第62話 ダンジョンアタック当日 其の三


「さて、最後はうちらの紹介だね。うちら《伝説の存在》のリーダーやってるケインだよ。白金等級で、位階レベルは三十七だね。スキルは一つだけなんだけど、《神速斬》っていうもんを使えるよ。よろしくね!」


 女性受けしそうな顔立ちをしているケインは、女性陣に向けてウインクする。

 ……あまり効果はなさそうだったが。

 彼が使う《神速斬》は、約十メートルミューラを、文字通り神速とも言える速さで移動して敵を斬るスキルだ。

 ほんの少しだけ溜めが必要だが、このスキルはすぐにもう一度発動可能で使い勝手がいい。

 更に、十メートルミューラ移動している間なら、敵が複数体いても斬れるという優れもので、対多数戦でも、タイマンでも使用できるのだ。


(……だから、何でそんないいスキル持ってて、白金等級止まりなんだべか)


 何故こんなにもだらけてしまっているのだろうか?

 リュートには一切理解できなかった。

 これがギルド側が問題視している、自身の安全と収入の安定を優先した保守的な冒険者の末路なのだろう。

 完全にパーティ名が名前負けしている。


「あ、次わたしねぇ~。わたしは~《アンナ》って言うのぉ。位階レベルは三十八でぇ、黒魔法を得意としているわぁ。スキルはぁ、《黒魔法超絶強化》よぉ。よろしくねぇ」


 間延びした喋り方をするアンナは、一言で言えば妖艶だ。

 黒いトンガリ帽子を被ってはいるが、服は豊満な胸の谷間を存分に見せつける黒いパーティドレス風の格好だ。

 その効果はかなりてきめんな様子で、先程からリュート以外の男性陣が、彼女の胸元をちらちらと視線を送っていた。

 スキルは一つしかないが、恐らく黒魔法を使う続けた結果スキルが呼応し、黒魔法特化のスキルを与えたのだろう。

 

(……確か、資料では一番の問題児だったはずだべな)


 アンナは、その美貌を活かして男を性的に喰いまくっている。

 ケインとは毎晩、時には依頼人にも手を出して、何度も家庭崩壊を引き起こしているのだとか。

 情報屋のデイによると夜の技は相当なもので、一度受けるとまるで麻薬に犯されたかのように彼女に夢中になるようだ。


(……これぜってぇ、デイもその技とやらを受けたんだろうな)


 ギルドにも苦情がかなり来ており、何度も注意をしているが改善が無い為、《伝説の存在》全員の降格処分を言い渡して現在は白金等級となってしまったらしい。

 ちなみに、彼等に向上心は皆無で、白金等級でも十分過ぎる報酬が得られるので、昇格する気はないらしい。


 ふと、視線を感じてその方向へ顔を向けると、アンナが腕を組んで豊満な胸を持ち上げ、リュートに向かってウインクをしてきた。

 成程、これは並みの男ならいちころだろう。

 そう、並みの男なら、だ。

 やや女性不信気味なリュートからしたら、一切効果がない。

 むしろ、常日頃そのような露骨なアピールは受けまくっているので、今更何も感じない。

 とにかく、無視だ。


「次は私っすね! 私は《リーナ》っす。得物は両手剣ツヴァイハンダーっす! 位階レベルは三十六で、スキルは《超・回転斬》っすよ!」


 小柄ながら自身の身長より長い両手剣ツヴァイハンダーを持っているリーナは、その体型からは信じられない怪力を生まれつき持っていた。

 スキルの《超・回転斬》は遠心力を利用して自身の身体を回転させる事によって、謎の真空刃を生み出して敵を切り刻むものだ。

 両手剣ツヴァイハンダーの遠心力は半端なく、得物で両断し、真空刃でも両断するという、乱戦には持ってこいだ。


(……で、こいつが二番目の問題児っちゅうわけか)


 その怪力故か、護衛対象の荷物を壊してしまったり、魔物に襲われた村での戦闘の際は、村人の家屋を何棟も破壊したり、苦情が多かった。

 ちなみに、リーナもケインと夜を共にしているそうだ。


(……ある意味、伝説の存在だぎゃ)


 リュートは頭を抱えたくなる。

 それ程までに《超越級》は問題児だらけだった。

 しかし、この依頼を達成すれば、金等級は目と鼻の先だ。

 帰還のスクロールもあるし、安全第一で依頼を達成しよう。

 改めてそのように誓うリュートだった。


「じゃあ最後ね! 私は《カミーユ》よ。位階レベルは三十七でスキルは《ガイアインパクト》よ!」


《伝説の存在》最後のメンバーはこれまた女性のカミーユ。

 彼女のボディラインがくっきり浮かぶ程にフィットした黒いシャツに、足の付け根までスリットが入っていて、程良く柔らかそうな太ももが露になるロングスカートと、これまた世の男性を煽るような扇情的な格好をしている。

 腕には鉄製の棘が付いたグローブをしている事から、超至近距離での格闘戦を得意としているのだろう。

 スキルの《ガイアインパクト》は、僅かな溜め時間を必要とするが、どんな巨体も吹き飛ばす渾身の一撃を放つものだ。

 食らった者は全身の骨という骨が粉々になり、後方へ吹き飛ばされる。

 そのスキルのせいで、周囲の物をとにかく破壊しまくっているそうだ。

 ちなみに、彼女もケインと夜を激しく楽しんでいるようだ。

 ようは、ケインのハーレムパーティなのだ。


(……ハリーに早く切り上げるよう言うべ)


 スキルだけ聞けば有能なのだが、事前に調べてもらって実情を知ってしまった今、全く信用できない。

 こんなのと一緒にダンジョンアタックなんて、命知らずもいい所だ。

 ハリーの表情を見ると、非常に渋い顔をしていた。

 恐らく、リュートと同じ心境なのだろう。

 なら、敢えて進言しなくてもいいか、と早く切り上げようという進言は飲み込んだ。


 馬車はまだ来ない。

 ならばとハリーは自分達の自己紹介をしようと前に出た、その時だった。


「ああ、てめぇらの紹介はいらねぇ。どうせオレ達 《超越級》以外は役立たずそうだしな」


「……はぁ? しかし、俺達の戦力も把握してもらった方がう――」


「オレ達より位階レベルが下、それに《ステイタス》すら持ってねぇ奴なんて戦力として見てねぇんだよ。いいか、てめぇらはオレの指示に従え。それだけだ」


「……」


 リュートとハリーを含む、《超越級》以外のメンバーは内心今からでも依頼を断りたいと思っていた。

 しかし、報酬が魅力的でもある。

《超越級》の面々には苛立ちを隠せないが、どうせ短い付き合いだ。

《超越級》以外のメンバー全員は、余計な事を言わずに自身の気持ちを押し殺し、報酬の為に我慢したのだ。


 そして馬車が到着し、各々が馬車に乗る。

 不安しかないダンジョンアタックが、今開始されたのだった。

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