第98話 田舎者弓使い、金等級試験を受ける 其の四


 リュートはハーレィの後に続き、非常に広い訓練場へやってきた。

 眼前に広がるのは、訓練場をぐるりと囲むように設置された観客席が、人で埋め尽くされている光景だった。


「あ、相変わらずすっげぇな……。でも、オラの試験見るより自分の訓練した方がいいと思うんだけんど」


(君の試合を見た方が、闇雲に訓練するより遥かにタメになるんだって!)


 リュートの呟きに、心の中で突っ込むハーレィ。

 

 銀等級昇格試験の時もそうだったが、今回はそれ以上に注目されていた。

 何故なら、今回の実技試験は一対多数の模擬戦。

《孤高の銀閃》と名高いリュートが、絶望的と言われる敵複数に囲まれた場合、どのように切り抜けるのかを参考にしたかったのだ。

 観客席は満員だが、実はそれ以上に観戦希望者が溢れかえっており、席に座れなかった者は立ち見、それでもスペースが足りないので観戦出来なかった者は不貞腐れて酒場で酒をがぶ飲みしていたりする。

 

 それ程までに注目されているこの一戦。

 流石のリュートも緊張するだろうとハーレィは予想していたが、当の本人は涼しげな顔だった。

 緊張の「き」すら感じていない様子。

 ハーレィは彼の様子に驚きつつも、一度咳払いをして言葉を発する。


「今から行う実技試験は、先程言ったように一対四人パーティによる模擬戦だ。今回戦うパーティは《一番星》で現役金等級だ。彼等は――」


「待った。彼等の能力とかはいらね」


「何でだ? 君に不利な状況だ、情報はいるだろう?」


「敵に遭遇して情報をあれこれ提供してくれる戦いなんて、ねぇべ?」


「……まぁ、そうだが。なら君の意思を尊重しよう。今回も前回同様に自前の武器を使用して構わないが、攻撃箇所は死なない部位にしてくれ」


「わかっただよ」


 リュートは頷いて訓練場の中央に向かう。

 既に中央には、これから戦う四人パーティがいた。

 

(……見た目からして、盾役タンク攻撃役アタッカー、魔法使いが二名――いや、その内の一名は回復役ヒーラーか?)


 リュートは見た目で大まかにそれぞれの役割を判断する。

 特に盾役タンク攻撃役アタッカーは片手剣を装備しており、盾役タンクは盾と重そうな鎧を着ている。動きは鈍重そうだが、弱点を補填するスキルを保持していると思っておいた方が良さそうだ。

 攻撃役アタッカーは逆に身軽で、胸部を守る鉄製の胸当て以外は布製の服と皮の靴、剣を振るう事によって出来てしまう手のマメを防止する為の厚めのグローブを装備している。

 恐らくこの攻撃役アタッカーは、一撃の重さを重視しているハリーとは真逆のタイプで、身軽さを武器にした高速戦闘プラス手数で勝負してくるタイプだろうと、予め予想を付けておいた。


 ただ、予想が外れる場合を考慮して、見た目からの情報の信用性を五割程度にし、外れた場合でも即座に気持ちを切り替えて対応出来るように心構えを作っておく。


 リュートは、これから戦う事になる《一番星》に、鋭い眼光を向けた。











「なぁハリー、お前は《銀閃》が勝てると思うか?」


 観客席で観戦していた《竜槍穿りゅうそうせん》の面々だが、リーダーのハリーは知り合いの冒険者に質問をされていた。

 そして、ハリーは即答する。


「ああ、余裕で勝てるだろう」


「……余裕で、なのか?」


「余裕で、だな」


「り、理由を聞いてもいいか?」


「理由は単純さ」


 ハリーは一度溜息を付く。


「俺達 《竜槍穿りゅうそうせん》、《鮮血の牙》、《ジャパニーズ》の面々でよく訓練とか模擬戦をするんだが、あいつにお願いされて俺達三パーティ対リュートのみの模擬戦を何度もしたんだ」


「ちょっと待て、お前等は実力派の注目株だろ? 流石の《銀閃》だって、勝てないだろう?」


「と思うだろう? 悔しいが、俺達はその模擬戦であいつに勝った事は、一度もない」


「――は?」


「当然惜しい所まで行くんだ。だけど、あいつは常に色々な策を用意してきて、こちらが対策しようがそれを上回ってくる。対多人数を対応する技術だって、いつの間にか習得していてな。まぁ、今日はその片鱗は披露されるだろうな」


「……マジかよ」


「残念ながら、マジだ」


 一つだけ、ハリーは嘘を付いた。

『惜しい所まで行く』、これに誤りはない。

 が、この『惜しい』とは、あくまで『リュートに一太刀浴びせられる所まで行く』という意味だ。

 

 全員 《ステイタス》を保持していて、且つリュートと一緒に技術を磨いてきた実力派の《竜槍穿りゅうそうせん》、《鮮血の牙》、《ジャパニーズ》ですら、あの手この手で倒されてしまう。

 しかも、無傷でだ。


 非常に必死な表情を浮かべて対処はするリュートだが、それでも攻撃がかすりもしない。

竜槍穿りゅうそうせん》、《鮮血の牙》、《ジャパニーズ》の面々は、リュートの計り知れない才能と、その才能をストイックに磨き続けた努力と、物事を瞬時に判断し即座に対応できる回転が速い頭脳に嫉妬した。

《ステイタス》を以てしても超えられないリュートに、嫉妬しつつも挫けずに好敵手として定め、いずれは必ず超える目標として切磋琢磨している。

 

(さぁ、他の連中にも見せつけてくれ。お前の実力を……!)


 ハリーは、これから起こるであろう圧倒的な実力差を見せつける戦いを想像し、拳を作った手に更に力が入った。

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