第79話 《遊戯者》討伐のその後 其の一


《遊戯者》は完全に消滅した。

 その証拠に、彼の力を借りる魔法は一切使えなくなっていた。

 この事実に魔法使い全員は大いに喜んだ。

 何故なら《遊戯者》から接触されて呪いを掛けられるような事もなく、彼の悪口は言いたい放題だからだ。


 ちなみに討伐隊の面々は、あの後帰還のスクロールを使用して何とか地上へと戻った。

 そしてダンジョン外で待っていた馬車の御者に手伝ってもらい荷台に乗り、そのまま力なく眠りに付く。

 御者が「犠牲者は四人で済んだのか……」とぼそりと呟いていたが、それに対して何かしら反応する余裕は討伐隊全員にはなかった。

 リュートを含めた全員が、王都に付くまではとにかく心身の疲労の回復に努め、食事以外は基本的に睡眠に時間を使っていた。

 






 リュートは王都に帰還してからは、まず最初に行ったのはギルドへの報告である。

 その際はハリー、カルラ、ショウマを一緒に連れ、ギルドマスターのハーレィに直接今回のダンジョンアタックの報告をした。

 一から詳細に嘘偽りなく報告が終わると、ハーレィは椅子の背もたれに体重を乗せる。


「……そうか。本当によくやってくれたよ。たった七パーティと一人という人数でまさか討伐できるとは思わなかった」


 気が重すぎる。

 ハーレィはこの後起こる出来事が予想できてしまったからだ。

 それは――


「んで、私らは討伐までしっかりやったんだ。ギルドとしては勿論、追加報酬を用意してくれるんだろうね?」


 これである。

 ただでさえ赤字の依頼だったのに、そこから追加報酬を出すとなると、ギルドとしては大損になってしまう。


「……追加報酬は、一人十万ペイでどうだ?」


「はぁ? 私らが倒したのはあの《遊戯者》だよ!? そんな安いもんじゃすまないよ!」


「それ以上はかなり厳しいのだが――」


「あんたらの都合なんて知ったこっちゃないんだ! 私達は本当に命懸けだった。死んだ奴だっている! それをたった十万で済ませようなんて、あんたの頭は沸いているのかい?」


 十万ペイ。

 この金額は、王都で贅沢をしなければ約三ヶ月暮らせると言われている。

 今回の依頼で充分に報酬は貰っているので、第三者から見たら十万も破格の追加報酬と言えよう。

 だが、今回は当初予定をしていなかった《遊戯者》の討伐を止むを得ずやらなければいけなかった。

 そう考えると、危険手当としては十万は安すぎたのだ。

 

 カルラは一人五十万ペイを希望した。

 ハーレィは何とか頑張って二十万ペイに抑えようと、カルラを必死に説得をしている。

 そんな押し問答をしている中、ハーレィに吉報が入る。


「今王家から連絡が入った! 《遊戯者》討伐に参加した者全員に、一人百万ペイを褒賞金として授けるとの事だ!! 金の到着は明日だそうだ」


『ひゃ、百万!?』


 相当破格な追加報酬だった。

 しかも一人頭百万だ。

 

