第57話 リュート、暗躍する
ダンジョンアタック前の打ち合わせが終わった後、リュートは早速動いていた。
まず、オーギュストに暫く授業に出られない旨を伝えたのだ。
理由は、ダンジョンアタックをする為、明確にいつ終わるかが不明瞭だからだ。
「かしこまりました。リュート様のご無事を祈っております」
「ありがとぉ、オーギュストさん」
その後、リュートは頭をフル回転させる。
オーギュストから口酸っぱく言い聞かされていたのは、「情報は武力と同等の武器となる」だ。
何か疑わしい事があったら、納得が行くまで調べ倒せと教えられていたのだ。
そこで早速情報収集に掛かる。
リュートは、正直言って《超越級》冒険者をこれっぽっちも信用出来なかった。
特にリュートに関しては――
(なんっちゅうか、《超越級》だっていう覇気を感じねぇっていうか、実力が伴ってなさそうっちゅうか……)
あくまで感覚的な感想にはなってしまうが、《超越級》冒険者に対してそのような印象を抱いていた。
ならば実際にどうなのかを可能な限り情報を集めようと考えたのだ。
実は以前、オーギュストからお勧めの《情報屋》を紹介されており、今回彼に情報収集の依頼をする事にした。
リュートが調査をしても所詮は素人、正確性もありゃしない。
なら、情報収集のプロに任せようと考えたのだった。
さてこの情報屋、オーギュストから優秀との太鼓判を押されている者だが、素顔を見せず、名乗る名前も恐らく偽名で《デイ》と言う。
「リュートの旦那、ご利用ありがとうございます。して、今回の依頼は?」
「《黄金の道》《栄光の剣》《運命の叛逆者》《伝説の存在》の事を調べてほしいだよ」
「わかりました。期間は?」
「出来れば今日を含めて二日で情報を集めてほしいだ」
「二日……ですか。調査範囲を絞れば可能ですよ」
「……うぅん。なら、人柄、実力、依頼達成率でどぉだ?」
「ふむぅ……それなら、ギリギリいけそうですね。紙にまとめましょうか?」
「お願いするだよ」
「では今回特急料金も含まれますので、二十万ペイを頂く形になりますが、大丈夫でしょうか?」
「問題ねえだよ。これでよろすく」
リュートは二十万ペイが入った袋をデイに渡す。
彼は銀等級になってからより精力的に依頼を受けるようになっており、懐は相当温かくなっていたので、二十万ペイ程度は余裕で払えてしまうのだった。
「――確かに頂戴しました。情報が集まり次第、書類をリュートの旦那が使っている宿屋のおかみに渡しておきましょうか?」
「それで頼むだよ。オラの方からおかみさんには伝えておくから」
「かしこまりました。では、早速行動を開始します」
情報屋のデイは物音を立てずにその場を去った。
元からこの場にいなかったかのような、見事な隠形である。
「……よし、オラは色々準備すっか」
情報収集もリュート自身がやっていたら、きっと手が回らずに準備が疎かになっていただろう。
適材適所という言葉を教えてくれたオーギュストに感謝しつつ、食料や矢等の消耗品を買い込んでいく。
そして情報収集の依頼をした翌日の夕方。
宿屋のおかみに呼び止められた。
「リュート、あんた宛にこれ預かってるよ。分厚くて重いわ」
おかみに手渡されたのは、分厚くて茶色の紙で包装された物。
恐らくデイに依頼した情報の詳細が掛かれた紙なのだろう。
受け取るとずしりと重さを感じる。
自分の部屋に戻り、早速中身を拝見した。
「……すっげぇなぁ。一日でこんなにすげぇ情報集まるんだなぁ」
プロはすげぇと感心しつつ、情報を見る。
リュートはほぼ毎日勉強を頑張っていたので、文章もしっかり読めるようになったし、計算や数字の見方も問題ない。
オーギュストからは――
「数字は嘘を付きません。なので、文字を覚えたら私生活でよく使う計算や数字の見方を徹底的に叩き込みます」
と言われ、宣言通り徹底的に計算等を叩き込まれたのだ。
リュートは既にただの物知らずな田舎者ではなく、一般教養を身に付けた冒険者となっていた。
……訛りはおいおい解決しようと後回しにされているが。
さて、一般教養を身に付けたリュートは、貰った情報をじっくり読む。
そして読み終わった時には、頭を抱えた。
「……こりゃ、もっと信用出来なくなっただよ」
まず四つの《超越級》パーティに共通して言える事。
それは「上昇志向が皆無」という点だった。
《超越級》の依頼は、大抵が高額だ。
金等級が頑張って一ヶ月で稼げる金額を、《超越級》は一度や二度依頼を受けただけで稼げてしまうのだ。
