第100話 田舎者弓使い、金等級になる

MFブックス10周年記念小説コンテストの中間選考を通過しました!

皆さま、本当にありがとうございます!

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《一番星》は、決して弱いパーティではない。

《ステイタス》も持っていて、依頼達成率は九割強。

 そんな彼等とリュート一人であれば、流石にリュートが負けてしまうだろうと誰もが思っていた。

 だが蓋を開けてみたらどうだろうか?

 リュートが終始彼等四人を手玉に取って、傷一つ付ける事無く完封勝利をしてしまったではないか。

 ……勝利方法がえげつなかったが。

 それにどうやら彼は汗一つかいていないようだ。


「やっぱり、リュートは凄い」


 観戦していたハリーが呟く。

 

「……彼の強みは眼の良さ、状況に応じてすぐに決断を下せる判断力、常に心が落ち着いている安定性ですわね。あの盾役タンクの陰に隠れて攻撃魔法を撃たせないなんて、瞬時に発想出来ませんわ」


 ニーナは呆れたような溜息を一つ漏らす。


「いやぁ、魔法の弱点を突かれたねぇ。魔法は弓とかボウガンと違って、敵一人の部位を狙える魔法っていうのが非常に少ないし、あったとしても詠唱に時間が滅茶苦茶かかるんだ。だからあの状況だと味方を巻き込んじゃうんだよねぇ」


 魔法使いのヨシュアは、「うわぁ」と言葉を漏らしてから試験での状況を語る。

 そして、リュートガチ恋のエリーはというと――


「そんな事はどうでもいいの! まずはお祝いしなきゃ。これなら金等級間違いなしっしょ! リュートォォォ、勝利おめでとぉぉぉぉぉっ!!」


 彼女はありったけの大きな声で、リュートを祝福した。

 その言葉を聞いて、他の観客も拍手をしながら「凄かったぞ」「参考にさせてもらったぜ」という言葉をリュートに掛ける。

 拍手喝采を全身に浴びているリュートだが、彼はそれに応えずに真っ先に《一番星》達の事を気に掛けていた。


「すまねぇ、やりすぎちまった。大丈夫でぇじょうぶか?」


「……ああ。悔しいが、完敗だ。お前にフィーナさんを託す」


「?????」


 リオンは、何故かリュートにフィーナを託した。

 正直理解が出来ずにいた。


「しかし、リュート。何だお前、強すぎじゃねぇか。よくあんな戦術を思いついたな」


「ん~、別に考える時間は充分にあっただよ」


「えっ、いつよ」


「おめぇとあの盾役が挟み撃ちで攻めてきてる時だべ」


「……俺達の攻撃を避けながら、考えてたって事か?」


「んだ」


「……マジか」


 少なくとも、手数を緩めた覚えは一切ない。

 だがリュートは、優れた動体視力を使って攻撃を予測し、予め回避行動を取っていた。

 挟撃は確かに有利だが、しっかり息を合わせて攻撃をしないと、互いの武器がぶつかり合って大きな隙が生まれてしまう。

 故に、変則的な攻撃やフェイントは出来ないというデメリットがあったのだ。

 リオンは、挟撃のデメリットを今初めて知ったのだった。


「……噂通りだよ、流石は《銀閃》だ」


「ありがとぉ、その腕さ早く治療してもらえ」


「ああ、そうする」


 そしてリュートは、ミレアにも駆け寄る。


「すまねぇだ、おめぇの詠唱を止めるには、痛みを与えるしかなかっただよ」


「……ぶっちゃけ痛かった。傷物にされた。今度ご飯奢ってくれたら許す」


「傷物って、冒険者なら傷が付くのは当たり前だと思うけんど……でも、飯奢って許してくれるんなら、喜んで」


「……ん」


(やった、リュート様との食事デートゲット!)


