らかの理由で付与されているのではないかという疑惑が掛かっている。
ここにいる者達だけではない、冒険者達にも、ギルド側にも疑われているのだ。
もし、本当に《ステイタス》が無かった場合、リュートは化け物か現人神かのどちらかである。
あまり乗り気でないリュートだが、確かに自身の能力が気になる。
リュートはカズキに鑑定してもらう事にした。
結果は――
「……うっわぁ」
カズキからドン引きな声が漏れた。
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名前:リュート
筋力:B(《ミーティア》特化)
防御:E
技量:SSS(弓限定で、弓以外はF)
速度:C
体力:B
魔力:無し
視力:A
職業:無し
〇スキル
無し
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「リュートさん、《ステイタス》無しでこの能力は、ちょっと人間辞めてますよ」
「オラ、人間だぎゃ……」
「そもそも、能力にかっこが付いて表示されるなんて、初めてなんですが」
「オラ、弓以外の技量はねぇのか……」
「……弓に極振りしてますね」
《ステイタス》も付与していない普通の人間が、SSSに辿り着くのはほぼ不可能に近い。
だが、このイケメンな弓使いはさらりとやってのけている。
弓の現人神でいいのではないか、というレベルである。
カズキが紙にリュートの能力を書いて見せると、《ジャパニーズ》の面々も驚くしかなかった。
「これが極振りした人間の極致かぁ」
「翔真、職業を付与したら、もっと凄い事になると思うぞ」
「和樹さん、早くリュートに職業を付与してください!」
「わ、私も気になる!」
「……オラを玩具にしてねぇか?」
異常な弓の腕を持つリュートが、職業を付与する事で更なる進化を遂げるかもしれない。
今この時だけ、元の世界に帰る事よりリュートがどのように進化するのかが気になって仕方なかった。
《ジャパニーズ》の全員が目を輝かせ、カズキを急かす。
だが、カズキも乗り気だ。
リュートの能力がどのように化けるか、楽しみで仕方ない。
「リュートさん、貴方は弓に特化した職業にするべきです! さぁ、提示しますので選んでください!!」
「しょ、商人さんが見せた事ねぇ
これがニホンジンなのか。
リュートは心の中で呟いた。
リュートがお勧めされた職業は、以下である。
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〇
弓に特化した職業。
肉体は弓を射るのに最適な体へと変化する。
能力も視力以外は下がる可能性がある。
〇
弓を得意とし、自然と調和する職業。
五感が研ぎ澄まされる為、気配に敏感になる他、罠等に気付きやすくなる。
〇
超長距離狙撃を得意とした職業。
視力が格段に強化され、どんなに重い弦も引く事が出来、照準がぶれる事が無くなる。
能力が下がるものがないのも特徴。
※《ミーティア》以外の弓は自動的に受け付けない。
※現状リュート専用職業。
〇狩人
弓による狩猟を得意とした職業。
獲物の気配をいち早く察知し、気配を殺して存在感を極めてゼロに近い状態にする事が可能となる。
獲物は人間も可能。
弓の腕前は格段に下がるが、他の能力は上がる。
〇無形の弓使い
型に当てはまらない、何者にも成れる職業。
どのような弓使いに成りたいかを決めなければ、一般の弓使い以下になる。
能力も思い描いた弓使い像に最適化する。
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「えぇぇぇ、これ悩むやつだ」
ショウマがまるで自分の事のように呟く。
しかし、ショウマが言ったようにリュートも悩んでいた。
正直、職業の力を借りなくても、それぞれの職業の技能は現状でも出来るのだ。
その為、敢えて職業を得てもリュート自身のメリットになり得ない気がしてならない。
だが、唯一気になるのがあった。
それは、無形の弓使いだ。
何故だろう、無性に惹かれてならないのだ。
まるで、リュートの為にある職業ではないか、そのように思わずにいられなかった。
「リュートはやっぱスナイパーっしょ! 遠くから眉間をスパーンって! 俺はそう思うなぁ」
「甘いよ翔真、僕は狩人がいいと思う。気配を消して、人を狩る……。マンハントにも特化できるだろうね」
「私としましては、やはりスナイパーが宜しいかと。どうやらリュートさん専用らしいですし」
「私的にはレンジャーだなぁ。リュートが森の中に一緒にいるだけで、とっても心強いし!」
「私、アーチャー推し」
「……決めるの、オラだからな?」
しかし、皆が言っている事も一理ある。
あるのだが、ここはやはり自分の直感を信じた方がいいだろう。
「カズキ、決めただよ。無形の弓使いで頼むだ」
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