「……確か王様の親族で、《遊戯者》の呪いにやられた方がいらっしゃった筈だ。王様にとっても、今回の討伐は大変喜ばしい事なのだろう」


 今回の《遊戯者》討伐依頼は、王家からだった。

 王家が緊急として依頼してきたのも、親族が呪いによって爆殺されたからなのだろう。

 討伐隊が早急に《遊戯者》を討伐してくれた事に喜んだ王様は、金という形で討伐隊全員を労ったのだ。

 これで金額の面はギルドの金庫をこれ以上痛める事無く解決した。


 しかし――


「ハーレィ、おめぇはもうちょっと冒険者の扱いを丁寧にするだよ。これ以上酷くなった時、偶然降ってきた矢・・・・・・・・が、脳天に突き刺さるかもしれねぇかんな」


「っ」


 それはリュートから放たれた、脅しであった。

 またこのような事をしたら、殺すと。

 ああ、彼なら容易く自分を殺せるだろうな、誰にも気付かれずに。

 ハーレィは心の中で恐怖した。


「……わかった。もう少し冒険者を丁寧に扱うよ。今回の事は、本当にすまなかった」


「いいだよ。金も貰ったから手打ちにするだ。……二度目はねぇけんどな」


 今回の依頼で一番の業腹だったのが、ハーレィの態度だった。

 彼が一番心配していたのは、冒険者ではなくギルドの財務だったからだ。

 リュートの、いや、討伐隊の面々からのハーレィの評価は底辺に近い位置まで下がっており、殺意すら抱いている程だ。


 恐らく討伐隊として参加した冒険者達は、今回のハーレィの態度を吹聴するだろう。

 となると、冒険者全員からのハーレィの信用は落ちる。

 そうなった場合、今まで通り冒険者が自分の指示に従ってくれないだろう。

 これからは信用回復の為に、冒険者を第一とした行動方針を打たなくてはいけない。

 無茶な依頼は、断らなくてはいけなくなったのだ。

 ハーレィ以外誰もいなくなったギルドマスターの部屋で、ハーレィは天を仰ぎながら呟いた。


「……自業自得か、これも」


 力なく笑う彼の声は、空しく部屋に響き渡った。








 そして次に行った行動。

 それは《遊戯者》のラストアタックとして得た、漆黒の弓だ。

 実はその弓を、とある鍛冶屋に渡していた。

 名を《ゴルドバーグ鍛冶店》という。

 このゴルドバーグ鍛冶店は、リュートのスポンサーでもある。

 しかも店主であるゴルドバーグは《ステイタス》を得ており、スキルで《鑑定》を持っていたのだ。

 この《鑑定》というスキルは非常に便利で、ダンジョンで得た武具やアイテムの効果を事詳細に知る事が出来るのだ。

 また、スキルとしても非常に珍しいもので、世界的に見ても《鑑定》を持っている者の人数はやっと二桁に入る程度だそうだ。

 本来鑑定をしてもらうのに、一回五万ペイと高額なのだが、スポンサー特典として無料で鑑定をしてもらっている。

 さて、この漆黒の弓の結果だが――


「リュートさん、この弓はなかなか面白いですよ」


「面白い?」


「ええ。等級で言えば英雄エピック武器ですね」


 武具にも等級が存在している。

 等級が低い順に、普通ノーマル高級レア最高級マジック英雄エピック伝説レジェンダリー神器ゴッヅとなっている。

 人間や亜人のドワーフが頑張っても製作出来るのは最高級マジックまでと言われており、英雄エピックはダンジョンのみ、それから上は入手先不明の幻の等級となっている。

 ちなみに王家が管理している聖なる武具――つまり聖弓も含めたものは神器ゴッヅに該当している。


「この漆黒の弓の名前は《ミーティア》。名前の意味は……正直わかりません。恐らく異世界の単語と思われますねぇ」


「……ミーティア」


 あの《遊戯者》から得た武器の割には、響きが平和過ぎる気がする。

 もっと仰々しい名前になるのでは、とリュートは予想していたからだ。


「効果は二つ。一つは射程距離の増加でして、最大射程距離は八百メートルミューラのようですね。いやいや、もう弓としての射程距離を超えてますよ……」


 人間や亜人が作れる弓は、最大射程は三百ミューラと言われている。

 そしてリュートが持っている弓に関しては、魔境という特殊な場所で採れた素材を使用しているので、頑張って最大射程は五百ミューラだ。

 このミーティアは大きく超えて八百と来た。

 弓としては破格の性能だ。


「そして二つ目は不壊です。どんな事があろうと壊れないようで、弦も交換要らずです。これも弓使いにとっては嬉しい効果ではないでしょうか」


 その通りで、リュートにとっては消耗品となる弦の交換が無くなった事が非常に喜ばしい事だった。

 どうやらミーティアは飛距離特化で絶対に壊れないという弓のようだ。

 英雄エピック武器としては非常に地味な効果ではあるが、リュートの腕前が合わされば伝説レジェンダリーに迫るものなのかもしれない。


 ゴルドバーグから漆黒の弓を返してもらったリュートは、自身の新たな可能性が生まれた予感がし、色々と模索したくなってきた。

 ゴルドバーグ曰く、その目は新しい玩具を買ってもらえた子供のようだったとの事だった。

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