第91話 とある超常的存在、動き出す 其の三
太陽も月もない、本当に何もない世界で過ごしてどれ位経っただろうか。
旅人にとってかなり長い時間を過ごしたように思うが、その感覚が何か月なのか、はたまた何年なのかは知る由もない。
彼はひたすらに計画の為に動いていた。
バーヤ以外の化け物も見かけたら声を掛け、オセロに誘ってみる。
もしオセロで良い反応が無かったら、簡単に出来る樹皮を利用したトランプ遊びを教えて一緒にプレイしてみる等、前世では絶対にやらなかった事をしていた。
ダンジョンに籠っている化け物も、バーヤの通信能力を使って呼び出して貰い、試しに遊ばせてみたりもした。
そして全員にゲームをプレイさせてみた結果、全員がゲームにがっつりとハマっていくのがわかった。
やはり刺激が足りなかった世界だからなのだろう、彼等は夢中になってあっという間に「楽しい」と「悔しい」感情を獲得していった。
最初は得た感情に酷く困惑していったが、旅人が懇切丁寧に感情の事を説明した結果、戸惑いつつも受け入れたようだった。
それに、「楽しい」という感情にも個性が出てきたのが、旅人にとっては非常に興味深かった。
とある化け物は徹底的に圧勝する事を楽しいと思い、またある化け物は勝つ事より思考する事自体が楽しいと思い、別の化け物は実力ではなく運任せの勝負自体に楽しいと思い、感情が爆発したままの化け物は絡め手無しの真っ向勝負に楽しさを見出していたりもした。
旅人にとって、この下準備は本当に長かった。
それに都合がいい事に、バーヤの楽しいという感情も変わっていた。
バーヤは自身がプレイヤーになる事より、他人がゲームをしているのを鑑賞する事自体が楽しいと思えるようになったのだ。
この変化は、旅人にとって非常に有難かった。
こうして長い長い下準備が完了し、計画も第二段階へ移行出来る。
旅人は、ほくそ笑んだ。
その時だった。
ふと、自分の中に大きな力が宿ったのを感じた。
そして不思議な事に、その力がどういうものなのかも、自然と理解したのだった。
(えっ、何これ? どういう事?)
旅人は戸惑いを隠せない。
感情がないままの化け物だったら何も感じずに受け入れただろうが、如何せん前世の記憶もあり感情も持っている。
そんな彼が、突然巨大な力を手にしたのだ、戸惑わない訳がない。
旅人は早速バーヤに相談した。
「ほほぅ、旅人よ。お主は立派に力を得る事が出来たようだな」
「うん。不思議な事に自分の能力も、それにダンジョンの作り方もわかるよ」
まず旅人が手に入れた能力。
それは自分自身または触れたものを爆発物に変えるという、何ともピーキーなものだった。
ただ、ダンジョンにおいては、訪問した人間以外の物――魔物も含む――に関しては、任意に爆発物に変えるという能力も備わっている。
(おいおいおい、誰が好き好んで自爆魔法なんて借りるかよ! となったら、力を貸して魔力を得るという手段は使えないじゃん!)
「さて旅人よ、お主の力は何かな?」
バーヤに力の詳細を訊ねられ、旅人は素直に答えた。
詳細を聞いたバーヤは、成程と言った後に言葉を続ける。
「恐らく、お主は我等が使っている魔力を得る方法は使えないだろうな」
「ですよねぇ……」
「なら、後はダンジョンで魔力を得るしかないのだが、ダンジョンを作るにも魔力が必要となる」
バーヤ曰く、人間から得た魔力を使い――正確には魔力から返還された生きる為の栄養だが――、ダンジョンを思うがままに創造する。
力に目覚めたばかりの化け物がいきなりダンジョン生成をすると、得た力を使い切って死んでしまうそうだ。
つまり、旅人は積んでしまっているのである。
「僕、このまま死ぬしかないの?」
「……恐らく、可能性はまだある」
「え、なになに!?」
「お主は旅人だ。旅人故に、間違いなく《ステイタス》を得ている筈だ。それで得られたスキルによっては、まだいけるかもしれん」
「やったっ、まだ生きるチャンスはあるって事だよね! その《ステイタス》って、どうやって確認するの?」
「……正直わからぬ」
「……あっそ」
バーヤはそもそも《ステイタス》を持っていない。
となると、わかる筈もない。
(じゃあどうやって《ステイタス》を確認すればいいんだ?)
旅人がそう思った時、ふと頭の中に文字が浮かび上がった。
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〇スキル
《分身体生成×二》
自身の魂一つを使い、分身体を生成する事が可能。
分身体は意識が無い・疲労状態で頭が働かない・瀕死状態でのみ、人間に触れる事が可能となる。
また、人間が住む世界に干渉できるが、制限時間は二十時間。
人間が住む世界に行っている最中は、任意で戻す事は不可能。
制限時間が過ぎたら、魂を一つ失う。
《化けの皮》
分身体の時のみに使用可能。
生きている状態の人間の皮を綺麗に剥がす事が可能。
分身体が皮を纏う事で、対象の記憶・戦闘技術やスキル等をそのままコピーする事が可能。
制限時間は一週間で、制限時間が過ぎたら魂を一つ失う。
このスキルを使っている間に殺害された場合も同様に、魂を一つ失う。
任意で解除不可能で、化けの皮状態で得た経験は、本体の
ただし、自身のダンジョンの中では任意に解除可能で、魂を失わずに済む。
《ファイナルストライク》
自身の自爆魔法の威力を最大二十倍まで高める事が可能。
二十倍の威力は、核兵器の四倍の威力となる。
ただし、魂が残り一つの時にしか使用不可。
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これまた非常にピーキーだが、一つ目と二つ目のスキルはかなり有用だ。
しかし、魂を一つ失うとはどういう事なのだろう。
バーヤに訊ねてみた。
「どうやら無事に《ステイタス》を理解出来たようだな。我等は複数の魂を持っている。お主の場合は、全身に付いている口が魂の数を表しているようだ」
そこで旅人は初めて気が付いた。
自分の今の容姿を一切確認していない、と。
ここで初めて手や足、自分の身体を見てみると、黒い皮膚で覆われた体のあちこちに口が付いていた。
『うわっ、何だこれ! って何これ、全部の口が喋ってる!!』
どうやら全部の口が連動しており、無数の口から言葉が発せられた。
「お主はその口が無くなったら死ぬ。よく考えて魂を使うのだな」
この化け物達は、何かしら魂を消費して放つ力を持ち合わせているようだ。
「しかし、お主は素晴らしい。スキルでまさか人間の世界に干渉できるとは……。我等が人間の世界に行くには、ダンジョンを九十九階層まで伸ばし、星の核に触れる必要があるからな」
『そっか、バーヤ達はあちらに干渉出来ないのかぁ。まっ、いいや。早速スキルの力を確認してくるから、暫くは顔を出さないと思う。もし他の奴等にゲームを求められたら、バーヤが進行しちゃって』
「ふむ、見ている方が楽しいからな。喜んで承ろう」
『ありがとう! そんじゃ、いってくるね!』
そう言って、旅人はバーヤの元を離れていく。
自身の計画にとって、非常に有用なスキルを得られたのだから、人間の世界を調べてみようと思うのだった。
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