第22話 田舎者弓使い、夢を諦めかける
ザナラーンの街での騒動の後、リュートは皆と別れて王都へと歩いていた。
しかしその足取りは非常に重く、今のペースでは間違いなく王国兵士の募集締切に間に合わない程であった。
本当は早く行かないといけないのはわかっている。
だが、どうしてもあの騒動が頭から離れずにいた。
リュートにはどのように考えても、やはり理解出来ない事だった。
まず、街で助けた女性の事。
村にいた頃は、全員が生きる事が最優先で、男は狩りの腕を愚直に磨き、女は良い男に選んでもらって支えられるよう、美容と家事習得に全力を注いでいた。
その為、自ら死を望む女性の気持ちがこれ微塵も理解出来なかった。
そして結果、自爆をして盗賊や王国兵士を相当数道連れにしたのだ。
命を粗末にするどころか、助けに来た王国兵士すら犠牲にしてでも盗賊を滅ぼしたあの女性に対して「何故その執着を生きる事に使えなかったのか」と思ってしまうのだ。
そして一番リュートの歩みを重くしている事があった。
それは、皆と別れた際に、ガンツから言われた一言だ。
「リュート、王都を目指すならこれだけは言わせてくれ。お前が村でどのような生活をしていたかはわからないけど、お前が思っている程都会というのは煌びやかな世界じゃない。むしろ、人間の黒い部分が渦巻いている世界だ」
人間の黒い部分?
リュートはあまりよく理解出来ていないが、ガンツは構わず続ける。
「自分の利益の為に平気で他人を蹴落とす者、何かしらの理由で絶望して自ら死ぬ者、自分の快楽の為に人を殺める者。本当に様々な《もの》を抱えて生活をしている。都会になればなるほど、そういった人間の黒い一面を沢山見る事になるだろう。そしてそれに嫌気が差し、実家に帰る者も多いんだ。お前はそれでも、本当に王都を目指すのか?」
リュートは、何も言えなかった。
これから先、今回みたいな事に遭遇する可能性が高くなるのだろう。
自分自身、それに耐えられるのだろうか?
今でさえ自身との考え方の違いでショックを受けているのに、まだその先もあると考えると、リュートは何も言う事が出来なかった。
ガンツはそんな落ち込んでいるリュートを見て、小さな笑みを浮かべる。
「……しっかりと考えてみるといい。理想と現実は大きく違うものだ。もしそれでも夢を叶えたいのであれば、王都で会って一緒に飯でも食おう」
そう言って、リュートの肩に手を優しく添えた後、王都方面に向かって歩き出していく。
その後に続いてリック、カズネも続いていく。
リュートに言葉はかけない。
だが、二人共無言でリュートにエールを送っていた。
「絶対に立ち直れ。そして王都で再会しよう」
と。
王国兵士達も何とか立ち上がり、王都に向けて歩き出してザナラーンを後にした。
皆、あんな事があったのに立ち止まらず、歩き出せたのだ。
(都会の人間は、こんな事慣れっこだべか?)
違う、慣れているのではない。
辛い状況があったとしても、無理矢理に気持ちを奮い立たせる術を知っているだけだ。
だが、リュートにはその方法がわからなかった。
そしてとりあえず、王都に向けて歩く事にした。
リュートは村にいた時代、比較的に何でも出来た。
弓も自然と効率よく練習をし、身体も成長した頃には村一番の狩人になる事が出来た。
故に、リュートは挫折を経験した覚えが一切なかったのだ。
今まさに、生まれて初めて自分の進むべき道に対して、自信を喪失していた。
この先もやっていけるのだろうか?
弓の実力だけじゃだめなのだろうか?
そんなの、誰も教えてくれなかった。
「オラ、どうしたらいいんだべか?」
リュートは頭が混乱してしまい、まだ日が明るいのに足を止め、適当な薪を集めて野宿の準備を始める。
もう、何が何だかわからなくなってしまい、歩きたくなくなってしまったのだ。
空腹を満たしては考えに耽るが、答えは出ずに寝る。
そして起きて朝食を取ってまた暫く考えて、余計に混乱してまた歩き始める。
歩きながらもぼんやりと考えるが、答えは出ない。
気が付いたら日が落ちていたので、急いで野宿の準備をする。
適当に食事を取ってまた考え始めるが、結局は考えがまとまらず。
こんな調子を三日間繰り返していたが、未だに納得出来る答えは出なかった。
それでもゆっくりと王都への歩みは止めなかった。
ただ、本能的に「とりあえず行動してみよう」と動いていたのだった。
しかし、時間とは無常である。
今から走っても、馬車に乗ったとしても、今年度の王国兵士募集締切には間に合うのは不可能だった。
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