第63話 ダンジョンアタック、開始


 目的地となるガーレシア鉱山までの旅路は、大きな問題はなかった。

 あったとしたら、途中ゴブリンが出てきて、それを得意げに《超越級》達が排除した程度。

 技量を図ろうとリュートは彼等の動きを見ていたが、ゴブリン程度では無理だった。


(まぁ流石に《超越級》がゴブリンで手間取る訳ねぇか)


 手間取っていたら大問題である。

 後は野宿の際、あからさまに《超越級》とそれ以外といった形で仕切りを作り、関りを拒絶していた事だろう。

 だから、《超越級》メンバーは知らない。

 自分達が下に見ていた《超越級》以外のメンバーの食事は、非常に豪華であったという事を。

 しっかりと自己紹介を聞いておけば、自分達も干し肉で空腹を紛らわせるなんて事をしなくてよかったのだ。

 そんなリュート達も、騒ぎ過ぎると《超越級》メンバーに色々言われてしまうと感じており、静かにリュートが狩って来た得物を使った料理に舌鼓を打っていた。


 馬車に揺られて二日。

 ついに目的地のガーレシア鉱山に到着した。

 この鉱山内部に、憎き《邪悪なる遊戯者》のダンジョンがある。

 討伐隊一行は鉱山に入り、奥へと進んでいく。

 すると、一つ違和感がある穴を見つけた。

 鉱山のただの道の一つかと思ったが、覗き込んでも先が見えない不自然な闇が広がっている。

 ここがダンジョンの入り口である。


 ラファエルがよしと短く気合を入れ、振り返ってメンバー全員に問いかける。


「今からダンジョン内部に侵入する。準備はいいな?」


 すると、《黄金の道》の斥候であるバーツが手を挙げる。


「どうした、バーツ」


「一つ確認したい事がありやす。どなたか《帰還のスクロール》はお持ちですか?」


すると、《黄金の道》のトリッシュ、《栄光の剣》のランディ、《運命の叛逆者》のレント、《伝説の存在》のケイン、そして《竜槍穿りゅうそうせん》のハリーが手を挙げる。


「……わかりやした。これがあれば何かあっても逃げ出せますね」


「だな。いいか皆、かの《邪悪なる遊戯者》のダンジョンだ。恐らく一筋縄じゃない曲者なダンジョンだろう。気を引き締めて行くぞ! それと《超越級》以外のパーティ、足引っ張るんじゃねぇぞ!」


