第21話 逃げろ!
リュートがアッシュを仕留めた後、何やら郊外が異常なほどに騒がしい。
剣戟や争っている騒がしさではない。
何やら混乱しているような、そんな騒がしさだ。
リュートはその音源へ視線をやると、王国兵士達がこちらへ必死になって向かってくるのがわかった。
まるで何かから一心不乱に逃げているようだった。
(盗賊達に負けただか? ……王国兵士も大した事ねぇだよ)
盗賊達に負けて逃げてきていると思ったリュートだが、一拍置いて冷静に考えてみると、盗賊の方が人数は不利だった筈。
そんな状態で王国兵士が敗走するとは考えにくい。
(んじゃ、何から逃げてるんだべ?)
更に目を凝らして集団を見てみると、集団の先頭にはガンツ達がいた。
ガンツは盾などの重たい装備を捨てて、体力のないカズネを肩に担いだ状態で必死に走っている。
リックは元々身軽なので、先頭集団の中ではトップでこちらに向かってきていた。
事情が全く分からないリュートは、呑気に手を振る。
「おーい、ガンツ達ぃ! 何があっただか?」
するとリックが声を張り上げた。
「リュート、急いで逃げろぉ!! 出来るだけ遠くに、遠くに逃げるんだぁぁぁぁっ!!」
「え!? なしてそんな事せなあかん!?」
「いいから、説明してる暇がない!! 街を出る位に全速力で走って!!」
理由はわからないが、走らないといけないらしい。
リュートが今いる所は、ザナラーンの街の王都側出口だった。
反対側の出口は直線距離で約五百
とにかく皆必死に逃げている所を見ると、命の危険に関わる事なのだろう。
リュートは納得していないが、リックの忠告を守って全速力で反対側出口へ駆けていく。
王国兵士達も鎧や装備を外して少しでも身軽にし、必死になって走っている。
更に後ろに、まるで王国兵士達を追いかけるように盗賊も走ってきているが、その表情は必死だった。
訳が分からないまま走り続け、リュートが街の中心部まで来た、その瞬間だった。
自分達の背後から強烈な爆発音と共に、体が浮く程の爆風が襲ってきた。
そして、リュートの体は爆風によって吹き飛ばされた。
ガンツ達や王国兵士達も同様に吹き飛ばされたようで、爆音の中に小さな悲鳴が聞こえた。
リュートも不意に吹き飛ばされてしまい、体勢を正す事が出来ずにきりもみ状態となってしまった。
とにかく上手く着地か受け身を取らなくてはいけない。
リュートは空中で姿勢を正そうとするが、爆風が強すぎて上手く行かない。
ひたすら空中でもがいていたら、運よく片足が地面に触れたので、そのまま踏ん張ってみる。
だが、勢いは多少殺せたものの、爆風の威力は凄まじい。
こらえる事が出来ずに転倒し、地面を転がってしまう。
しかしそれも運がよかった。
頭上を外壁やら家の破片が高速で通過するのが見えた。
もう少し空中で飛ばされたままなら、体の何処かにその破片が当たっていたのかもしれない。
吹き飛ばされた地点は、ちょうど街の反対側出口の真ん前。
リュートは頭を上げずにそのまま這って街を出た。
何とか街を出ると、そこにはガンツ達と王国兵士達が息を切らしてへたり込んでいた。
リュートはガンツに声をかける。
「ガンツ、大丈夫だか!?」
「リュート! よかった、間に合ったか」
「何が起きただよ? 突然爆発したからびっくりしたべぇ……」
「……ああ、住人と思われる女が、《
「……《
「ああ、自分の命を引き換えに大爆発を起こす魔法さ。威力は使用者の魔力に依存していてな、ほら、後ろを見てみろ」
リュートは振り返ると、なんとザナラーンの街の半分近くが消滅し、クレーターとなっていた。
残っていた建物も爆風によって全壊、もしくは半壊となっていて、完全に人が住めるようなものではなくなっていた。
人一人が、こんな爆発を起こせるのか。
魔法の破壊力にリュートは戦慄した。
そして周囲を確認すると、あんなにいた王国兵士達の数が少ない。
どうやら《
いや、形を残している者もいた。
が、恐らく飛んできた破片が頭に直撃したのだろう、首から上がない死体が転がっていた。
当然生きている者もいたが、木や石の破片が上半身全体に刺さっており、痛みに悶えていたり、片足が引きちぎられたかのように失っている者もいた。
五体満足な者も細かい怪我をしていたり、関節が曲がってはいけない方向を向いていたり、大なり小なりの怪我を負っている。
ガンツ達はかすり傷程度で済んだようだった。
「畜生が、このタイミングで最悪な呪いかよ……!」
「しかも街の生き残りが魔法使いだったとか……」
「俺、未だに忘れられねぇよ。別嬪なのに狂ったように笑いながら、《
ふと耳に入ってきた会話。
その内容からして、あの助けた少女だろう。
つまり、命が助かったのに魔法で自爆して死んだんだ。
盗賊どころか助けに来た王国兵士も巻き込んで。
(なして、なして助かった命を簡単に捨てられるだよ!!)
リュートにとって、生きる事こそ至上だ。
死んでしまったら全てが終わり、生きていれば失敗しても反省して次に活かす事が出来る。
そんな信条で今まで必死に生きてきたリュートにとって、自爆だの自殺だのをする少女の心境が全くわからなかった。
故に混乱したし、せっかく助けたのに死んでしまった事に対する怒りで気が狂いそうだった。
「……ぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああっ!!!」
理由はないが、叫びたかった。
何故笑いながら死ねる、何故容易に生きる事を捨てられる。
何故、何故!?
リュートは声を枯らしながら叫び、疲れて叫び終わると俯いて黙り込んでしまったのだった。
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〇名も無き村の掟
・男は狩りを行うべし
・女は狩りをしに行く男を支えるべし
・女でも腕に自信があるなら狩りに参加してもよいが、死を覚悟せよ
・狩りの成果を出せない者は、村の住民と認めず
・狩った獲物は村の共有財産。均等に村人に配るものとする
・年に一度、狩りの大会を行う。優勝者はどんな時でも優先的に獲物を配る
・獲物を横取りした者、もしくは村の貯蓄庫から獲物を盗んだ者は、獲物の生餌の刑に処す
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