第32話 悪意の集落、殲滅戦 其の一
翌朝、地平線からやっと太陽の姿が見えだし、空が日の光によって明るくなり始めた頃。
ゴブリンの
銀等級で今回の依頼の指揮役を務める《
銅等級で、非常に勢いのある《鮮血の牙》。
同じく銅等級で、流れ者で結成された《ジャパニーズ》。
そして最後に、ソロ且つ弓一本で銅等級まで上がった異質の存在であるリュート。
彼等は暗い内に王都を出立していて、明るくなり始めた頃にはゴブリンの
ゴブリンは人間と同じく、夜と日が昇る時間が一番活発的になる。
そういった生活リズムの為、一番ゴブリンの動きが鈍いのがこの早朝となる。
ゴブリンの睡眠時間は非常に短く、日が昇り始めたタイミングから約
ちょうど今が、彼等の動きが非常に鈍く、不意打ちを仕掛けられるタイミングなのだ。
さて、《
《
その結果次第で動き方が変わる為、こうして息をひそめて合図を待っている。
すると、ハリーの近くの木に矢がとすりと刺さる。
異常な弓の腕前を持つリュートを利用して、全員が来ても問題なさそうなら矢を放って合図をして欲しいと頼んでおいたのだ。
(確かに合図は頼んだけど、何で俺の頭すれすれを射るんだよ……)
放たれた矢は、後少しずれたらハリーの頬を掠めるというギリギリの所を狙っていた。
内心焦りつつもすぐに冷静さを取り戻し、他のメンバーに手で合図を送る。
そして身を屈めたままゆっくりと前進をし始め、リュートとエリーがいる場所に辿り着いた。
そこはちょうど
「エリーとリュート、報告してくれ」
声を潜めてエリーとリュートに尋ねるハリー。
「アタシが説明するよ。リュート曰く、徘徊しているゴブリンの数はおよそ十。だけど、この時間っていうのもあるのか、動きは鈍くなっているわね」
「成程な。というか、この
「ああ。多分だけど、廃村を
「恐らく前者だな。ここに村があったなんて、俺は聞いた事がない」
「……だけど、ちょっと問題があるよ。ほら、あそこを見て」
エリーは、流れ者がもたらしたとされる双眼鏡をハリーに渡し、指差した方向を見るように促す。
ハリーが彼女の指示に従って双眼鏡を覗いてみると、中年男性二人が宙吊りにされ、全身に矢や槍が突き刺されて絶命している姿が目に飛び込んできた。
「ちっ、人攫いをしていやがるか……。こりゃ予想以上の規模の
「かもね。で、どうする、ハリー?」
「そうだな。リュート」
「なんだべ?」
「今徘徊しているゴブリンを処理できるか? 出来れば物音を立てず」
「……まぁ、出来るだよ」
「悪いが、やってくれ」
ハリーがリュートに指示を送ると、リュートは弓を構える。
構えた瞬間、狙いを付ける動作を見せる事無く矢を放つ。
あまりの速さに驚愕するリュート以外のメンバーだが、
「一つ」
とリュートがぼそりと呟いた後に、またすぐに矢を放つ。
「二つ」
聞こえるのは頭を寸分の狂いもなく射貫かれて絶命した時に倒れこんだ音のみ。
近くのゴブリンがその物音に気が付いた瞬間、リュートの矢が頭を射貫き、絶命。
「三つ」
リュートは淡々と、死んだ事を確認せずに次の標的に矢を射る。
ぼそりとキルカウントしている頃には次の矢が放たれていた。
ハリーを含むリュート以外の面々は必死になって目で追っているが、それ以上にリュートの処理速度が速すぎて追い付いていない。
リュートの表情は無。
そして、何より殺気すら出していない。
意識して見ないと、リュートがそこにいるとわからない、謎の存在感の薄さがまさに異質だった。
そして――
「十。最後だべ」
リュートがそう呟いたのは、ハリーが指示を出して一分経った頃だった。
あまりの早業に、ハリーは呆気に取られて言葉が出ない。
彼はそこそこ長く冒険者をやっているが、リュートのような異質な存在は見た事がない。
弓の精度もさる事ながら、この何の感情も起こさずに射殺せるリュートに、若干の恐怖すら感じてしまっていた。
「……ハリー?」
リュートに呼ばれて、はっと我に返る。
そうだ、今はこんな事で時間を食っている暇はない。
リュートは最大の仕事をしてくれたのだ、無駄な時間を消費してこのチャンスを台無しにする訳にはいかない。
「すまん、考え事をしていた。では打ち合わせ通りに行く。リュートとタツオミはここで待機。他の皆は下の家屋に火を付けろ。可能な限り、手早く火を付けて行ってくれ。打ち合わせの時に言ったが、人間の生存者がいると思うな、ゴブリンは略奪する上で容赦なく殺すからな」
ハリーの言葉に面々は頷く。
そして《ジャパニーズ》のメンバー達はタツオミの所に集まり、服のポケットから板状の何かを取り出す。
「皆、スマホを出して電源を入れてくれ」
「わかった」
彼らはスマホと呼ばれる板状の物体を取り出し、スイッチを押すと明るい光を放つ。
そして更に耳に小さい何かを詰める。
「行くよ。《通信会話》、発動」
すると、ただでさえ光を放つスマホに淡い光が宿る。
全員がスマホをポケットに閉まった後、タツオミは続けて言葉を放つ。
「どう、通信は出来てる?」
「「「問題ないよ」」」
「うん、スマホの充電も問題なさそうだし、bluetoothイヤホンも問題ないようだね。僕はここから指示を出すから、三人とも対処よろしく」
「ああ、頼りにしてるぜ、達臣」
《ジャパニーズ》以外の面々は、彼らが何をしているのかさっぱりわからなかったが、きっとユニークスキルの準備が終わったのだろうと察した。
「リュートはここから外に出てきたゴブリンを排除すると共に、メンバーが危険そうだったら援護射撃をして欲しい。判断はお前に任せる」
「わかっただよ」
「よし、ならば行くぞ。作戦開始」
殲滅戦は、静かに始まった。
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