第58話 リュートとカルラ、ギルドにクレームを入れに行く


「面を貸す? なして?」


 突然カルラからそのような申し出をされ、首を傾げて疑問を投げかける。


「ちょっとさ、《超越級》以外のパーティメンバーで話し合おうと思って」


「……オラはいいだけんど、ちょっと見てほしいもんがあるんだべ」


「ん?」


 カルラはリュートが泊っている部屋に案内される。

 そこで、分厚い資料を無言で渡される。


(……とりあえず読めって事かな?)


 カルラはスラム街育ちだが、ウォーバキンと違って文字は読める。

 彼女は椅子に腰掛け、資料を見る。

 読み進める内に、最初は冷や汗が出てきて、最後のページでは顔色が心なしか悪かった。


「リュート、あんたこれ、どうしたのさ」


「オラが使ってる情報屋に調べさせただ。《超越級》の調査結果だべ」


「……はぁ、見てよかったと言うべきか、見るんじゃなかったと言うべきか」


 カルラは天井を見上げて深い溜め息を吐く。


「予定変更! リュート、ギルドに行くよ!!」


「……オラもそうしようかなって思ってた所だった」


「一緒に来てくれるよね!?」


「あたりめぇだ」


 正直、リュートも内心苛立っていた。

 何故こんな信用できない輩と一緒に仕事をしなくてはいけないのか、と。

 

(こりゃ文句の一つや二つ、ハーレィのおっちゃんにぶつけてもいいべな)


 リュートとカルラは早速、資料を持って冒険者ギルドへ早足で向かう。

 二人の表情は最早、怒りを通り越して無だ。

 無表情だからこそ、謎の威圧感が全身から溢れ出ていた。


 二人はギルドの扉をばんっと荒々しく開け、受付嬢のカウンターへ向かう。


「おい、さっさとギルマスを出せ」


「んだ」


 カルラが受付嬢を睨みつける。

 流れ者から伝わる伝説の生き物である《ヤンキー》を思わせる、鬼の表情だ。

 リュートの表情は無だが、カルラと同様殺気じみた気配を漂わせている。


(……やばい、これ、ダンジョンアタックの面子に関する事で怒っていらっしゃる)


 丁度ギルドマスターであるハーレィは、自身の部屋で事務作業をしている。

 ――よし、丸投げしよう!


「いらっしゃいます、どうぞ、執務室へ!」


 ハーレィの都合も考えず、受付嬢はハーレィの執務室前まで案内した。

 そして、力強く扉をノックする。


「マスター、カルラ様とリュート様がいらっしゃいました!! お通ししますね!!」


「ん? ちょ、ちょっとま――」


 ハーレィの許可なく、勢いよく扉を開ける受付嬢。


「こら、まだ許可を出して――」


 ハーレィは受付嬢を叱ろうとしたが、彼女の背後にいる二人の表情を見て、事態を察知した。


(……ああ、乗り込んできてしまったか)


 と。







「さぁギルマス、今回の件を説明してもらおうか!!」


 カルラはリュートが集めた資料を机に投げ捨てるように置き、脅すように机をばんと強めに叩く。


「……良く調べてあるな。これはカルラが?」


「違う、リュートが情報屋を使って調べたのよ! あの《超越級》どもが胡散臭すぎるんでね。なっ、リュート?」


「その通りだべ」


「……リュートがそういう行動を出来るようになったのか。喜ぶべきか、今は止めてほしかったというべきか」


「ギルマス、そう言うって事はあんた、確信犯だね?」


 ハーレィは溜息を付いて頷いた。


「ああ、確信犯だ」


「……あんたさぁ、ダンジョンアタックで超常的存在の討伐っていう危険度マシマシな依頼に、何であんなのを選んだのさ! それに何で《超越級》じゃない私達を巻き込んだのさ!!」


「……まぁいくつか理由がある」


 ハーレィは身体が重たそうに立ち上がり、リュート達に背中を向ける。


「一つ目。その資料通り、彼等はこの依頼の成果次第で《超越級》を剥奪する予定だ。つまり、最後のチャンスを与えたのだよ」


「それじゃあ別に私達は必要な――」


「最後までとりあえず聞いてくれ。二つ目、《竜槍穿りゅうそうせん》、《鮮血の牙》、《ジャパニーズ》、そしてリュート。君達は贔屓目じゃなくてもあの《超越級》の四パーティより優秀だと、私達ギルドは評価している。《竜槍穿りゅうそうせん》においては《ステイタス》を得てから更に勢いが凄く、恐らく《超越級》も余裕で狙えるだろう。《ジャパニーズ》も実力的には《超越級》手前にいる。《鮮血の牙》も《ステイタス》を得れば《超越級》に行ける優秀な人材だし、リュートにおいては討伐や狩りにおいては最早 《超越級》の域にいる。そういった理由で君達を選んだのだ」


