第87話 とある超常的存在、魔界を知る 其の二


 バーヤは抑揚のない声で続ける。


「そこで創造主は、この星に決して誰も干渉できない別次元を創造された。天使は空に、精霊は地表に、我々は地中に」


 この星の神が取った解決方法、それは同じ星の中に別世界を作って閉じ込めるという方法だった。

 それを聞いた旅人は、「だったら星の周囲に衛星とか作って、そこに住まわせればよかったんじゃないかな」と思ったのだが、もしかしたら別世界を作るよりも大変だったのかもしれない。


「天使は創造主の近くにいたいという事で、創造主がいる空で世話をしている。精霊は地表の裏世界というような形の世界で、常に自然を見守っている」


「成程ね。で、肝心の僕達は?」


「我等は創造主に問われた。『どのような世界を望むのか』、と。そして感情を持たない我等は『特にない』と答えた。そうして与えられた世界は、これだ」


「えええええ……」


 空が黒く、地表が白い世界。

 まさしく『特に (特徴も何も)ない』世界だった。

 神様もどうやら、人間らしい感情は持ち合わせていないようだ。


「そして創造主は、最後に人間を創造した。どうやら他の星に生息している人間に興味を持ったらしく、自身の星でも是非にと思い創造をされたのだ」


「わお、進化論を真っ向否定だね」


「……しんかろん? 恐らくお主の前世の知識か。興味深いが今は後回しにさせてもらおう」


「あ、ごめんごめん」


「それぞれの世界に移った我々三種類の部下は、最後に創造主から褒美として何かしら人間に干渉できる権利を望む形で与えられた」


「ほうほう」


「天使は最初『創造主を讃えたい』と願ったが、創造主はそれを拒否した。理由は『土台は自分が作ったが、良い星にしたのはお前達だ。ならばお前達を讃えるようにして欲しい』だった」


「あら、意外とホワイト社長」


 そして旅人は思った。

 天使達は宗教を作り出したかったのだと。


「精霊は自然と共に生きる事を強く望み、そして人間にも自然を慈しむ心を与えて欲しいと願った」


「成程、で、僕達は――」


「特になかった」


「……だと思った」


 目の前にいる感情のない化け物達は、本当に哀れだと旅人は思った。

 いや、哀れという感情すらないのか。

 それはそれで残酷だ。

 感情がないという事は、ただ呼吸をする為だけに存在しているのだから。


 バーヤは話を続ける。


「創造主は人間に『天使を讃える感情』と『自然を慈しむ感情』を刷り込ませた。更に人間の中には《魔力》という予想外な力を持っている者もいたので、人間はその魔力で各世界に干渉できるような仕組みを作られた」


「……干渉させてどうするのさ」


「人間が我等に力を貸す代償に我等は魔力を貰い、それを糧に寿命と力を増やせるシステムを作られたのだ」


「ようするに、その魔力が僕達の食事って訳だ」


「左様。天使は回復等を、精霊は自然の力を、そして我等は破壊の力を人間に与える事が出来るようになった。人間はそれを《魔法》と呼ぶ。創造主は魔力を持つ人間には本能的に魔法の使い方がわかるように、予め刷り込みをしておいてくれたのだ」


「ほへぇ、創造主も頑張るねぇ」


「……お主の反応は我等では見ないものだから、違和感しかないな」


「……ん?」


 旅人は、バーヤの表情が若干変化した事を見逃さなかった。

 

(あれ、こいつらって感情がないんじゃなかったっけ?)


 表情が変化したという事は、少なからず感情を持っているという証だ。

 何かひっかかる。


(っと、今はそんな事を気にしている時じゃないな。兎に角ここの事をもっと知っておかないと。何かしらの遊びが思いつくかもしれないし)


 この非常につまらなそうな世界で楽しむ為に、ヒントを得なければ。

 ヒントを得るには知識が足りなすぎる。

 なので、バーヤの創世の話は旅人にとっては非常に重要なのだ。


「……続けるぞ。ある程度世界は順調に回っているかのように思われたのだが、一つ問題が起きた」


「ほぅ、問題とは?」


「この星があまりにも平和過ぎたので、人間は我等と等しい程に怠惰な生活をしていたのだ」


「……あっちゃぁ」


 人間は刺激を求める生き物だ。

 何の刺激もなければ、そりゃぐうたらな生活をしてしまうだろう。

 旅人の頭の中で、必要な食料を確保したら食っちゃ寝の生活をしている人間の想像が、容易にできたのだった。

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