第31話 悪意の集落


「さて、《竜槍穿りゅうそうせん》以外の皆は多人数協力依頼レイドは初めてだと思う。その為、ゴブリンの集落コロニーについて説明させてもらう」


「こ、コロニー……。この世界の人達は宇宙に行けるのか?」


 ハリーが集落コロニーの説明をしようとした時、ショウマが突然訳の分からない事を言い始める。


「……うちゅう――というものが何かわからんが、何を想像している、ショウマ?」


「あ~~、いや、失礼。俺達の世界だとコロニーっていうのは空の向こう側に浮かんでいる巨大な筒で、大勢の人達が住んでいる(っていうアニメの設定だけど)」


「なっ、空の向こう!? ――非常に興味深い話だが、ショウマが言っている物は全く違う。説明を続けていいか?」


「……悪い、話をへしょった」


 ハリーは咳払いして、説明を続ける。


集落コロニーとは、ゴブリン達が統率者を中心として形成した村のようなものだ。集落コロニーの定義は最低でも百匹以上の群れ。つまり、今回ゴブリンを百以上相手にする事になる」


「つまり、俺様達は集落コロニーごとゴブリン達を滅ぼせばいいんだな?」


「その通りだウォーバキン。集落コロニーが形成されているという事は、ゴブリンキングが統率している可能性が高い事から、銅等級でも優秀な君達と、もう少しで金等級間近な俺達が選出されたという訳だ」


 今回の多人数協力依頼レイドは、特に優秀な人材をギルド側が選んで選出をしている。

 それ程までに、この集落コロニーは早急に潰しにかかりたいというギルド側の思惑がある。

 本来ならもっと増員したかったのだが、多人数協力依頼レイドに集中しすぎて他の依頼を蔑ろにしてしまうと、依頼者からクレームが来て逆にギルド側が依頼者に対して違約料金を支払わなくてはならない。

 その為、銅等級でも突出している二パーティと単独無双を繰り広げているリュート、そして金等級間近の《竜槍穿》が選ばれた。他の冒険者は残りの依頼を片付けてもらうという形となった。


「この多人数協力依頼レイドの難易度は、B+となっている」


「B+……。確か、銀等級複数パーティ推奨の難易度。他の銀等級は呼ばなかったのか?」


 寡黙なガイが珍しく口を開く。

 ハリーは軽くため息をついてから語る。


「残念ながら、俺達以外の銀等級は別の依頼で全員出払っている。だから銀等級相当の実力がある君達が選ばれたんだ」


「うっへぇ、タイミング悪いですねぇ」


《鮮血の牙》の副長であるカルラが、舌を出して苦しそうな演技をしつつ言葉を漏らす。


「でも、そのおかげで僕達はこの依頼に参加出来て、経験点を沢山貰える。悪い話じゃないね」


 タツオミが腕を組んで頷きながら言う。

 そしてリョウコが続く。


「それに、他の銀等級パーティを待っている時間もないわね」


 リョウコの言葉に大きく頷くハリー。


「その通りだ。今回は緊急性が非常に高い多人数協力依頼レイドだ。これ以上規模を増やさないように、明日の明朝から行動を開始する。集落コロニーが発見された場所は、ここだ」


 ハリーはテーブルに地図を広げて、とんと指差す。

 王都ライディバッハから馬車で二時間程の距離にある《メディサの森》の中央部に存在する洞窟を中心に集落コロニーを形成しているとの事。


「馬車は既にギルドが人数分手配済みだ。俺達はそれに乗って目標地点まで移動。到着したらばらけずに集団行動をしつつ、殲滅を開始する。先頭は《広範囲気配察知》を持っているリョウコとうちの斥候のエリー。その後ろを我々が追従する形でまずは行こうと思っている」


「私が前って事はわかったわ。でも、その後の作戦は?」


 リョウコが手を挙げて質問をする。


「後はその場の状況次第だが、真正面から挑むのではなく、ばれないように隠密で移動していき、ある程度数を減らしてから突撃していこうと思っている」


「わかったわ」


「そこで序盤は、弓の達人と名高いリュート、君に頑張ってもらう事になるだろう」


「オラか? 構わねぇだよ。最初の内はばれねぇように仕留めればいいだか?」


「ああ、そうだ。可能な限りバレずに駆除してもらい、そこからは総力戦だ」


「んだ。ゴブリンの種類とかわかってるだか?」


「一応把握出来ているのは、ゴブリンソルジャーとゴブリンライダー。そしてゴブリンチャンピオンがいるようだ」


「チャンピオン? 初めて聞く名前だぁ」


「チャンピオンは、俺達で言う所の隊長みたいなもんで、体長も二メートルミューラを超えた巨人だ。戦闘力はホブゴブリンの倍だと思ってくれ」


「ふ~ん。まぁいい的だぎゃな」


「的……。とにかく、大型に進化したゴブリンもいるので、こちらの消耗を少なくしたい。だから、リュートには音を立てずに駆除して欲しい」


「わかっただよ」


「後は全員で突撃。しかしお互いの背中をカバー出来るように離れすぎないように陣取って殲滅をしていく形となる。現場でその都度臨機応変に対応する必要が出てくるが皆、相当大変な依頼だが、誰一人欠ける事無く達成しよう!」


『おう!』


 こうして、打ち合わせは終了した。

 しかし、解散した直後、《竜槍穿りゅうそうせん》のメンバーはハリーに詰め寄る。

 特にニーナは眉間に皺を寄せている。


「ハリー、どういうつもりですの? 集落コロニーあの事・・・を言わないなんて!」


「そうだよ、ハリー! 心構えは必要だとアタシも思うんだけど!」


「僕もそう思うな。でも、敢えて言わなかったんでしょ?」


 ニーナ、エリー、ヨシュアの順にハリーに対して言葉を放つ。

 ヨシュアの言った通り、ハリーは敢えて言わなかった事がある。


「なら、このタイミングであの事・・・を言ったとしよう、そこでやっぱり辞めるなんて言われたらどうする? 一つパーティが減るだけでも、この多人数協力依頼レイドの難易度は跳ね上がる」


「それは……そうですけれども」


「……皆のフォローは、俺が中心に何とかやる。だから、気に入らないだろうが依頼達成の為だ、どうか目を瞑ってくれ」


 ハリーからそう言われてしまったら、もう何も言い返せなかった。

 ゴブリンの集落コロニーには、とある悪意に出くわす確率が非常に高い。

 これが多くの冒険者にトラウマを残し、引退の原因になる事もある、それ程の悪意。

 上位の冒険者を目指すなら避けては通れないこの悪意に、どうか心折らないでほしいと内心祈りつつ、罪悪感を押し殺して席を立つハリーだった。




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