第103話 降臨祭 其の三


《最古の道標 バーヤ=ドル・キルス》が司る魔法は、《探知》と《コピー》である。

《探知》は人間達が《ステイタス》を開発されるまでの間、ダンジョン探索において重宝され、頻繁に使われていた。

《コピー》は一日程度対象の人間の姿になる事が可能という、ちょっと使い勝手が悪い魔法だ。

 毎日相当数の人間が《探知》の魔法を使用していたおかげか、バーヤのダンジョンは、《遊戯者》が《魔界》に来た時からずっと昔に既に九十九階層に到達しており、自由に《現界》を行き来出来るのだ。


 ならバーヤが魔王となるのではないか? という疑問が湧くが、バーヤはそれを断った。

 何故なら、バーヤは《遊戯者》が仕掛けたゲームを、第三者視点で見届けたいからだ。

 そして不甲斐なかったら、少しばかり梃入れをする。

 それがバーヤの『楽しい』であった。


「しかし、あんなに怠惰だったあんたら――えっと、今は《魔族》って名乗ってるんだっけ? そんなあんたらがここまで活発になるなんてね。《旅人》に感謝しなくちゃ」


「確かに、《遊戯者》には心から感謝している。生きるというのがこんなに楽しいなんて、生まれてから一度も感じた事がなかったからな」


「ふふ、父母ちちはは様も凄く喜んでいたわよ、あんた達のおかげでこの世界はより面白くなるって」


 ミーニャが言う父母様とは、創造主の事である。

 彼等 《天使》曰く、父であり母でもあるからだそうだ。


「意図せずして創造主を楽しませられているのなら、我等 《魔族》も本望だ」


「それに私達 《天使》も楽しませてもらってるよ。《天界》はちょっと平和過ぎて退屈なんだ」


「それは《魔界》も同じだ。何もないからな」


「あんた、それは自業自得でしょ。世界を分ける時に何も望まなかったの、《魔族》じゃないか」


「……そう言われると、返す言葉もない」


「はは、随分とまぁまともに会話出来るようになって……。同胞として感慨深いよ」


 ミーニャとバーヤは、用意された紅茶を啜る。

 ミーニャは何度も味わっているので慣れているが、食事を必要とせず、今まで食べ物や飲み物を一度も口に含んだ事がないバーヤにとって、紅茶から得られる口内の刺激は非常に楽しいものであった。


「……これが味覚、か。これもまた楽しいものだ」


「前回会った時は、あんたまだ感情なかったもんね」


「お前達に来いと言われたから行っただけだったしな」


「父母様も喜んでいたよ、あんた達に感情が宿って」


「そうか……。ならばよかった」


「さて、と」


 ミーニャが紅茶が注がれているカップを置き、足を組んで顔をバーヤに近付ける。


「本題に入る。私達もあんたらのゲームに加わりたい」


「? どういう事だ?」


「さっきも言ったように《天界》は平和過ぎて暇なんだ。他の《天使》達も大分鬱憤が溜まっていてね……。だから、ゲームに参加させてほしい」


「成程、どのように参加したいのだ?」


「恐らく、今のままだとあんた達のワンサイドゲームになってしまうよ? 今の人間達はあんた達が思っている以上にヘタれていてね、《魔族》が世界征服に乗り出したらゲームが成立しない位弱いのさ」


「……それは」


「つまらない、だろ?」


 ミーニャの問いに頷くバーヤ。

 簡単に想像できた。

 地上征服ゲームは、人間の抵抗があって楽しくなるものだ。

 だが、人間が弱すぎると、ゲームとしては破綻している。

 それはそれでつまらな過ぎて、恐らく《魔族》が不満爆発するだろう。

 ゲーム進行役としては、何としても回避したい最悪の結末だ。


「だから、私達 《天使》達が、人間達のケツをひっぱたく役割をするのさ」


「ほう……? だがお主達は今日みたいな特別な事が無い限り、《現界》に干渉出来ないだろう?」


「ふふ、そこはしっかり考えているさ」


《魔族》が人間から得られる魔力を糧にしているように、《天使》達は人間の信仰心を糧としている。

 その糧が一定量溜まった時、一日だけしかもたないが肉体を生成して《現界》に降臨できるのだ。

 それが四年に一度という周期だ。


「今日、私が《天界》に帰る時、『近い未来、人間達に恐ろしい災いが来るだろうから、ちゃんと実力を付けて備えておけよ』的な事を言っておくよ。で、定期的に神殿に仕えている神官って奴に『このダンジョンから魔物が溢れそうだから、何とかしろ』って指示を出すのさ」


