第83話 《遊戯者》討伐のその後 其の五


《遊戯者》を討伐した後、その報酬で必要金額が貯まった《鮮血の牙》の全員は、《ステイタス》を使える魔法使いがいる店に来ていた。

《ステイタス》を付与して貰うには莫大な金が必要で、無駄遣いをせずコツコツと貯めてきたのだ。


「やっと、やっと俺様達も《超越級》の手前まで来れたぜ……」


 ウォーバキンは感慨深く言葉を漏らす。

 スラム街出身の彼は、貧困から抜け出す手段として冒険者を選んだが、冒険者の仕事に非常にやりがいを感じていつの間にか上を目指すようになっていた。

 そんな彼に同調した者達が集まり、《鮮血の牙》が出来上がったのだ。


「……うん、本当やっとだったなぁ」


 物心付いた時からスラム街で一緒にいたカルラも、感慨深かった。

 何度かスリをして犯罪はしてしまったが、二人で協力して何とか今日まで生き延びてきた。

 正直言って、《ステイタス》を付与する為の金を得られるのは夢のまた夢と思っていたが、諦めずにここまで来れた。

 本当に良いチームだと、カルラは少し涙目になりながら思っていた。


「……もっと、高みへ」


 ガイはただ愚直に己を高めたかった。

 筋骨隆々で体躯は大きいのだが、攻撃は非常に下手という欠点を抱えていた。

 しかし、ウォーバキンに拾って貰い、盾役タンクとしての才能を皆に手伝ってもらいながら見事に開花させた。

 このパーティでなければ、ガイは心が腐ってしまっただろう。

 だから自分に出来る恩返しは、より固く、皆を守る事だ。


「俺っちも、まさかここまで来れるなんて思わなかった」


 リゥムはその小柄な体躯のせいで弱そうに思われ、何処のパーティにも所属できなかった。

 仕方なくソロで活動をしていたのだが、非力故に結果が振るわず、ずっと一番下の石等級で止まっていた。

 冒険者に向いていないから引退しようと考えていた時、ウォーバキンに拾って貰ったのだ。

 後に魔法使いだという事がわかり、回復魔法に特化した回復役ヒーラーとして、パーティには欠かせない存在となれた。

 この《ステイタス》を得る事で、より皆の役に立てるかもしれない。

 ぶるりと身体が震えた。


「……私も、より強大な敵と戦えるようになれる」


 師匠の教えを守り、武者修行の旅をしていたレイリは、ウォーバキンと意気投合し《鮮血の牙》に入った。

 師匠から受け継いだ流派をより昇華し、どんな敵をも一刀の元斬り伏せる。

 その土台として《ステイタス》を得るのは目標の第一優先であった。

 今日、ついにその目標が達成されるのだ。

 鞘を握る手に、無意識に力が入る。


「さぁて、まずは誰から施せばいいんだい?」


 目の前にいる老婆こそ、王都で三人しかいない《ステイタス》を付与出来る魔法使いの一人、通称 《ステイタス》婆さんだ。

 婆さんは早くしろと言わんばかりの態度で、ウォーバキン達に訊ねる。


「じゃあまず俺様から頼む」


「あんただね。なら早くこっちに来な」


 ウォーバキンは婆さんの指示に従う。

 今彼はテーブルを挟んで婆さんと向かい合っている状態だ。


「手を出しな」


 ウォーバキンは婆さんに手を出す。

 すると金色の針を取り出し、彼の人差し指にそれを突き刺す。


「つっ!」


 テーブルの上には、複雑な術式が織りなす魔方陣が書かれた紙が置かれている。

 その魔方陣の中央に、ウォーバキンの血を垂らす。


「ふぅ……。行くよ!」


 婆さんが気合を入れて、両手で魔方陣に触れる。

 すると魔方陣が激しく輝き出すと、魔方陣が紙から飛び出して空中に浮かび上がる。

 そしてウォーバキンの体内に飛び込むように入ったのだ。


「うぐぅっ!?」


 魔方陣がウォーバキンの体内に入った瞬間、身体が熱くなる。

 いや、体中が内側から焼かれているような痛みを感じ始めたのだ。

 これは永続身体強化である《ステイタス》の魔方陣が、体内で魔法によって人体改造を行っているのだ。

 位階レベルに対応出来るように筋肉構造、内臓を作り変え、スキルに順応出来るように血液循環の仕組み、心臓を改造する。

 そして人外と呼べる身体能力に耐えうる骨を作り変えているのだ。

 最後には魔方陣によって脳も《ステイタス》の変化に対応できるよう、そして眼も良いものに改造されていく。

 その痛みは、想像を絶する。

 体の内側から何かが突き破ってくるのではと思う程、全身が痛い。

 頭痛もするし眼が今にも飛び出しそうだ。


「ぁぁぁぁぁぁぁああああっ!!」


「耐えろ、男だろう、それ位耐えてみせい!!」


 無茶を言いやがる。

 心の中で婆さんに毒を吐きながら、必死に耐える。

 これしきの痛みを耐えられなかったら、上なんて昇れる訳がない。

 頼れる友人にして、生身で人外の領域に片足を突っ込んでいる凄腕の弓使いに、追いつける訳がない。

《ステイタス》に頼るのは悔しいが、《超越級》を目指す為には致し方ない。


「…ぐっ、ぉぉぉおおおおおおおっ!」


 苦痛を耐えきったその時、頭の中に情報が流れてきた。


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位階レベル:一


〇スキル

《超・破斬》

