第77話 ラストスパート


 もう何度繰り返しただろうか。

 討伐隊の面々のスタミナはほぼ尽き欠けていた。

 とにかくひたすらに斬りまくり貫きまくり状態だったのだ。

 ラファエルに関しては勝機と見て、スキルを使いまくったせいか頭痛がして軽く眩暈がする。

 それはラファエルだけではない、他の面々もそうだ。

 ただ生き残りたい、その一心で全力で攻撃したのだ。

 

 そして現在はボロボロになって上半身が吹き飛んでいる《遊戯者》の再生待ちだ。

 相変わらず再生待ちになると、分身体が宿っているリーナとカシウスは一切動かない。

 結局は《遊戯者》は討伐隊の行動に対策は一切打てず、ただやられまくるだけだった。

《遊戯者》に対して考えを与える時間も、行動させる時間すら与えなかった。

 完全な対 《遊戯者》用の作業だったのだ。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……頼む、次で最後にしてくれ」


 弱音を吐いたのはラファエルだ。

 だが、誰も彼に文句を言えない。

 全員がそのような思いだからだ。

 この再生待ちの時間だけが、休憩できる一時の安らぎだった。

 そして、頭部まで完全に修復されて、即座に口の数を見る。

 一つのみだ。

 しかもその一つも、うっすらだが薄くなっている。


「皆、《遊戯者》は虫の息だ! もう一押しで倒せるぞ!!」


 ラファエルが声を絞り出して叫ぶ。

 そして討伐隊の面々も最後の力を振り絞ろうとする。

 が――


「……もう、どうでもいいや」


 口が一つだけになった《遊戯者》が、そう呟いた。

 すると、自身の左の指を右手でねじるように一本一本引きちぎり、それを五本全ての指で行った。

 

「ああ、痛いなぁ。でも、仕方ない」


 引きちぎった五本の指を自分の周囲にばら撒いて――


「《はた迷惑な自爆者ダイナミック・ボム》」


 引きちぎった指が小さく爆発を起こした。

 討伐隊の面々には被害はないが、爆風で全員が後方に吹き飛ばされ、転倒した。

 分身体が操るリーナとカシウスも、のろりのろりと無気力に本体の隣まで移動し、討伐隊を正面に捉える。


「さあ、最後のゲームをしよう。ルールは簡単だ。僕は今からこのダンジョンを破壊できる程の自爆をします」


「なっ!?」


 誰かが驚愕した声を漏らす。


「自爆する時間は一分。それまでに僕を倒し切らないと、僕を含め全員死にます。生き残る道はたった一つ、全てを出し切って僕を殺しましょう」


 無気力に話す《遊戯者》は、最後の最後に爆弾処理のゲームを仕掛けてきた。


「僕の三つ目のスキルは《ファイナルストライク》。自身が自爆する際、爆発力を数十倍に引き上げるってやつさ。もしかしたらダンジョンだけじゃなくて、鉱山ごと吹き飛ばしちゃうかもね!!」


 喋る間にもテンションが上がって来たのか、言葉に力強さが戻ってくる。

 

「さあ、君達が勝って僕が死ぬか、相打ちダブルクラッシュとなるか、最後の勝負だ!! あははははははははははははは!!」


 直後、《遊戯者》の身体から赤黒いオーラのようなものが漏れ出す。

 それは爆発したかのように身体の周囲に膨れ上がった後、ぴたりと止まったかと思えば、《遊戯者》の身体の中へと戻る。

 すると次は《遊戯者》自身の身体が膨張を開始する。

 どうやら自爆の準備は整ったようだ。


「ゲーム、スタート」


《遊戯者》の言葉により、最後のゲームが始まった。


「随分と理不尽なゲームだが、やらなきゃ死んじまう!! 全員、最後の力を振り絞れ!! とつげきぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」


