第80話 《遊戯者》討伐のその後 其の二

 今回は話が短めです

-----------------------------------------

 




 嬉しそうに弓を見つめるリュートに、ゴルドバーグは心の中で叫んでいた。


(いやいや、正直普通の弓使いだったら、この武器は外れも外れですからね!?)


 まず、ミーティアの弦が引けないのだ。

 そもそも弓使いの最初の試練というのは、弦を難なく引ける筋力を身に付ける事だ。

 弦を引くのに手こずってしまうと、手がぶれてしまい狙いを定める事が出来ない。

 それが出来るようになって、弓使いとして初めてスタートに立てる。

 通常の弓でも弦を張っている為、三百メートルミューラの飛距離を出すにしても相当な筋力が必要なのだ。

 しかし、リュートが元々使っていた弓は、弦も何もかもあの・・魔境の素材で作られたものだ。

 腕が太くて体躯も素晴らしい男が頑張っても、リュートの弓は本当に弦を少し引くのがやっとなのである。

 しかし目の前で目を輝かせている美少年は、難なく限界まで弦を引く事が出来る。

 つまり、一見細身に見えるが濃密な筋力を持っているという事なのだ。

 筋肉が膨張していないのは、膨張させる筋力トレーニングなどは一切せず、ただ弓を引く為だけの身体作りを愚直に行った結果、無駄な脂肪を排除して筋肉を凝縮させて作り上げた肉体だったのだ。

 そしてこのミーティア、射程距離はなんと最大八百ミューラである。

 となると、この弓の弦はリュートの弓のそれよりもっと筋力が必要とされるだろう。

 まさに、弓の申し子であるリュートが使う事前提の弓なのだ。


(……《遊戯者》はもしかしたら「自分を苦労して倒しても、扱いが難しすぎる弓しか貰えなかった」という形のいやがらせを仕掛けてきたんじゃないか)


 そのような感想を、ゴルドバーグは抱いた。

 ただ、このイケメンが弓使いとしてはイレギュラーな存在なだけで、たまたまそのいやがらせが、結果としてイカれた弓使いを更なる高みへ押し上げてしまったのだ。


(天は彼に二物も三物も恵みを与えたようだ……)


 もう同じ男として嫉妬する気も起きない。


「そうだ、リュートさん。冒険者ギルドの訓練場で特別に八百ミューラの距離で試射出来る木人を用意してもらったんですけど、その弓を試射しませんか?」


 ゴルドバーグは、リュートがすぐ試射したくなるだろうと予想し、ギルド側にお願いをして用意してもらったのだ。

 ギルドとしてもリュートの弓の腕前を見て、やる気に発破を掛けたいと思ったのだろう、喜んで協力してくれた。


「本当か!? すぐやりたいだよ!!」


 嬉しそうに笑うリュートの笑顔が、同性でもどきりとさせる程の破壊力を持っていた。

 何か新しい扉を開きかけた所で我に返り、足早に訓練場に移動するのだった。








「ここで《孤高の銀閃》が弓の練習をするんだってさ」


「前から奴の弓の腕をこの目で確認したいと思っていたんだよ」


「ああ、リュート様は今日も素敵だわ……」


「あの漆黒の弓が、《遊戯者》のラストアタックのかぁ……。どんな性能なのだろうか」


 訓練場の見学できるスペースは、沢山の冒険者で埋め尽くされていた。

 この訓練場は集団戦も出来るようにやや広く設計されており、円形状で直径約千二百ミューラ程となっている。

 一対一でも広い空間を想定した戦闘訓練も出来るので、非常に重宝されている。

 リュートの銀等級試験でも使われた場所でもある。

 

 周囲はがやがやと煩いのだが、今のリュートには喧噪すら耳に入っていない。

 ただただ、早く弓を試したくてそれどころではないのだ。

 

(うううう、八百ミューラなんて距離、経験した事ないだよ! 早く撃ちてぇ!!)


 もううずうずした気持ちを抑える事は出来ない。

 まずは失敗してもいいから、最大まで弦を引いて撃ってやろう。

 そしてその一射で感覚を掴んでやろう。

 そう思いながら、ギルドが用意してくれた鉄の矢を弦にあてがい、射る構えを取る。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る