第五章 帰還作戦編
第108話 田舎者弓使い、度肝を抜く情報を仕入れる
東の町を全滅させた《竜種》を全て矢で屠ったという話は、一瞬で王都を駆け巡った。
最初は「そんなの不可能だ」と皆口を揃えて言ったのだが、「それをやったのは《銀閃》だ」と言うと、「あいつならやれるなぁ」という感想に変わった。
実際王都に持ち込まれたワイバーンの死骸二十頭分とランドリザードの死骸は、あまりにも綺麗で皆目を見開いて驚いていた。
《竜種》となると全力を出さないと倒せない相手だ、それ故に激しい戦闘になる為傷がつきまくってしまう。
だが、リュートが仕留めた《竜種》は全て頭部を一撃。
巨体なランドリザードすらたった一射で始末している。
以前から弓の極致にいる存在だと囁かれていたリュートだが、弓の現人神なのではないかと言われ始めていた。
さて、良質な肉と素材が手に入った王都は、今やお祭り騒ぎ。
ワイバーンとランドリザードの肉は冒険者ギルドから販売され、王都中の料理店がこぞって購入しようと集まる。
当然滅多に手に入らない《竜種》だ、高額になるのだがそんなのは知ったこっちゃない。
各々の店は自身の資金力の限界まで肉を購入し、店の商品として提供する。
するとどの店もたちまち大繁盛、全ての店が違うドラゴン肉の料理を提供するので、民が各店を食べ歩きするという事態が一週間も続く。
そして、今回の最大の功労者として、ドラゴン素材を総取りしたリュートだが。
既に《ミーティア》という最高の武器を手に入れているし、リュートの先頭スタイルだと防具も必要ない為、手に入れた素材は自身のスポンサーである《ゴルドバーグ鍛冶屋》に全て無償で提供したのだ。
店主であるゴルドバーグも流石に金を払おうとしたが、金に困ってないと一蹴されてしまったのだった。
金等級の中でも《超越級》並みの稼ぎ方をしているリュートにとって、素材で得る金は些細なものである。
それに使え切れない程貯金されている為、今はそれ以上必要ない。
「いつもオラを支援してくれてるから、そのお礼だべ」
「……リュートさん」
冒険者は基本的支援されたらお返しをする人種ではない。
何故なら、金を払って広告塔になって貰っているので、その時点で互いに取引は成立しているからである。
だが、目の前にいるイケメンは、まるで近所にお土産を渡す感覚で素材を提供してくれたのだ。
心までもイケメンである。
「ありがとうございます、より良い武具を製作します」
「そうしてけろ」
こうして、リュートがもたらしたドラゴン素材と肉は王都に広まり、よりリュートの名声は広がっていく。
「冒険者の模範的存在」、「弓の現人神」、「男の中の男」、「歩けば女が腰砕ける」、「王国一のイケメン」等々。
勿論リュートを妬む者もいたのだが、自分達と同じ気持ちを抱いている者があまりにも少数であり、味方が多すぎる為に強く出る事も不可能だった。
それから一か月後、とんでもない事件が起こる。
「リュートさん、こちらが今回の指名依頼です」
「……エリッシュからの依頼か。わかった、受けるよ」
「はい、かしこ――……え?」
「ん? この依頼、俺が受けるよ」
「え、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!??」
リュートの言葉から突如訛りが消え、標準の発音になっていた。
他の冒険者もリュートの言葉を聞いており、非常に驚いていた。
全てにおいて完璧だったイケメンの唯一の弱点であった、田舎者丸出しの訛りが消えてしまった事により、イケメンの完全体が誕生してしまったのだ。
「あ、あの……リュートさん。失礼ですが、言葉遣いが標準になっているんですけど」
リュートの専属受付嬢であるフィーナが、恐る恐る質問をする。
「ああ、この言葉だね? 俺の目標は王国兵士になるだから、標準語も覚えないといけないって言われたんだ。だから、目下練習中だよ」
実はリュート、オーギュストとの勉強は次のステップへと進んでいた。
ある程度の知識と学力が身に付いたので、次は標準語を覚えるというものだった。
辺境の村ですらあまり聞かない、複雑な訛りがあるリュートはどの勉強よりも手こずってしまっていた。
だが一ヶ月掛けて、ようやく標準語でも話せるようになったのだ。
確かにたまに発音が怪しい所がある。
しかし、今まで訛りが強い言葉を聞いて慣れてしまったフィーナからしたら、違和感が半端なかった。
それにフィーナも美青年なのに訛りがあるという部分を可愛らしいと感じていたので、少し残念だったりした。
「とてもいいと思うんですけど……その、きっと慣れてなくて疲れちゃうと思うので、私の前では……今まで通りでもいい、ですよ?」
要約すると「私の前では素でいていいですよ」という、遠回しなアピールである。
だがリュートはそのままの意味で受け取る。
「本当け? ありがとぉ! いやぁ、標準語は気ぃ遣って疲れるだよ」
「っ!! そ、そうですよね!」
やっぱり、訛りの方が可愛らしくて好きだ、とフィーナは思った。
心臓が大きく跳ね、身体が火照るのを感じた。
「んじゃあ、エリッシュの所さ行ってくるだよ。
「い、いってらっしゃいませ!」
リュートがギルドから出た後、ギルド内にいた冒険者達は「リュートが標準語を喋った」というとてつもない事件について、大いに語ったという。
「んで、僕の場合は敬語の練習相手になれって事かい?」
「はい、そうでございますです」
「……ぷっ、敬語はまだ落第点だなぁ」
「……敬語、難しいです」
「も、もう無理!! あはははははははははははははははっ!! お願いだから今まで通りに喋って! 僕、笑い死んじゃう!!」
「……何かむかつくだよ」
場所は変わってエリッシュ伯爵の屋敷。
彼はリュートのスポンサーで、度々リュートに指名依頼を出していた。
そうして交流を進めていく内に、平民と貴族という身分違いであるが友情が芽生えていた。
今や二人はなんでも話し合える仲にまで発展していた。
「ひぃ、ひぃ、はぁ笑った。ごめんごめん、そんなにむくれないでよ」
「……おめぇ、笑い過ぎだべ」
「そりゃ誰でも笑うって! 敬語はもっと話せるようになるまでは封印しておいた方がいいよ」
「……そうするだよ」
笑い疲れて、応接室のソファに寝っ転がるエリッシュ。
今の姿は貴族としての威厳は全くない。
それもリュートに心を許しているという証なのだ。
「さてと。じゃあ本題に入るね。今回は僕の為の依頼っていうより、友人の君の為になる依頼だよ」
「オラの? どういう事だべよ?」
「……流れ者が元の世界へ帰る方法が見つかった」
「なっ!?」
あまり驚く事がないリュートにとって、驚愕に値する情報であった。
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〇流れ者は元の世界に帰れるのか?
流れ者は別の世界から転生または転移してきた人間に対する蔑称である。
この世界に迷い込んだ流れ者が、自身の世界に無事に帰還したという記録は一度もない。
もしかしたらいるにはいるかもしれないのだが、そもそも流れ者の全員を把握している訳ではないので、記録上はゼロとなっている。
帰還を望む者は死に物狂いで方法を探しているのだが、大抵の者は夢叶わず死亡している。
もし帰還できるとするならば、その方法は非常に困難な方法かもしれない、と噂されているのだった。
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