第20話 田舎者弓使い、《ステイタス》を知る


 ガンツパーティと生き残った王国兵士が必死に後退している頃、リュートとアッシュは互いに武器を構えて睨み合っていた。

 リュートはアッシュが動いた瞬間にいつでも射貫けるような体制にしていて、アッシュも同様に高速移動をする準備が出来ていた。

 が、アッシュは攻めあぐねていた。


(なんだこいつ、動いた瞬間射貫かれそうな予感がビンビンにしやがる……)


 そう、アッシュが感じているのは、リュートから発せられる嫌な予感。

 高速移動をすれば弓なんぞあたらないはずなのだが、何故かこの男だと頭を射られそうな気がしてならなかった。


(まさか、こんな田舎者も《ステイタス》を掛けていやがるのか? だが、《ステイタス》の気配が感じられねぇ)


《ステイタス》を持つ人間は、相手が《ステイタス》を施しているかが感覚的にわかる。しかし、目の前の弓使いは《ステイタス》を感じる事が出来ない。

《ステイタス》を施すには、五十万ペイという高額な金が必要となる為、田舎者であるリュートが《ステイタス》を施したとは信じられない。

 だが、そうでないとこの悪い予感の説明がつかない。

 

(そうだ、こいつは《ステイタス》持ちだ。じゃねぇと、俺様が街に入った時に正確に足を射る事なんて出来やしねぇ!! きっと俺様でも感じ取る事が出来ない程 《ステイタス》の気配が小さいに違いない!!)


 なら、こいつは油断出来ない。

 なら少しでも情報を引き出そうとして、リュートに話しかけた。


「てめぇ、田舎者の癖して《ステイタス》持ちだったとはなぁ。その腕前、恐らく階位レベルは二十前後ってところか?」


「……ん? すていたす、れべる? 何だそりゃ?」


「……は?」


「んなもん、オラは知らね。都会の言葉は色々あって覚えるのが大変だべ」


「……」


《ステイタス》も階位レベルも知らない?

 となると、あの芸当は全部こいつの素の能力という事なのか?

 いや、到底信じる事は出来ない。

 常人では目で追う事すら出来ない速度で走っていたのに、目の前の男は足元に矢を放った。

 そんなの《ステイタス》持ちにしか出来ない芸当な筈だ。


(……この優男自身の才能? ……そんなもん、認められねぇ!!)


 アッシュの人生は迫害されるばかりのものだった。

 そして縁があって《無限の渇望者の使徒》に入り、あの手この手を使ってのし上がり、ついには幹部となって《ステイタス》を得た。

 迫害され、奪われてばかりの人生だったのに、ついにアッシュは奪う側になれたのだ。

 だが、目の前には女性受けしそうな容姿を持っていて、《ステイタス》なしでアッシュの速度についてこれる才能あふれた男が一人。


(……天は二物を与えるってか? ふっっっっっざけんじゃねぇぞ、おいっ!!)


 そんな存在は許せない。

 アッシュは自慢の脚に力を入れる。

 どんな異常な目を持っていたとしても絶対に視認できない、限界の超速度で駆け抜けて、リュートの首を掻っ切る事にした。

 リュートも目の前の男の気配が変わった事を察知した。

 異様に脚に力が入っているのを見逃さなかった。


(……脚にりき入れてるんだべか?)


 そこでふと、とある獲物を思い出す。

 それは《ソニック・ラビット》という、脚に力を入れる事で神速とも呼べる速さで相手との距離を詰め、そして豪脚で蹴りを放つ。

 この蹴りは鉄製の鎧程度ならば陥没どころか砕いてしまい、運が良ければ内臓破裂、普通なら脚が突き刺さる威力を持っている。


(つまり、こいつは《ソニック・ラビット》と同じことしようとしてるんだか?)


