第96話 田舎者弓使い、金等級試験を受ける 其の二


「君にしては今回、依頼達成がギリギリだったんじゃない?」


 リュートが金等級昇格試験を申し込んでから六日が経った。

 彼のスポンサーで雇い主でもあるエリッシュ=ディブロサム伯爵が、紅茶を飲みながらそう言ってきた。

 エリッシュは自身の国から一歩も出ないと言われているエルフで、何故かラーガスタ王国で貴族をやっている。

 見た目は男にも女にも見える中性で、非常に美形だ。

 だが、見た目はリュートも負けていない。

 

「……依頼を達成した後、何かわからねぇけど村の全員に何度も引き止められただよ」


「……ああ」


 エリッシュもリュートの見た目がかなり優れている事は把握していて、恐らく無自覚に村の全員を魅了してしまったのだろうと把握した。

 依頼は少々難易度は高めだったのだが、リュートにとってはそこまで難しい依頼ではなかったようで、エリッシュは安心した。


「で、金等級の試験は明日だろう? そんなに疲れた顔をして大丈夫かい?」


 が、目の前にいる弓使いの美少年は、若干やつれていた。

 エリッシュが心配する程に……。


「……何かジジババ達が孫達と結婚させたがるし、若い女達に囲まれてしがみつかれるし、何でオラにそんな固執するんだか、理解出来ねぇだよ」


(……君はもう少し自分の見た目がどれだけ優れているか、把握した方がいいよ?)


 この男、弓に対しては絶対的な自信はあるのに、容姿に関しては一切自信がない――というか、自身の容姿は普通だと思っている。

 そのような事をぽろりと漏らした事があったのだが――


「鏡見ろよ」


 と突っ込まれてしまっている。

 エリッシュも突っ込んだ一人だ。

 だがこの男、鏡を見ても「やっぱ普通だべ」と恐ろしい事を言い放つ。

 弓の場合だとドヤ顔で自慢するのに、この差は何なのだろう?


「依頼は達成してくれたね、ありがとう。はい、達成の証だよ」


「――ん、確かに。いつも指名してくれてありがとお」


「何の。僕も君のおかげで随分助かってるからね。また依頼抜きでお茶を飲みに来てよ」


「わかっただ。エリッシュの紅茶は美味くて、本当に好きだ」


「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいよ」


「へば」


「うん、じゃあね」


 リュートとエリッシュは、いつの間にか友達と言える程の仲になっていた。

 エリッシュは貴族という立場なので、気を許せる友人は非常に少ない。

 その為、リュートという存在は、彼にとっては非常に有難いものだった。

 リュートもエリッシュの事を友人と思っており、居心地が良くて気が許せる存在だった。

 貴族は横柄だ。

 これが冒険者の中で言われている貴族像だが、エリッシュはそんな事はなかった。

 

 リュートはエリッシュの屋敷から出ると、身体を伸ばして準備運動をする。


「……さて、明日は昇格試験だべ。こっから走って王都さ行くだよ」


 身体が丁度良くほぐれた所で、リュートは走り出す。

 体感五十パーセントの速さで走れば、今日中には王都に着けるだろう。

 そして、心の中で思った。


(もう、ぜってぇに、あの村には二度と行かねぇだよ!)


 リュートを三日間も引き留めた憎きあの村は、彼の中にあるブラックリストに深く刻まれたのだった。

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