 ミレア、この状況に付け込んで、しれっとリュートとのデート権を得た。

 女であれど流石冒険者、ただでは転ばない存在だ。


「じゃ、じゃあ私もご一緒していいですか!?」


「な、アイナ! 便乗狡くない!?」


「いいじゃん、一緒に行こうよ! 私も、凄く、怖かったし……」


「……はぁ、この娘も一緒でいい?」


「いいだよ」


 二人っきりのデートのはずが、金魚の糞よけいなものまでくっ付いてきてしまった。

 ミレアは軽く落ち込んだが、女性と食事に行く事はないリュートを誘えたのは大きい。

 他の女冒険者より一歩大きくリードしたと確信を持ったのである。


「おい、誰か! 俺を忘れてないだろうな!? 何とかしてくれ、痛いし体勢が辛いんだよ!」


 盾役タンクのレイギースは、右膝裏を矢で貫かれ、右掌を地面に杭を打ち込むように矢が刺さっており、痛くて悶絶したいのに体勢を変える事が出来ずに放置されており、密かに泣いていた。










 場所は変わって、ギルド長室。

 

「おめでとう、リュート。君は文句なしの金等級だよ」


「うん、ありがとぉ」


 手応えをしっかりと感じていたリュートは、身体全体で表現する程の喜びは見せなかった。

 だが、嬉しそうに微笑んでいた。

《ステイタス》なしの冒険者達の頂点である金等級に、僅か半年で到達したのだ。

 リュートは、史上最速の金等級昇格となった。

 

「さて、ここからは金等級以上の冒険者にのみ伝える情報となる。なるべく外部に話さないようにして欲しい」


「ん? わかっただ」


 ハーレィは真面目な表情となっている。

 何か深刻な問題が発生したのだろうか?


「これは他国の冒険者ギルドから伝わった情報なのだが、どうやらダンジョンがかなりの速度で成長しているようだ」


「成長……? 確か、ダンジョンは成長すると階層が増えるっちゅうやつだよな? オラ達が倒した《遊戯者》が一番階層が深いって聞いたけんど」


「ああ、そうなんだが……。他国のダンジョンで、何と二十階層以上ある物が発見された」


「……二十」


「数か月前までは八階層しかなかったダンジョンが、ある事をきっかけに急激に成長したんだ」


「……ある事って、まさか」


「そう、《遊戯者》討伐を機に、だ」


 他国の冒険者ギルドからの報告によると、ラーガスタ王国で《遊戯者》を討伐したのをきっかけで、他のダンジョンも活発化して成長速度が著しく上がったというのだ。

 

「その為、他国の冒険者ギルドと会議を行った結果、金等級以上の冒険者に各ダンジョンの調査に行ってもらう可能性がある。そこだけ頭に入れておいて欲しい」


「わかっただ。ちょっと質問だけんど、ダンジョンが成長したらオラ達は困るんけ?」


「……そうだな、より強い魔物が地上に溢れてしまう可能性が高くなる。ダンジョンによって魔物の強さはまちまちなんだが、階層が深くなれば深くなる程、魔物が強くなる傾向がある」


「ふぅん成程、わかっただよ。他に話はあるかぁ?」


「いいや、だからそのまま身体を休めて欲しい。お疲れ様、そして金等級昇格おめでとう」


「ありがとぉ、じゃあなへば


 リュートはギルド長室を退室する。

 誰もいなくなった部屋で、深い溜め息を吐いて、椅子の背もたれに全体重を預ける。


「……《遊戯者》が残した大掛かりなゲーム、か。まさか、ダンジョンの急激な成長に何か関係しているのか?」


 様々な可能性を考えるハーレィ。

 しかし、超常的存在がダンジョンを成長させたとして、一体何のメリットがあるのだろうか?

 仮にダンジョンを成長させきったとして、超常的存在かれらは何かを得られるのだろうか?


「……余計わからなくなったな。そもそも超常的存在かれらの考えなど、人間である我々では図り知れん部分がある。そう簡単に答えに辿り着けない、か」


 この数時間後、また他国の冒険者ギルドから一報が入る。

 その内容は、「無感情だった超常的存在かれらに、感情が宿った」だった。

 どうやら、他国の冒険者はダンジョンの最下層まで行って超常的存在かれらに接触したようだ。

 この情報を聞いて、ハーレィはますます超常的存在かれらの行動目的がわからなくなり、もう考えるのを辞めた。

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