第109話 異世界から来た友人の為に


 エリッシュの言葉を聞いて、真っ先に思い付いた人物がいた。

 それは、《ジャパニーズ》の面々だ。

 争いが極めて少ないチキュウという世界のニホンという国で平和に暮らしていた彼等は、唐突にこの世界にやってきた。

 そして訳も分からず流れ者と後ろ指を刺され、時には理不尽な暴力にもあったという。

 更には故郷と比べると極めて命が軽すぎるこの世界。

 彼等はこの世界を恨み、冒険者として生活の糧を得ると共に元の世界へ帰る方法を探していた。

 その最中、彼等とリュートは出会い、友となった。

 リュートの存在は、異世界人である《ジャパニーズ》にとってどれだけ大きかった事か。


 そんな大切な友人である《ジャパニーズ》達が、元の世界へ帰る事が出来るかもしれない。

 成程、確かに自分の為の依頼だ、とリュートは思った。


 リュートは深く考えずに、口を開いた。


「その依頼、オラが受けるだ。詳細を教えてけろ」


「……妬けるなぁ。流れ者の彼等に」


「別にオラは友人に優劣は付けてるつもりは無い。けんど、友人が困ってるなら力を無条件で貸す。それがオラだ」


「ふっ、やっぱり君は面白いよ」


 エリッシュは詳細を語る。

 どうやら、帰る方法というのはとある超常的存在を倒す事らしい。

 何故方法が見つかったかというと、今冒険者ギルドが総力を挙げて全てのダンジョンを調査しているのだが、とある冒険者パーティがダンジョン最奥まで到達した。

 この冒険者パーティは、リュート程手厚くないがエリッシュが軽く支援している冒険者パーティで、ギルドに報告するより真っ先にエリッシュへ報告してくれたようだ。

 さて、調査内容だが、驚くべきものであった。

 このパーティは最奥にいる超常的存在と会話したという。

 しかも先に話し掛けてきたのは向こう側だ。


「貴殿らは、我に挑む者か?」


「いや、調査をしに来ただけだ」


「残念だ。我と戦い、勝てたら望む世界に道を創ろう。戦わないなら、即去れ」


 会話内容はこれだけだが、エリッシュがそれを聞いた時、流れ者を自分達の世界へ帰せるのではないか? と考え付いたそうだ。

 対象の超常的存在の名は、《くうに道を造る者 ラデュ・オン=バーン》。

 彼の魔法は空間系。

 絶対的防御力を誇る敵も、空間ごと切り裂く魔法だったり、無の空間へ敵を放り込む事も可能だ。

 しかし、下手をすると使用者自身も巻き込まれてしまう為、取り扱い注意だが絶大的な威力を持つ魔法の数々に、魔法を愛用している者はかなりの数でいる。

 だが、名前から察する通り、空間を移動する魔法も存在している。

 のだが、人間では扱いきれない程の魔力が必要となる為、基本的に攻撃魔法ばかり使われている。


「《ラデュ・オン=バーン》……」


「彼を倒せば、望む世界へ渡れる。だけど《遊戯者》と戦った経験がある君ならわかるだろう? 超常的存在は一筋縄じゃいかない」


「……んだ」


 リュートは膝元に置いた漆黒の弓ミーティアを撫でる。


「しかもこのダンジョンは二つの問題を抱えている」


「……二つ?」


「一つ目。階層はなんと五十階まで出来ているんだよ」


「五十!? オラが倒した《遊戯者》の時は十階層だった。その時ですら発見されたダンジョンで一番深いっちゅう話だったべ!?」


「……どういう訳か、《遊戯者》がいなくなった事がきっかけかわからないけど、全てのダンジョンが急速に成長しているんだ」


 ダンジョンは生き物だ、とはよく言ったものだ。


「二つ目。ラーガスタの隣国、《軍事帝国 オーデュロン》にあるという事だね」


「……オーデュロン」


 オーデュロン。

 軍事帝国としてこの世界最大規模の国土を持つ国だ。

 この世界に八つしか国がない理由は、このオーデュロンが各国を攻め入り占領してしまった事にある。

 それでも尚彼等は領地を広げようとしており、残り七つの国に対しても頻繁にちょっかいを出してくる。

 更に人間至上主義を掲げており、同じ人間として扱われている筈の獣人、エルフ、ドワーフを人間として認めず、『人間の枠から外れた人型の家畜』という意味を込めて《亜人》という蔑称で呼んでいる。

 オーデュロンに捕まった所謂亜人達は、人権も尊厳もない扱いで、家畜よりも扱いが悪い《奴隷》という身分へ堕とされる。


 そんな軍事大国且つ人種差別上等な国の中に、件のダンジョンがある。

 もしかしたら、オーデュロン側も別世界へ渡ろうとしている可能性すらある。

 

「もし行くなら急いで行った方がいいよ。もしオーデュロンがこの事に気付いたら、入国制限をかけて独占するだろうしね」


「……それは困るだよ」


「しかも五十階層もあるし、なかなか大変だったらしいよ。四つの《超越級》パーティ――人数にして二十人で挑んだらしいけど、帰還出来たのは七人程度らしいし」


「……成程」


 その《超越級》達がどれ程の腕前かは不明だが、相当難易度が高いダンジョンだと思っておいた方が良さそうだ。


「こうしている間にも、きっとダンジョンは成長している筈。善は急げだよ、入国制限が入る前に速やかに行動するべきだ」


「そうするだよ。じゃあ申し訳ねぇけど、お暇するだよ」


「ああ。頑張ってくるんだよ?」


「んだ。へば」


 リュートは足早でエリッシュの屋敷を去る。

 自分だけではどうしようもない。

 ダンジョンアタックをするメンバーが必要だ。

 皆が王都に留まっている事を祈り、リュートは駆ける。

 異世界で苦労した友人達の為に、無意識的に全速力で走っていた。

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