 いちいち余計な事を言うラファエルは、リュート達を苛立たせた。

 なら、お手並み拝見と行こうじゃないか。

 実は野宿の時、恐らく足を引っ張るなと言われるだろうから、《超越級かれら》より後方から付いて行くという方針にしたのだった。

 だが予想していたとはいえ、やはり苛立ってしまう。


「全員、突入!!」


 ラファエルの号令の元、不自然な闇に突撃する討伐隊一行。

 入った瞬間眩暈がして、不思議な感覚に陥る。

 眩暈が回復すると、眼前に広がるのは鉱山の岩肌ではなく、何処かの砦の通路ではないかと思わせる、綺麗に積まれている石のブロックで出来た壁だった。

 まさにそこは通路で、体躯の良い男が三人横に並べる程の横幅だった。

 ご丁寧に松明が壁に備えられており、明りに困る事はない。


「……これが、ダンジョン」


 リュートは呟く。

 ダンジョン初体験であるリュートにとって、非常に新鮮であった。

 が、相変わらず先が見えない。

 松明の光がぽつぽつと道を示すかのように先に設置されているが、先の全貌を見渡せる程の光量ではなかった。


 すると、通路内に声が響き渡る。


『うぇるか~~~~む!! ようこそ、僕のダンジョンへ! 君達が最初の挑戦者だよ、パチパチパチ!』


 何とも小馬鹿にしたような男性の声が響き渡る。

 しかも第一声で意味不明な言葉を放っている。

 リュートは流れ者であるショウマに視線を向けると、小声で言葉の意味を教えてくれた。


「ウェルカム、俺達の世界の言葉でようこそって意味だ」


「……まさか、流れ者の超常的存在け?」


「いや、もしかしたら他の流れ者から言葉を学んだだけかもしれない。しかも超常的存在の流れ者なんて、聞いた事がない」


「……そっか」


 この世界の人間は、聞き慣れない言葉を発する奴は流れ者、という形で判断する者が非常に多い。

 リュートも勉強を進める上で、そのような認識を頭に入れた人間の一人だった。


『さてさて、僕は皆から遊戯者って言われているけど、その通りでゲームが大好きなんだ! なので、このダンジョンも一工夫してあるよ!』


「……一工夫だぁ?」


 ラファエルが首を傾げてぼそっと言葉を漏らす。


『そう、一工夫! 題して『チキチキ!! ダンジョンRTA!! 規定時間に踏破出来なきゃ即死亡!!』だよ、パチパチパチパチ!!』


 また聞き慣れない言葉が出てきた。

 リュートは咄嗟に《ジャパニーズ》メンバーを見ると、どうやら反応しているのはショウマだけで、他のメンバーは首を傾げていた。


(ショウマだけ……? 一般的な言葉じゃないって事けぇ? けんども、この遊戯者って奴、十中八九流れ者かもしんねぇ)


 流れ者である《ジャパニーズ》のメンバーが反応する言葉という事は、この超常的存在は、流れ者だとほぼほぼ確定したと言える。


『ルールは簡単。各階層に設けられた時間内に次の階層へ行けなかった場合、各階層に仕掛けられたトラップが発動! 即死亡しちゃいます! 全部で十階層あるから、頑張ってね♪』


 十階層と聞き、リュートと《ジャパニーズ》以外の討伐隊メンバーはざわつく。

 それもそうだ。

 現在確認できているダンジョンは、最高で七階層。

 遊戯者のダンジョンは、人知れず成長をしていたのだ。

 そこまで育って深くなっているダンジョンが、各階層毎に時間制限が設けられているという鬼畜仕様。

 これは早い段階で《帰還のスクロール》を使う羽目になりそうだ。

 誰もがそう思った。

 が、


『あっ、君達は《帰還のスクロール》を持ってるね? ざーんねん♪ そんな無粋な道具は僕のダンジョンでは使用禁止♪』


 すると、ダンジョンの出入り口が消えてなくなる。


「なっ!? 閉じ込められた!? きっと嘘に決まっている。各員 《帰還のスクロール》を使え。このダンジョンは危険すぎる!」


 ラファエルの号令の元、全員が《帰還のスクロール》を使う。

 が、うんともすんとも言わない。


「そ、そんな」


『あははははははははは!! いいね、その顔!! 僕、君達のそういう絶望した顔を見るのが大好きなんだよ♡♡♡ ああ、勃つわぁ。あ、僕にブツはないんだけどね』


 いちいち耳障りな声で討伐隊を煽る《邪悪なる遊戯者》。

 

『さて、今からゲームを開始するよ! 第一階層の制限時間は十分二十秒!! それまでに踏破出来なかったら――ああ、怖い! 死んじゃいます♪』


「……は? 分とか秒って、流れ者の単位だろ! オレ達にはそれがわからねぇよ!!」


 分や秒はこの世界の人間が使う事がない。

 流れ者は把握しており、この世界にも落とし込もうとしたのだが、習慣化される事はなかった。


『《ジャパニーズ》達がいるじゃん? 彼等ならわかるから時間を教えてもらうといいよ!』


「……ちっ、流れ者に頼るしかねぇのかよ。いいかてめぇら! オレ達に時間をしっかり伝えろよ!!」


 どうやらラファエルも流れ者に良い感情を抱いていないらしく、とても高圧的だった。


「……達臣、タイマーのセットを頼む」


「……ふぅ、わかった」


 ショウマはタツオミに指示を出し、スマホと呼ばれる板に時間を設定した。


『さぁ、君達! 僕の所に頑張って来てくれたまえ!! では、ゲーム、スタァァァァァァァァァァァト!!』


 非常に楽しそうで不愉快な声が響き渡り、制限時間付きの命懸けのダンジョンアタックが、今始まった。
















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〇分と秒

 流れ者が持ち込んだ技術には、あまりにも高度過ぎて流通しなかったものも多い。

 その一つが、分と秒という概念だ。

 流れ者達は物心ついた時から、時計というものが身近にあり、身体にその概念が叩き込まれている為、ある程度時計がなくても感覚でわかるようになっている。

 しかし、この世界においては時計は影時計しかなく、《刻》という単位で一時間毎しか把握していないのだ。

 そんな世界で分と秒を理解しろと言われても出来る訳がなく、残念ながら流通しなかった。

 また、ニホンジンと呼ばれる流れ者達は時間に非常に細かく、度々「〇分後に集合な」と時間設定をされ、現地の人達は「分ってどれくらいだよ!」と怒って喧嘩が始まる、というケースもあるのだとか。

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