第四章 金等級冒険者編

第94話 王都で一番話題になっている、弓使い冒険者


 王都ライディバッハ。

 ここは、実力主義のラーガスタ王国の中でも、ひと際優秀な人材が集まる場所である。

 実力さえあれば、貧民であろうと平民であろうと成り上がれ、逆に実力に伴わなければ貴族であろうと王族であろうと成り下がる、弱肉強食といっても相応しい場所なのだ。

 その場所で、商いに優れた者、農畜に優れた者、冒険者として優れた者、建築に優れた者、知力に優れた者等々が集まり、より上を目指す者達が常日頃切磋琢磨していた。


 冒険者。

 自由を求め各国を飛び回り、王国民からの依頼で日銭を稼ぎ、浪漫と富を求めてダンジョンに潜る。

 常に危険と隣り合わせ、実力が無ければ死ぬ。

 しかし上の等級になればなる程金が手に入り、大商人と肩を並べられる程の富豪にもなれるのだ。

 だが、あまりにも危険故に、ある程度の富が手に入ったら保守的になってしまい、最近では冒険者は上昇志向が無くなり腕の良い冒険者が減ってしまっていた。


 そこに、暗黒を切り裂く流星の如く現れた一人の若い弓使いがいた。

 誰ともパーティを組まずに一人で行動をし、冒険者になってたった数ヶ月で最速の銀等級冒険者へと昇格。

 矢を放てば百発百中、一撃必殺。

 森に入れば、水を得た魚のように縦横無尽に動き回り、気配を消して獲物を仕留める。

 更には老若男女誰もが振り返る恐ろしい程の美男子で、王都の女性の中で彼を知らない者はいない。

 依頼の達成率は百パーセントで、最近だと要討伐対象だった《邪悪なる遊戯者 デ・ル=フィング》を多人数協力依頼レイドに参加。見事ラストアタックで英雄エピック武器を得て、更に腕に磨きをかけた。


《邪悪なる遊戯者》を討伐してから数ヶ月。

 彼が王都に来てから約半年が経った。

 彼はほとんどの冒険者から慕われており、羨望の眼差しを集めていた。

 