そういう事もあり、今の《超越級》は自身の等級を守る事に専念し、安全に報酬を得られる仕事ばかりを選ぶ傾向が強いという。
《黄金の道》《栄光の剣》《運命の叛逆者》《伝説の存在》の四パーティも、その例に漏れない冒険者だったのだ。
今回のダンジョンアタックは指名依頼なのだが、指名依頼は一応拒否権がある。
しかしこの四パーティは指名依頼を断りすぎている傾向があり、また多くの依頼主から不満が上がっている事から降格の危機が迫っているとか。
本人達は降格の危機はほんの少し感じている程度らしいのだが、大した危機感は感じていないようだ。
もうここだけでも非常に命を預けるに値しない連中なのだが、まだ続く。
次に人柄に関しては、自身のパーティを優先する傾向がある。
別にこれは普通ではないかと思うのだが、危険を察知すると他パーティに擦り付けて危機回避をした事例が数件報告されていた。
当然ギルド側もこれを良しとせず、高額罰金命令を言い渡したそうだ。
四パーティともそのような前科があるので、ギルド側からの評判も悪く、冒険者からも「彼等と組みたくない」という苦情が上がっている。
では何故今回のダンジョンアタックに、評判の悪い四パーティが指名されたのか。
理由は二つ。
一つ目、冗談抜きで人員がおらず、致し方なく。
現在 《超越級》冒険者は、他の重要案件で出払っていた。
丁度空いていたのがこの四パーティだけだった。
ギルド側も正直彼等に依頼したくはなかったのだが、このダンジョンアタックは国から最重要依頼として舞い込んできたので、致し方なく今いる中で最強戦力を指名したのだとか。
二つ目の理由は、ギルド側からの最後通告。
実は事前打ち合わせの翌日に四パーティのリーダーが呼ばれ、ギルドから最後通告をされたようだ。
「これを失敗したら、《超越級》を剥奪して金等級に降格」
と。
これでようやく危機感が生まれ、今更ながら訓練を開始したとか。
ギルド側、冒険者達からも「今更かよ」と内心思われているようだ。
「……いやいや、たった数日で訓練しても意味ねぇべよ」
リュートもそのように感じたが、情報によると「私達、気持ちを入れ替えました」というアピールらしい。
……余計不安だ。
そして依頼者である一般国民からの評判は、良くも悪くもないらしい。
どうやら事務的に依頼をこなすので、良い印象も悪い印象も抱かない。
しかし、《超越級》の依頼の中では安全且つ安価――安価と言っても、金等級までの冒険者からしたら恐ろしい程の高額な報酬だが――な依頼ばかり受けているので、指名依頼もそこまで舞い込んでこないとか。
次に依頼達成率。
こちらは数字で書かれていた。
《黄金の道》、達成率七割弱。
《栄光の剣》、達成率六割強。
《運命の叛逆者》、達成率八割弱。
《伝説の存在》、達成率七割強。
「おい、伝説の存在、名前負けしてっぞ」
思わず突っ込まずにいられなかった。
簡単な依頼を受けているのに、その割には達成率が低すぎるように感じた。
理由も書かれていた。
「えっと、『討伐系は得意だが、護衛系となると九割弱の確率で護衛に失敗、若しくは守り切れずに護衛対象を大怪我させている』と……。こいつら、ちょっとやばすぎねぇか?」
護衛系はギルドからの指名依頼――といっても、人員がおらず仕方なくらしい――で、ほぼしくじる為に本人達も指名依頼をガンガン断っていたのだとか。
「……頭が痛くなるって、こういう事なんだべなぁ」
本気で頭が痛くなってくるような錯覚に陥るリュート。
いざとなったら、こちらも《超越級》を見限る対処をしないといけないかもしれないと、本気で思い始めてきた。
そして最後に実力。
実力に関しては《超越級》の中では平均的との事。
突出した部分もなければ、欠点もない。
ただ、基本やる気がないので、真の実力を垣間見た同業者が少ない為、正確な情報ではない可能性が高いと書かれていた。
つまり、不明瞭で未知数、という事だ。
全てを読み終わった後、デイから貰った情報が書かれた紙束を机に置き、ベッドに倒れ込んだ。
「……今から依頼、断ってもええか?」
ギルドからの評判は悪くなるだろうが、如何せんこの《超越級》四パーティが信用できない。
その件を突き付けて断ろうと思い始めてきた。
そんな時だった。
リュートの宿屋に来客があった。
「おっすリュート、今ちょっと
《鮮血の牙》副リーダーのカルラだった。
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