「……合っているかわからんが、ある程度魔王を決めるゲームから介入を始めて、人間を障害役として向かわせるという事か?」


「その通り! 何でもカンでも思い通りにダンジョンを成長出来てしまうのも、つまらないだろう?」


 ミーニャには《魔界》の現状を見透かされているようだ。

 魔族達はあまりにも順調にダンジョンを成長出来ているせいか、若干飽きが出てきていた。

 となると、ここで刺激物を投下しないと、また昔みたいな怠惰な魔族に戻ってしまうかもしれない。


「こちらとしても非常に有難い。人間を向かわせるダンジョンはどのように選出する?」


「そこは適当でいいんじゃない? 全てかっちり決まってたら、面白くなさそうだし」


「成程な」


 バーヤはゲーム進行役と同時に、魔族全員の相談役にもなっている。

 どうやったら効率良くダンジョンを成長できるのか、等様々だ。

 バーヤは的確なアドバイスをする為、魔族達からは信用されている。

 恐らく人間達がダンジョンに攻め入ったら、相談の一つも入るだろう。

 ならば相談を上手く利用し、ゲームをより良い方向へ向ける事も可能だ。


 ゲーム進行役として、非常に有難い申し出だ。


「わかった、《天使》達の申し出、有難く受け入れる」


「ふふ、ありがとうね。それと、あんた達が地上に出てきて侵攻を開始したら、間違いなく私達は人間側につくから、敵になっちゃう。そこは先に謝っておくよ」


「謝る必要はない。それはそれできっと楽しくなる。こちらとしても《天使》の介入は有難い」


「……本当にあんた達は変わったよ。ってかゲーム狂いになってない?」


「ふむ、否定は出来んな」


「まぁ全然今の方が魅力的だけどね」


「ありがとう、と言っておく」


 二人は向き合って、ふっと軽く笑う。

 こんなやり取りも、魔族に感情がなかったので今まで出来なかったものだ。

 ミーニャは心の底から、同胞として嬉しく思うのだった。


「あっ、そうだ。実は父母様から許可を頂いてるんだけど、もしあんた達が侵攻してきた際は、人間達に私達が作った武器を送る事にしたから」


「ほう、武器とな。詳しく」


「人間ってのは、元の性能は私達より遥かに劣っている。だけど、装備や知恵で性能の低さを補う事が出来るんだ」


「確か、普通ノーマル高級レア最高級マジック英雄エピック伝説レジェンダリー神器ゴッヅと、武具に等級が決まっていたな?」


「おっ、よく勉強しているじゃないか! 今 《現界》にある最高の等級は伝説レジェンダリーでね、恐らくあんた達の侵攻に対抗するには神器ゴッヅを与えないとダメだね」


「……神器ゴッヅか。確かこのラーガスタという国には聖の名が付いた武器があった筈だが?」


「あれは言うなら伝説レジェンダリー止まりだからなぁ。あんた達に対抗するにはちょっと心許ない。だから、私達 《天使》の力を注ぎこんで作った武具を人間に送るのさ」


「おお……それは最高の障害ではないか」


「だけど、それであんた達に匹敵する人間が出来上がっちまうんだ。あんた達もしっかり対抗してよね?」


「ふ、ふふふ。良いタイミングを見計らって、対抗策を考えるように仕向ける」


 楽しそうに嗤うバーヤを見て――


(本当、楽しそうでいいね)


 と、微笑ましくなるミーニャだった。






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