 強力な真空刃を飛ばし、相手を切り裂く事が出来る。


《真っ向両断》

 振り下ろしの斬撃時、切れ味が増す。


《急所斬り》

 低確率で相手を確実に殺せる急所が光となって見える。

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「はぁ、はぁ、はぁ」


 痛みを乗り越え、ついにウォーバキンは《ステイタス》を得る事が出来た。

 そして恐らく《急所斬り》はユニークスキルだろう。

 いつでも発動できるものではないが、一発逆転を狙える可能性があるスキルだ。

 

「ほほぅ、あんた、ユニークスキルを貰ったみたいだねぇ。使い勝手は悪いかもしれんが、スキルは成長する。あんたがしっかりとスキルに応えれば、より強力に進化するんだよ。覚えておきな」


「……おう」


 痛みを耐えるのに体力を激しく消耗したウォーバキンは、《ステイタス》を得た喜びを嚙みしめる余裕はなかった。

 ウォーバキンはその場で座り込み、下を向いて体力の回復に努める。


「ほれ、私も暇じゃないんだよ、次は誰だい?」


「私……だけど、ええ、そんなに痛いの?」


 嫌々ながらも次はカルラが受ける事になった。

 ウォーバキンと同様の手順を踏み、魔方陣がカルラの身体の中に入る。


「っ!! ああああああああっ!!」


「耐えるんだよ、意識を失ったらスキルを得られないかもしれないからね! 気を保ちな!!」


「うっ、ぁぁぁぁぁぁっ!!」


 これはキツイ。

 意識が飛びそうになりながらも、何とか耐えきったカルラにも情報が頭に流れてくる。


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位階レベル:一


〇スキル

《鷹の眼》

 任意で発動可能で、発動中は上空から見下ろした景色が超短時間頭に映像として流れてくる。

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 カルラが得たスキルは一つだけだが、これもユニークスキルだった。

 指揮を出したり等その場に合わせてサポートしていた彼女にとっては、非常に有難いスキルだった。


 次はガイだ。

 ガイは日頃から盾役タンクをしているおかげか、痛みには非常に耐性があって、無表情で痛みに耐え抜いていた。


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位階レベル:一


〇スキル

《グランドディフェンス》

 盾を持って防御した場合、吹き飛ばされる事が無くなる。

(例外あり)


《ガーディアン》

 任意の味方の目の前に瞬間移動し、かばう事が出来る。

 次回発動まで一刻必要。

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 ガイは盾役タンク特化のスキルを得た。

 ガーディアンは次回発動までの時間が長すぎるので、使い処が非常に難しいのだが、進化すればより強力なものとなるだろう。

 ガイは満足した表情だ。


 次はリゥム。

 何とか痛みに耐え抜いたものの、直後に気絶してしまう。

 気絶する直前に頭に流れてきた情報は、


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位階レベル:一


〇スキル

《回復魔法効果超強化》

 回復魔法の効果が超強化される。


《回復魔法広域範囲化》

 通常一人が対象の回復魔法を、広域範囲に変更する事が出来る。

 範囲は、使用者を中心として二十五メートルミューラの距離。

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 であった。

 より回復役ヒーラーとして欠かせない存在となったのである。


 最後にレイリ。

 レイリは痛みに屈する事無く、そして一度も苦痛の声を漏らす事無く耐え抜いた。


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位階レベル:一


〇スキル

《光速》

 一日に一回のみ、光の速さで駆け抜ける事が出来る。

 移動距離は最大三十ミューラで、その間自由に攻撃は可能。


《首狩り》

《光速》時に使用可能で、敵の首を斬り落とす度に《光速》の移動距離が十ミューラ延長される。

 相手に首が無い場合のみ、身体を両断すれば効果が発揮される。

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 まさに彼女に相応しいスキルを得た。

 しかし《光速》はどうやら使用している最中は、眼が動きに対応出来ない非常に癖があるもののようで、使いこなすには鍛錬が必要だろう。



 こうして、全員が無事に《ステイタス》を得る事が出来た。

《超越級》に至る為の必須条件である《ステイタス》も得られたし、まだまだ《鮮血の牙》は上を目指せる。

 ウォーバキン達は、慢心せずに技術を磨きつつ、位階レベルも上げながら得たスキルと向き合っていこうと、改めて誓うのだった。


 

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