第52話 田舎者弓使い、ダンジョンアタックに参加する


 冒険者になってから、あっという間に四ヶ月が経過した。

 田舎者丸出しだったリュートも、今や時間もわかるししっかりと勘定計算も出来るようになっていた。

 文字の読み書きも出来るし、基本的な事に関しては教養のある一般人と何ら変わりない。

 ただし、訛りは相変わらずである。

 リュートの講師となっているオーギュスト曰く――


「リュート様の口調はいずれ矯正するとして、今は知識の地盤を固める事が最優先で御座います。まだまだ地盤を固めるには時間が掛かりますので、口調はそのままでいいですよ」


 との事。

 だがおかげで様々な知識が身に付いてきており、気持ち凛々しさが増したような気がする。

 元々努力する事は全く苦ではないリュートは、今も楽しく勉強をしていたのだ。

 その事を《ジャパニーズ》のショウマに話したところ――


「リュート、やっぱりお前変態だよ」


 と呆れられていた。

 失敬なと思っていたが、《竜槍穿りゅうそうせん》のリーダーであるハリーからもおかしいと言われてしまった。

《鮮血の牙》のリーダー、ウォーバキンも同じ意見らしい。

 解せぬ。


 リュートは、《竜槍穿りゅうそうせん》《鮮血の牙》のメンバーと、そして《ジャパニーズ》のリーダーのショウマと変わらず仲良くしていた。

 残念ながらショウマ以外のメンバーは、まだ心の傷から回復していない。

 色々と気遣いが必要らしく、ショウマの表情には明らかに疲労が浮かび上がっていた。

 その為、リュート・ハリー・ウォーバキンはショウマを食事に誘い、よく愚痴を聞いていた。


 仲の良いメンバーと戯れながら、日々の依頼と授業をこなしていたところ。

 冒険者ギルドのギルド長であるハーレィから招集が掛かった。

 どうやら、緊急事態らしい。

 ハーレィの部屋に向かうと、顔なじみがいた。

 ショウマ、ウォーバキン、ハリーだ。

 どうやらこの三人も招集が掛かったようだ。

 他にも顔は知っているが交流が一切ない面子もいた。

 どうやらパーティのリーダーが呼ばれているらしい。

 ハーレィの部屋には、リュート含めて八人集まっていた。


「急な呼びかけに応えてくれてありがとう。皆に緊急の依頼をしてもらいたく、この場に集まってもらった」


 ハーレィはまず皆に一礼してから、詳しい依頼内容を話し始める。


「今回の依頼内容は多人数協力依頼レイド形式での《ダンジョンアタック》だ」


 ダンジョンアタックという言葉を聞いて、リュート以外の面子がざわつく。

 この世界にはダンジョンなるものが存在している。

 ダンジョンはどう見ても人為的に作られたとしか思えない迷宮が、突如この《現界》に現れる。

 ダンジョンの最深部には必ずと言っていい程に《魔界》の超常的存在が居座っている。

 そしてダンジョンは冒険者にとっては夢と財産が詰まった場所で、実力を付けた際には皆ダンジョンへ向かって攻略をしていくのだ。

 ダンジョンには珍しい武器や防具、道具が宝箱に入っており、自身の装備強化にも使えるのだが、何故そのような武具が用意されているかは不明である。

 何か作為的なものを感じざるを得ないが、利用できる物は利用するという精神で、遠慮なくダンジョンの武具を使用している。


 さて、今回の依頼はダンジョンアタックだ。

 この意味合いはいくつかあり、最深部にいる超常的存在の討伐か、ダンジョン内の宝箱の中身をひたすら開け、依頼者に献上するのどちらかだ。


「今回のダンジョンアタックは、最深部にいる超常的存在の討伐だ」


 どうやら、前者のようだった。

 しかし、この超常的存在の討伐はデメリットが存在する。

 主に魔法使いにだが、討伐完了すると、その超常的存在の力を借りる魔法が、未来永劫失われてしまうというものだ。

 その為、討伐対象に選ばれた超常的存在は、我々人間の害にしかならない存在なのだろうと予想できた。

 結果、この予想は大当たりだ。


「これは王国自らの緊急依頼で、討伐対象は、《邪悪なる遊戯者 デ・ル=フィング》だ」


《邪悪なる遊戯者 デ・ル=フィング》の名がハーレィの口から発せられ、招集した冒険者達は動揺を隠せない。

 リュートに関しても、直接的ではないがほんの少し、思う所がある超常的存在である。


「元々、《邪悪なる遊戯者》は国から要討伐対象だったが、今まで彼の者がどのダンジョンに潜んでいるのかが全く不明だった。しかし、最近になってようやく見つかったのだ」


ハーレィは王国の地図を机に開く。


「場所は王都から馬車で二日掛かる距離にある《ガーレシア鉱山》内部だ。ダンジョンに入った瞬間、《邪悪なる遊戯者》の声が聞こえたのだそうだ」


「つまり、《邪悪なる遊戯者》の根城であるのは間違いないって事かい?」


 リュートが話した事がない冒険者が、手を挙げて再度ハーレィに確認をする。


「ああ、間違いないだろう。国にも報告が行き、我々ギルドに依頼が入ったのだ。報酬は十分にあるぞ。今回は十二分に力があるであろう冒険者諸君に対し、私の方から指名依頼をさせていただいた」


 リュートは冒険者全員の首にぶら下がっているタグを見る。

 ショウマは銅等級だが、最近ウォーバキンは銀等級に昇格した。

 ハリーも金等級で《ステイタス》持ち。

 他の冒険者も金等級や、あまりお目に掛からない色のタグをしている冒険者が多くいた。

 恐らく《超越級》の冒険者なのだろう。


「今回のダンジョンアタックは、正直言って《超越級》冒険者で対応してもらいたかったのだが、相手が《邪悪なる遊戯者》というのもあり、《超越級》以外でも相当な実力を持つ冒険者達に声を掛けさせてもらった」


(本当は、《超越級》の皆が出払っていて、集められなかったが正しいんだがな)


 こうして、銅等級パーティ一組、銀等級パーティ一組とソロ冒険者、金等級パーティ一組、《超越級》パーティ四組という面子で、大型多人数協力依頼レイドメンバーが結成されたのだった。

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