 そんな彼は今、一人でとある盗賊団を討伐していた。


《無限の渇望者の使徒》。

 今、ラーガスタ王国で荒らしに荒らしまくっている盗賊団だ。

 国中至る所に拠点を設置しており、どうやら団員数は万を超えるとまで言われる、超巨大盗賊団なのだ。

 そんな奴等の一部隊が、金が取れる鉱山を根城にし、金を好き放題採掘されてしまっているので何とかして欲しいと依頼が入った。

 盗賊団討伐だと基本的に王国兵士が動くのだが、如何せん今は獣人国との小競り合いが頻発しており、兵士は一切動けない。

 そこで、冒険者達に依頼が入ったのだ。

《無限の渇望者の使徒》の一部隊の数は二十。

 それなら可能だと、若い弓使いは一人で依頼を受けたのだった。


 今、金鉱山の入口周辺には、《無限の渇望者の使徒》の団員と思われる者の死体が六つ程あった。

 全てが矢で頭部を貫かれており、即死した事が伺える。


 彼は長年の狩りで培われた気配消しの技術を駆使し、鉱山内部に侵入。

 つるはしで採掘をしている最中なのだろう、そこら中から金属音が聞こえる。

 彼にとっては敵の居場所がわかるので、非常にありがたい状況だ。


 相手にバレないように索敵をし、発見した敵は即座に矢で撃ち抜き殺す。

 吸い込まれるように矢が敵の脳天に突き刺さり、断末魔を上げる暇も与えずに殺していく。

 仄暗い鉱山内で、彼が放つ矢は銀閃のように煌めき、静かに確実に敵を屠っていく。

 採掘音が段々少なくなっている事に、どうやら相手側も気が付いたようだ。

 鉱山奥で叫ぶ声がする。


「おいおい、まさかサボってるんじゃねぇだろうな?」


 随分と威勢がいい。

 恐らく、この部隊を率いているボスかもしれない。

 彼は声がした方に視線を向けると、松明を持った恰幅の良い男がこちらに向かってきていた。

 敵を視界に入れた彼は、容赦がなかった。

 素早く弓の弦に矢をあてがい、特に狙いを付けた様子もなく、即座に矢を放った。

 矢は男の眉間より少し下辺りに命中し、後頭部にまで貫通した。

 そしてどさりと音を立てて倒れて事切れた。


「ちっ」


 弓使いは舌打ちをした。

 恰幅が良過ぎて、倒れた際に思った以上に大きな音を出したのだ。

 勘のいい奴がいたのなら、恐らく敵襲だと気付くかもしれない。

 彼は息を潜める。


「ぼ、ボスが死んでる!?」


 案の定、音で駆け付けた他の団員が、ボスの死体を見つけてしまった。

 どうやら慌てふためいている様子。

 なら、今こそ一掃のチャンスだ。


 彼は神業と言える速さで、矢を二本も放つ。

 二本とも見事に頭部に命中し、確実に仕留めた。


「……残り三」


 情報通りの人数であれば、盗賊団の残り人数は三人。

 その後、一人の盗賊が死体を発見して「ひっ」と小さい声を出す。

 大声を出されては困るので、今度は頭部ではなく喉を射貫き、声を出せないようにして静かに殺した。


 残り二人。

 彼は息を潜めて、鉱山を探る。

 そして、鉱山内部で小便をしている二人を発見。

 仲良く連れションをしていた。

 この絶好のチャンスを、彼が見逃す訳がない。

 盗賊二人の背後から後頭部を射貫き、そのまま自分達が出した尿に顔面から倒れ込み、尿に塗れて死んだ。


 情報通りの数を仕留めたが、もしかしたら情報が異なる可能性がある。

 彼は鉱山内部を探索したが、討ち漏らしはいないようだった。


「……ふぅ」


 依頼を無事終わらせ、一息付く弓使い。

 彼は特に怪我もする事無く、たった一時間こくで盗賊団二十名を排除したのだった。











「あっ、見て! リュート様よ!」


「ああ、今日も素敵だわ♡」


「だめ、凛々しすぎて身体が火照ってくるわ」


 依頼を達成し、王都に戻ってきた弓使い――リュートは、王都入口ですれ違った若い女性達から熱烈な視線を集める。

 当然リュート本人もその視線に気付いており、鳥肌が立っていた。

 彼は、若干女性恐怖症なのである。

 超絶イケメンなリュートは、優秀な狩人だった。

 だが、女性側からは狩られる対象だったのだ。

 何度か寝込みを襲われかけた事もあり、彼の心にトラウマを刻み込んでしまったのだ。

 故に、このような視線を受けると鳥肌が立ち、酷い時は吐き気を催してしまうのだった。


「おっ、《孤高の銀閃》だ。やべぇ、憧れる」


「あの弓が《邪悪なる遊戯者》のラストアタックで得た英雄エピック武器か……。何とも羨ましい」


「ああ、掘られたい。いや、掘りたい」


 同じ男性冒険者からも羨望の眼差しを集めるが、一部不穏な視線を感じてこれまた鳥肌が立つ。

 彼は親友だと思っていた奴から、肉体関係を迫られて辛うじて回避した過去を持つ。

 男からのそういった視線には敏感で、人物を特定して絶対に接近しないようにしている。

 

 リュートは真っすぐ冒険者ギルドへと向かった。

 今日のギルドは、他国から来た冒険者ばかりがいる。

 だが、そんな彼等ですら、リュートの事を知っていた。

 今やトレードマークとなっている黒色の弓が、リュートである目印だ。

 他国の冒険者の視線を掻いくぐり、自身の専属の受付嬢の元へ辿り着いた。


「お帰りなさいませ、リュートさん」


 彼女はフィーナ。

 リュートと話すと基本的仕事の話以外の事を積極的に話してくる、使えない・・・・受付嬢ばかりなのだが、フィーナはしっかりと仕事をしてくれるので、女性恐怖症気味のリュートも、彼女には厚い信頼を置いていた。


「依頼の方は如何ですか?」


 フィーナはにこやかな笑顔で訊ねる。

 が、彼女は何とか営業スマイルを出せてはいるが、内心はリュートの魅力のせいで心臓が破裂しそうな位高鳴っていて、呼吸がしにくい。

 しかし彼女もプロだ、決して態度や表情に出す事はない。


 フィーナの言葉に、ギルド内にいた他国の冒険者の視線がリュートに集まる。

 一体どんな依頼を受けたのだろうか、と。

 女性冒険者は、彼の容姿に既に心を奪われてしまっているようだ。


 ついに、リュートが口を開く。


「金鉱山にいた盗賊さ、全員排除しただよ。討ち漏らしは無い


 容姿に似合わぬ訛りの強い言葉に、他国の冒険者は全員ずっこける。

 そう、彼は魔境とも言われる小さい村から出てきた、超が付く程の田舎者の弓使いなのだ。

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