第106話 孤高の銀閃、救援に向かう



 場所は変わって王都南部。

 そこにはリュートと《竜槍穿りゅうそうせん》のメンバー、《鮮血の牙》のメンバー、《ジャパニーズ》のメンバーと、普段仲良く交流している面子でゴブリン狩りをしていた。

 数も百近くいたので、被害にあった女性を介錯する可能性もあるかもと思い、気が重かった面々だが、奇跡的に被害にあった女性がおらずに一安心だ。

 彼等の周囲には無惨な死体となり果てたゴブリン達の山。

 そしてゴブリン達が撒き散らした、鼻を塞ぎたくなる程の異臭を放つ血が大地を染めていた。


 しかしこの面子は普段しっかりと鍛錬を欠かさない為、百近くのゴブリンを屠っても、まだ余力は残っていた。

 リュートも随分と余裕があり、ゴブリンに突き刺さった再利用可能な矢を回収していた。

 弓使いは矢が命、矢が無くなったら死を意味する。

 再利用できるなら、どんなに鏃に臭い血が付いていようが再利用するのだ。


「はぁぁぁぁ、今回は女性の犠牲者がいなくて本当よかったぁぁぁぁ」


 そう声を上げたのはリョウコだ。

 まだ彼女の心には、多人数協力依頼レイドの時のトラウマが刻み込まれている。

 そんな状態で被害者女性をまた介錯するとなったら、また心の傷を負って引き籠りになってしまうかもしれない。

 その為、心の底から被害者がいなかったのはよかったと安堵していた。


「さて、ここら辺の魔物は一掃したな。とりあえずギルドに戻ろう」


 このメンバーで最年長――と言っても、まだ二十八歳らしい――のハリーが、皆に指示をする。

 もうすっかり皆仲良くなったので、ハリーの指示に反対する者はいない。

 それにゴブリンの臭い返り血も浴びてしまったので、今すぐにでも洗い流したい気分なのだ。

 

 周囲を警戒しつつ王都に辿り着きギルドに入ると、冒険者は誰一人いなかった。

 

「誰も待機していない……? 何かあったのか?」


 ハリーがぼそりと呟く。

 ハリー達は受付嬢の元へと向かう。


「あ、皆さんお帰りなさい!!」


「ああ。で、これはどういう状況だ?」


「それが――東の町にワイバーンが二十頭出現しました」


『は?』


 リュートも含めた全員が、声を揃えて驚く。

《竜種》であるワイバーンが出現するのも珍しいのだが、それが二十頭となると異常事態である。

 

「じゃあ他の冒険者は全員東の町へ?」


「はい……」


「人数は?」


「三十名ですね」


「……ワイバーン二十頭相手に三十人は、少ないな。俺達も向かった方がいいか?」


「それが、今このように冒険者さんが誰もいない状態ですので、あなた方は待機してもらった方がよろしいかと……」


 今は冒険者は全員出払っている。

 別の地域で魔物が出現した場合、排除しなくてはいけない為、待機要員が必要なのだ。

 その為、ハリー達には待機要員になってほしいというのが、ギルド側の要望である。


「……しかし、相手が《竜種》となると、被害はとんでもないぞ?」


「私共もかなり悩んだ結果、このような判断をしたんです……」


「ふうむ」


 ギルド側の判断は間違ってはいない。

 だからこそ反論も出来ない。

 降臨祭はそれだけ魔物が現れては、人間の平和な生活を脅かすのだ。

 ワイバーン討伐にかまけて他の地域は面倒見れませんでした、という言い訳はギルドとしては言いたくないだろう。


 前回の降臨祭でも《竜種》は出ていたが、ここまでの数は出現しなかった。

 良くない事が起こりそうな予感があった。


「なぁ、オラが救援に向かってもええか?」


「え?」


 ふとリュートが手を挙げ、自ら救援に名乗り出て驚く受付嬢。


「お、お一人で、ですか?」


「んだ。ワイバーンぐれぇなら、村で何度も仕留めてるだよ」


「わ、ワイバーン位って……」


「オラ一人なら二十頭は余裕だべ。ハリー達は待機してもらって、オラが早足で向かうだよ」


「わ、わかりました! 馬は用意してありますので、よろしくお願いします!」


「んだ。じゃあなへば


 リュートは駆け足でギルドを出ていく。

 その後ろ姿は非常に頼もしかった。

 だが――


「……ワイバーン『位』って。あいつ、やっぱり頭おかしいな」


『うん』


 ハリーの言葉に、全員が声を揃えて頷いたのだった。


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