 ラファエルが叫ぶと、討伐隊全員が雄叫びを上げて《遊戯者》との距離を詰める。

 遠距離攻撃が出来る者は、走りながらも《遊戯者》を攻撃する。

 当然リュートも攻撃をしている。

 持っている爆裂矢は、残り四本。

 丁度 《遊戯者》との距離が開いている為、味方に爆風の被害が及ばない。

 リュートは素早く爆裂矢四本全てを《遊戯者》に放って、突き刺した。


「爆裂矢、一番二番四番十番、起動!!」


 爆裂矢が四本同時に起爆された事により、耳の鼓膜を突き破る程の炸裂音が部屋の中に響き渡る。

 爆発の煙が無くなると、《遊戯者》の身体は欠損すらしていないが、最後に残った口が明らかに薄くなってきている。

 効いているのは間違いない。

 だが、《遊戯者》は徐々に膨張していく。

 隣にいるリーナとカシウスも一緒に、風船のように膨らんでいく。

 

「……あれは残していては不味い気がするな。《パワースロー》」


 今までの経緯から可能性は非常に低いだろうが、本体を倒しても分身体が残っていたら爆発する可能性があるかもしれないと思い、《黄金の道》副リーダーのゴーシュは自分の槍をリーナに向かって投げる。

 スキル《パワースロー》の効果により視認できない程の速さで飛んでいく槍は、リーナの頭を粉々に吹き飛ばす。

 そしてリーナはその場で崩れ落ち、空気が抜けた風船のように彼女の外皮だけが残る。

 分身体は本体と痛覚を共有している、ゴーシュの攻撃で果たしてダメージは通っているのか。

 ゴーシュは《遊戯者》の口を見る。

 すると、僅かだが先程より透明になっているようだ。

 効いている!


「誰か、乗っ取られている方のカシウスを殺してくれ!!」


「私がやるわ!」


 名乗り出たのはリョウコだ。

 リョウコは《念動力》で大き目の石を浮遊させ、カシウスに向けて放つ。

 勢いよく飛んでいく石は見事カシウスの頭を粉砕。

 頭部が無くなったカシウスは中身が無くなり、外皮だけになった。

 こちらも本体にダメージが行ったようで、僅かに口の透明度が増した。


《縮地》と《真・縮地》を駆使し、先に到着したのはショウマとハリーだ。


「畜生、まさか最後にDPSチェックが来るとはなぁ!!」


「でぃーぴー……何て?」


「俺の独り言! とにかくひたすら攻撃のみだ! 《爆炎剣》!!」


 ショウマがまた訳が分からない言葉を言いハリーが気になって訊ねるが、そんな余裕はない。

 ハリーは生きて帰れたら意味を聞いてみようと心に決め、攻撃に集中する。

 討伐隊の仲間達が続々と《遊戯者》に辿り着き、攻撃を開始する。


「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇぇぇぇ!!」


「頼む、死んでくれぇ!!」


 生き残る為に、死んで欲しいという願いを込めて攻撃を行う面々。

 基本戦闘中は感情を見せないリュートも、珍しく焦っている表情を見せていた。

 リュートは一心不乱に持っている矢全てを使い切る覚悟で、素早く放つ。

 冷や汗が一つ、リュートの頬を伝って流れ落ちた。

 

 死にたくない。

 生きたい。

 まだ聖弓を得ていない!


 リュートの最大の目標である聖弓、それを得るまでは死ねないのだ。


「あああああああああ!!」


 弦を持つ指の表皮が破け、血が滲み出ている。

 弦を引く度に傷口と擦れて、段々傷が広がっていくのを痛みが教えてくれるが、そんな事にいちいちリアクションしている時間はない。

 弦がどんどん赤く染まっていく。

 痛みで一瞬弦を引く力が抜けるのを感じるが、必死で堪える。

 恐ろしい程の反発力を持つ弦を、最大まで引いている。

 王都に来てからここまで引いて放つような場面はなかった。

 故に腕の筋肉も痙攣して限界を伝えてきている。


(……帰ったら、全力で矢を放つ練習もしなきゃいけねぇだよ)


 最大まで引いた弦から放たれる矢は、ゴーシュの《パワースロー》より若干劣る程度の速さで飛んでいく。

 万全ではない身体の状態であっても、リュートの的中率は一切変わらず全て《遊戯者》の頭部に突き刺さっている。


 全員の猛攻が効いているのか、《遊戯者》の口はもううっすらと見える程度だ。

 しかし《遊戯者》の身体もあり得ない位に膨張をしている。

 勝つか共倒れか、即死間違いなしの崖の間を結んでいる一本の細い綱を、死ぬ思いで綱渡りをしているような気分だ。


 討伐隊全員が、限界を乗り越えて攻撃をしていた。

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