第95話 田舎者弓使い、金等級試験を受ける 其の一


 冒険者には昇格システムがある。

 ギルドに寄せられる依頼を達成する事で、ギルドが定めた経験点を得る事が出来る。

 この経験点を一定以上貯めると、昇格試験を受けられるのだ。

 昇級試験は面談と実技試験の二つ。

 面談に関してはギルド長と直接話して人格面に問題がないかの再確認。

 実技試験は、自身より一つ上の冒険者と模擬戦を行う。

 実技試験に関しては勝利したら昇級という訳ではなく、ギルドが定める一定の基準をクリアすると合格となるのだ。

 

 さて、この経験点だが、上に行けば行く程膨大な経験点が必要となり、昇級が難しくなってくる。

 銅等級になる際も、依頼の難易度も上がるし必要経験点が一気に増えるという事もあり、銅等級昇格は一つの壁となっている。


 しかしリュートは、冒険者になってわずか半年で金等級昇格試験を受けられる所まで来ていた。

 今まさに、専属受付嬢であるフィーナからその案内を受けていた。


「リュートさん、必要経験点が集まって金等級昇格試験に挑戦できるようになりました! 如何なさいますか?」


 フィーナの言葉に、冒険者ギルド内にいる冒険者達がざわつく。

 それもそのはず。

 たった半年で金等級昇格試験を受ける冒険者なんて、王都史上初である。

 金等級は《ステイタス》を持たない冒険者にとっては最上級だ。

 冒険者で成り上がりたい者にとっては、憧れる等級なのだ。


 どうやったらそこまで早く成り上がれるのか、冒険者の中では一時期議論された事があった。

 そこで、リュートをよく観察し、導き出された結論。

 非常に単純で、『自身の得意分野をひたすら磨き続け、どんなに小さな依頼もこなして民の信頼を得て、指名依頼を沢山貰うようにする』であった。

 実際その通りで、指名依頼は通常の依頼より多く経験点が設定されている。

 リュートはドブ掃除や薬草採取等を今でも積極的に受け、自身を営業していき多くの指名依頼を得ていたのだ。

 それに加え、エルフでこの国の貴族であるエリッシュ=ディブロサム伯爵に気に入られ、彼お抱えの冒険者――つまり《勇者》となった。

 エリッシュから貰う指名依頼は難易度が高いが経験点が良く、これも早く成り上がれた方法の一つでもあった。

 だが、一番の理由は、最近利用できるようになった《技能講習》の講師になる頻度と人気具合が半端ないからだ。


 リュートが受け持っている《サバイバル講習》と《森林内での三日間模擬戦》は凄まじい程の人気で、それぞれが最大二十人までという制限に対して、毎回百を超える応募が来るのだ。

 それもそのはず、リュートの講習はどれも実践的且つ為になるものばかりで、基礎を磨きたいと思い始めた冒険者達にとっては、絶対に受けたい講習なのだ。

 しかもこの講習、なんと《超越級》すらも希望する程であり、特に彼等からは《森林内での三日間模擬戦》が大人気である。


 何故なら、この講習は森林にまぎれたリュート一人を、二十人で見つけ出して戦って勝つという内容で、未だにリュートは誰にも負けていない。

 それどころか参加した二十人を二日で仕留めてしまうので、残り余った一日は反省会として使われている。

 どんなに《超越級》がスキルを駆使しても、どうしても森林内のリュートを捉える事が出来なかった。

 その為、毎回リュートにリベンジする為に、皆が進んで講習を申し込むのだった。


 しかしこの講習は、リュートにとっても非常に有難いものだった。

 リベンジしてくる冒険者達は、間違いなく対策をしてくるし実力も付けてきている。

 その為、対応しているリュートも新しい戦法や気付きがあり、講習しながらもリュートの成長に一役買っていたりするのだった。


 閑話休題。


 フィーナから昇格試験を持ち掛けられたリュートの返答は――


「オラ、金等級試験を受けるだよ。いつが最短で受けられるだか?」


「はい、最短は三日後となっておりますが、如何でしょうか?」


「……ん~、三日後だとエリッシュからの指名依頼が入っているだよ。そこそこ時間が掛かりそうだけぇ、一週間後でいいかぁ?」


「かしこまりました、では一週間後に試験の予約を入れておきますね。大体九こく辺りで大丈夫でしょうか?」


「わかっただ。へば、一週間後、よろすく」


 こうして、一週間後にリュートの金等級昇格試験が実施される事となった。

 この話題は瞬く間に冒険者の間で有名となり、試験が行われる訓練場の観客席にて観戦しようと、まだ始まっていないのに水面下で席争奪戦が始まっていた。

 冒険者同士で席を賭けた勝負をしたり、受付嬢に頼んで席を予約しようと画策したり等々。

 だがそんな予約システムはギルド側にはない為、結局は早い者勝ちで何とか落ち着くのだった。






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〇勇者について

 勇者とは、貴族のお抱え冒険者になる事である。

 この世界での勇者とは『勇ましい、勇敢な者』という意味なのだが、流れ者達にとってはこの勇者は非常に特別らしく、選ばれた特別な者という意味らしい。

 勇者は品行方正を求められ、且つ優先的に貴族の指名依頼を受けなくてはいけない為、ある程度の自由は制限されるが、その代わり富と名声は約束されている。

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