 頭の中で《ソニック・ラビット》の事を思い出しながら、


(んなら、楽勝だぎゃ)


 リュートは一安心した。

 だが、アッシュは気が付いていない。

 アッシュは自分の勝利を疑っていなかったのだ。

 自慢の脚、自慢の速度は今までもどんな《ステイタス》持ちをも瞬殺してきたのだ。

 こんな田舎者なんて、一瞬で首を斬れる筈。

 アッシュは殺気を放ち、力を溜めていた脚で勢いよく地面を蹴った。

 蹴った地面は陥没し、その瞬間アッシュの姿は消えた。

 いや、消えたのではない。

 目視出来ない程の速度に達していた。


 そして、リュートの横を通り過ぎた時。


 アッシュは盛大に地面に転がっていた。

 まるで喜劇を見ているかのような光景だったが、アッシュの額には鉄の矢が刺さっていた。

 アッシュは、地面を蹴った瞬間に射貫かれ、リュートの横を通り過ぎた時は絶命していたのだ。


「ふぅ、こいつ《ソニック・ラビット》よりはええぞ。びっくりしたけんど、まぁ楽勝だったわ」


 リュートが行った対処方法は至ってシンプル。

 殺気を放っているアッシュからして、一直線に自分に向かってくる事は明白。

 持っているナイフを使って何かしら攻撃を仕掛けてくると予測したリュートは、アッシュが地面を蹴った瞬間に得意の速射を用いて矢を放っていた。

 アッシュが走ってくるだろうコースに、まるで矢を据え置くような形で。

 アッシュもこの矢に気が付いていたのだが、ここまで速度が乗ってしまうと急な方向転換は不可能だった。

 結果、リュートが放った矢は吸い込まれるかのようにアッシュの額に直撃し、後頭部まで貫通。アッシュは一瞬の痛みを感じてそのまま死に至った。

 これが《ソニック・ラビット》に対するリュートなりの対処法だった。

 どんなに目がいいリュートでも速度が速すぎる獲物を視認するのは出来ない。

 だが、高速移動をする前の全身の予備動作や殺気で、相手がどのように動くかを推測する事は可能だった。

 しかし常人で出来る対処法ではなく、長年弓一本で狩人をしてきたリュートだからこそ成しえる技だった。


 そして、世界は後に知る事になる。


《ステイタス》を持っていない人間が、たった一射で《ステイタス》持ちに打ち勝った初めての人間がリュートである事を。

 そして決して《ステイタス》持ちと一般人の間に、絶対的な壁は存在しないという事を。



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《ステイタス》

 超常的存在の力を借りずに人間が自力で放てる魔法は、無属性魔法である。

 大半が攻撃に使えないものばかりなのだが、とある高名な魔法使いが生涯をかけて完成させた《対・超常的存在用決戦魔法》が《ステイタス》である。

 これは生物が死ぬ際に発する《精魂》と呼ばれる不可視の物質を体内に取り込む事でそれを経験値とし、階位レベルという形で段階的に肉体を超人へと改造していく魔法。

 一気に肉体を強化すると、副作用として筋組織が崩壊するというものが存在していたので、段階的に肉体を改造する事で副作用をなくす事に成功したのだ。

 何故改造と表現しているかというと、《ステイタス》を施された瞬間に常人以上の力を発揮できるように脳や内臓を含めた全身を魔力によって作り変えている為である。

 また、《ステイタス》によって階位レベルを上げていくと《スキル》を得る事もある。

《ステイタス》が使える魔法使いは世界で十人前後しかおらず、魔力的に一日三回しか放てない為、予約必須で費用も超高額。その為世の魔法使いは《ステイタス》習得を目指しているが、習得できる者はかなり少ない。


《スキル》

 階位レベルを上げていく時に、どのような戦闘をしたかによって特殊な技能を授かる事がある。それが《スキル》である。

《ステイタス》の思わぬ副次効果なのだが、戦闘時にどのような行動をしたかが《ステイタス》に反映・施した魔力が反応を起こし、その行動をさらに補助するような《スキル》を与えるのだ。

 アッシュは高速戦闘を得意としていたので、実は《神速(中)》というスキルを得ていた。

 

 尚、《流れ人》は確実に生まれた時、もしくはこの世界にやってきた瞬間に《ステイタス》と聞いた事がない《スキル》を得ており、それも疎まれている要因の一つとなっている。



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