「……」


 言いたい事は山ほどあるが、拳を強く握りしめて耐えるカルラ。


「三つ目、君達に《超越級》四パーティを見定めて貰い、その報告をして貰いたかった。本当は出発前にそれを告げるつもりだったのだがな。君達には《帰還のスクロール》を渡して、いつでも帰れるようにと伝えるつもりだった」


 この言葉を聞いて、カルラとリュートの留飲は若干下がった。


「四つ目は君達の報告次第では、《超越級》どころか冒険者資格を剥奪する事も視野に入れている、というのが、我々ギルド側の思惑の全てだ」


 ハーレィの表情は、背を向けている為読み取れない。

 だが、恐らくギルドとしても苦渋の決断だったのだろうと予想できた。


「正直に言おう。俺はこの面子では《邪悪なる遊戯者》の討伐は非常に難しいと考えている。だが、国から早く冒険者を送れとせっつかれている以上、こちら側が出せる戦力の最良はこれしかなかったんだ……」


「つまり、今回のダンジョンアタックは、国に対して『今いる最高戦力で攻略を目指したけど、非常に厄介で出来なかった。第二次攻略編成を組む』っていう体を作りたいって事? 王国からクレームが入るのを覚悟の上で?」


「んで、序でにつっかえねぇ四パーティに処罰を下してぇって事けぇ?」


「……その通りだ」


「……おい、ギルマス」


 カルラはハーレィの所まで駆け寄り、肩を掴んで振り向かせて胸倉を掴む。


「あんたらの都合に、私達まで巻き込むたぁ、いい度胸してるじゃないか、ああ!?」


「……すまないと思っている。その代わり――」


「無事帰還できた時点で報酬をよこしな! あっ、経験点と報酬は三倍にしろよ!!」


「さ……!? それは流石に――」


「飲まないっていうんだったら、私達はこの依頼、降りる!!」

 

 今回のダンジョンアタックは、通常より報酬と経験点は高めに設定している。

 そこで《超越級》以外のメンバーに三倍の報酬を払えと、カルラは言っているのだ。

 正直ギルド側からしたら大赤字になってしまうのだが、《鮮血の牙》に依頼を断られてしまうのは非常に痛い。


「――カルラ」


 リュートがふと、カルラに声を掛ける。

 カルラを止めてくれるのか、とハーレィはリュートに視線を送るが、期待は破られる。


「三倍は甘いだよ。四倍……いや、五倍は貰わねぇとな。でねぇと、オラも降りる」


「ご、五倍!!??」


「あたりめぇだ、こんな阿呆みてぇな依頼、どんな指名依頼でも受けた事なんてねぇ。しかもかんなりギルド側あんたらの都合が混ざってる依頼でねぇか。それをやらせるなら、五倍はあたりめぇだべな」


「おっ、よく言ったねリュート!! 確かに私が甘かったわ。助かったわ、ありがと!」


「いえいえ」


 危険察知能力に非常に長けているリュートが依頼を断るとなったら、それこそ無意味な犠牲者が出てしまう。

 どうやら、彼等の要求を飲むしかなさそうだ。


(……足元を見られてしまったな)


 ハーレィは両手を挙げて降参の意を表した。

 つまり、要求を飲むという事だ。


「ほら、さっさと帰還のスクロールを渡しな!!」


「……これだ」


「はい、確かに。んじゃ、私達はこれから《超越級》以外と打ち合わせをするからね。この事もしっかり伝えるから、約束を違えるんじゃないよ!!」


「……わかってる。しかしすぐに帰ってくるのは止めてくれ。ダンジョンの中もある程度調査し、《超越級》の態度もしっかりと確認してくれ」


「……しゃあない、それ位はやってやるよ」


 そう言って、カルラとリュートは執務室を出ていく。

 クレームは来るだろうなと予想はしていたが、ここまで良いようにやられるとは思っても見なかったのだ。

 ハーレィは椅子にどかりと座り、しばらく放心していた。




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〇帰還のスクロール

 ダンジョンで手に入る巻物で、ダンジョンの入口へ瞬間移動できるという魔法の巻物。

 入手手段は一つで、ダンジョン内で宝箱に入っているか敵が落とすかの二択である。

 ちなみに何故ダンジョンに宝箱があるのか、それは未だに不明である。

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