第59話 田舎者弓使い、称賛される

前回のお話、ちょっと修正しています。

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「という訳で、私とリュートで報酬五倍をもぎ取ってきました!!」


 カルラは意外とボリューミーな胸を張り、威張っていた。

 リュートもカルラにせっつかれて、仕方なく彼女の真似をする。

 すると、二人以外の《竜槍穿りゅうそうせん》、《鮮血の牙》、《ジャパニーズ》のメンバーが、「おお」と感嘆の声を漏らしながら百パーセントの称賛の拍手を送った。


 今回のダンジョンアタックはそもそも元から高額で、この依頼を達成出来たら一ヶ月位は遊んで暮らせるものであった。

 それが、未達成であっても無事帰還出来たら報酬が支払われ、且つ元々の報酬と経験点が五倍と来た。

 ダンジョンアタックするメンバーにとってはありがたい話だった。

竜槍穿りゅうそうせん》はこの依頼の経験点で、もう少し頑張れば《超越級》の昇格試験が出来る位に溜まる。

《鮮血の牙》の面々も、各々が《ステイタス》持ちになれる。

《ジャパニーズ》も昇格試験を受けられるのに十分な経験点が貰えるので、銀等級を目指せて報酬もアップする。

 そしてリュートも、毎日コツコツと依頼を受けていたおかげもあってか、今回の報酬で金等級の昇格試験まで後僅かという所まで迫っていた。

 本当は受けたくない依頼だが、帰還のスクロールがあるから比較的安全だ。


「しかし、あの《超越級》達は問題過ぎるな」


 ハリーが、リュートが持ってきた資料を読みながらため息を付いた。


「……俺様は、そんな馬鹿野郎どもに命預けらんねぇぞ」


 ウォーバキンが唾を吐くような真似をしながら悪態を付く。


「それは俺達 《ジャパニーズ》も同じだよ。俺達が命を預けられるのは、ハリー達だよ」


 ショウマはハリーを見つめながら真剣に言う。


「オラもだ。ただ《ステイタス》っちゅう玩具を手に入れてはしゃいでる阿呆なんかに、オラの未来は預けらんねぇ。だけんど、ハリーは信用出来るだよ」


 そしてリュートは、ハリーに全幅の信頼を寄せていた。


「……皆、ありがとう。そしてカルラ、情報共有の場を設けてくれてありがとう」


「いいって事よ。何かきな臭い依頼だったから、私達は私達で《超越級》を見限ってやろうって思っただけさ」


「……その判断は正しい。一応この場では俺が代表という形になっているから俺の意見を言おう。俺が《超越級》を信用できないと思った時点で依頼を終了し、帰還のスクロールを使おうと思っている。これに関して、反対意見はあるか?」


 ハリーの考えに対し、誰も手を挙げない。

 つまり、皆同じ考えという事だ。


「よし、次に問題なくダンジョンアタックが出来たとしての仮定だ。どの階層まで進んだら帰還のスクロールを使うか決めよう」


 ダンジョンは、ダンジョン毎に階層が存在している。

 基本的に地下に進んでいく迷宮型で、時に地上と思わせる大自然が広がっていたりする。

 階層や広さがどれ位なのかは、最深部にいる《魔界》に住まう超常的存在の強さによるとされており、今回の《邪悪なる遊戯者》の場合、最低でも十階層あるのではないか、というのがギルドの見立てである。


「リュート、念の為に聞くが、ダンジョンアタックの経験は?」


無い。だから、オラは皆に従うだよ」


「わかった。他に意見はないか?」


 ハリーの問いかけに、一人手を挙げる者がいた。

 タツオミだ。


「ダンジョンは調べたからわかっているつもり。で、今回は悪名高い《邪悪なる遊戯者》だよね? 命を大事にっていう形で依頼を進行するなら、僕は第二階層に入ったら帰還していいと思っている」


「……成程な。ならそこに付け加えてもいいだろうか」


「何かな?」


「帰還のスクロールを使う優先度を決めようと思っている。第一優先は、俺が先に提案した《超越級》が信用できない場合」


「うん、賛成だね」


「第二優先、リュートが危険と思った場合だ」


「あっ、成程」


 リュートはこのメンバーの中では、一番危機察知能力に優れている。

 長年狩りで培われた技能なのかは不明だが、《ジャパニーズ》のメンバーのリハビリを兼ねての依頼を受けた時、リュートの察知能力に救われた場面があったのだ。

 ちなみにそれは《竜槍穿りゅうそうせん》の斥候、エリーが得たスキルである《探知 Lv.3》を凌駕している。

 ……何故 《ステイタス》を持っていないリュートがスキルを凌駕しているのか、甚だ疑問ではあるが。

 それ程の技能なのだから、第二優先としてリュートに従った方が確実だと判断したのだ。

 ハリーの言葉を聞いて、タツオミを含めた全員が納得する。

 ――リュート以外は。


「えっ、オラの判断、そんな優先度高くていいんけ?」


「いいんだよ。お前のその判断は、何より命が助かる可能性が高くなるからな。頼りにしている」


「……わかっただ」


 ハリーに頼りにされていると言われ、内心とても嬉しく思うリュートであった。


「さて、第三優先はタツオミが提案してくれた、第二階層に入ったら帰還のスクロールを使うというものだな」


「うん、僕からはケチ付ける所は全くないね」


 タツオミは満足そうに頷く。

 他に優先を付け加えたいメンバーがいるかとハリーは問いかけたが、優先度の項目を無駄に増やしても混乱するので、この三点でいいという話でまとまった。


「よし、とにかく俺達は『命を大事に』を掲げて行動する。絶対俺達は死なずに生き残る。いいな?」


『応!!』


「よし、では他に何か決めておきたい事はあるか? ……なさそうだな。一応念の為数日は凌げる食料等を準備しておくように。解散!!」


 こうして、ハリーが代表となって動く《超越級》以外のパーティは、命を大事にするという目標を掲げて、ダンジョンアタック当日まで準備を怠らずに続けるのだった。

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