第16話 田舎者、町の生き残りを助ける……が
リュートは怒りを抑えて、音を立てないように移動していた。
全身で人の気配を感じながら、姿を隠しつつ町を移動しては建物に入っていく。
しかし、建物内で見つかるのは生存者ではなく、惨殺死体のみ。しかも老若男女問わずだ。
何とも惨たらしい事をする連中だ、とリュートは心の中で思っていた。
そしてふと、村長の話を思い出した。
「ええか、リュートよ。世の中にゃ《外道》という種族がおる」
「げどう?」
「んだ。外道は人間の姿をしてるが、人間でも獣でも魔物でも
「それ以下……オラ、よくわかんねぇ」
「ふむ……わし達は協力し合っていかねえと飯食いっぱぐれるっぺ?」
「んだ。皆で狩りしなきゃ腹たらふく飯食えねぇだ」
「だが外道は、自分が良ければ何してもええって考えてる奴での。他人を使い捨てて得するとんでもねぇ種族だ」
「……密猟者みてぇなもんか?」
「密猟者よりもっと頭おかしい奴等だよ。もし、そんな奴等と出会ったらな――」
遠慮なく殺せ。
村長はそう言ったのだ。
だからリュートは、この町にいる盗賊を外道と判断し、見かけ次第殺す事にした。
ザナラーン町の惨状を見て、「確かに外道は生きてちゃいけねぇ生き物だな」と理解したのだった。
とある建物に入った時、数人の男の声が聞こえた。
耳を澄ませてみると、「ああ、締まる」だの「具合がいい」と言った、意味不明な事を話している。
どうやら二階にいるようで、リズミカルに天井から軋む音が聞こえてくる。
リュートは音を立てずにゆっくりと階段を登っていく。
ゆっくりと頭を出して様子を伺うと、そこにはまた別の地獄のような光景が飛び込んできた。
男の汚らしい尻が邪魔でよくわからないが、恐らく女性を犯している所だろうと、性知識が若干足りないリュートでも把握出来た。
他の男三名がその様子を見て下種な笑いを浮かべている。
女性は生きているのかどうかわからない、何も話さないし反応すら見せない。
だが、リュートは迷わなかった。この外道四匹は速攻で狩る、と。
リュートは矢筒から鉄の矢を取りだし、弓を射る。
女性を取り囲んでいる四人の内、二人がちょうど弓の軌道上に並んでくれていたので、二人の頭を同時に射貫く事に成功した。
突然の事に固まる残り二人の外道。
リュートは間髪入れずに素早く二射目を射る。
次は木の矢で、外道のこめかみを貫き一撃で仕留めた。
そして最後にこんな状況でもまだ繋がった状態のままの最後の外道を、木の矢で後頭部から貫いて殺した。
この間たった三秒程だった。
リュートは全員仕留め終わった事を確認し、急いで女性の元へ駆け付ける。
だが、女性の状況は、リュートが想像している以上に最悪なものだった。
結論から言うと、女性は生きていた。歳はリュートと同じ位だろう。全裸で体中に外道達の体液まみれになっていた。
そして生きているのだが、瞳に一切の生気はない。しかし視線はずっと一定の方向を向いている。
リュートも彼女の視線を追いかけると、そこには中年の男女の生首が置かれていた。
恐らく彼女の両親なのだろうと推測出来た。
大切な両親の死体を視界に入れながら犯す、まさに外道の所業だった。
あまりにも惨い光景に、呼吸する事も忘れて固まってしまったリュートだったが、何とか立て直して女性に声をかけた。
「おい、
リュートが女性の方を持って揺さぶる。
呼吸は確かにしているのだが、反応は一切しない。
リュートは諦めずに声をかける。
「もう
「たす……かった……?」
「そうだべ、おめぇは助かったんだ、よく頑張ったな!!」
「……」
女性は自分が助かった事を把握した後、口角を釣り上げた。
「なんで、私を、助けた……の?」
「え?」
「なんで私を助けたのよぉぉぉぉっ!!」
目から涙を大量に流しながら、リュートに激しい憎悪を向ける女性。
ただ、リュートは助けただけだ、なのに何故女性のおぞましい感情をぶつけられているのかが理解できずに、言葉に出来なかった。
「あなたが何もしなければ、パパとママと一緒に死ねたのに……死ねたのにぃ」
何故彼女はこんなに死を望んでいるのか、リュートには理解できなかった。
リュートにとっては、いや、あの村では寿命以外の死は禁忌と教わってきていた。
無駄な死は村の衰退に関わる。
狩人がいなくなるという事は、村の食糧が減る。つまり飢え死にする可能性が増えてしまうのだ。
故にリュートは、どんな事があろうと生きるべきだという倫理観の元、彼女を助けた。
だが女性は生きる事を放棄している。
あまりの価値観の違いに、リュートは言葉を出す事が出来なかった。
「何で助けたの、助けたのよぉ!! 死なせてよ、責任もって私を殺してよぉぉぉ!!」
女性の慟哭が響く。
あまりの大声に、リュートは我に返って彼女の口を塞いだ。
「……じゃあオラはもう何も言わね。後おめぇを殺さね。死にてぇならオラがいなくなったら勝手に死んでけろ。オラは、この外道を全員殺す……」
リュートは、力なくその場を立ち去った。
良い事をしたつもりなのに、ここまで言われてしまい少なからずショックを受けてしまったのだ。彼女が死を望むなら、もう自分に出来る事は一切ないと判断し、立ち去る事を決めたのだった。
「なんで、なんで殺してくれないのよぉ……」
彼女自身も理不尽な事を言っている自覚はある。
だが、このとめどなく湧き上がる負の感情を抑えきれず、リュートに感情をぶつけてしまったのだった。
彼女は、自分で命を絶つ為に道具を探そうとした、その時だった。
『君は、死にたいのかい?』
頭の中で声がした。
中性的な声なので、男か女かわからない。でも不思議と聞き入ってしまう魅力的な声だ。
『もう一度聞くよ。君は、死にたいのかい?』
「……死にたい。パパとママの所に行きたい……」
『なるほどなるほど。よぉくわかったよ。でもさ、ただ死ぬだけじゃつまらなくないかい?』
「……別に。死ねるなら何でもいい」
『ならさ、君に素敵な提案をしてあげよう! どちらにしろ死ぬけど、君の両親を殺したくそったれ共を道連れに出来る方法だよ!』
この言葉を聞いた瞬間、彼女の目に一瞬にして生気が宿った。
死ねるし、あの盗賊共を道連れに出来るのか。
彼女は、この誘いに乗った。
「乗る。あいつらを道連れに出来るなら、どんな方法でもいいわ!」
『いいね、君。そのノリの良さ、私は好きだよ! では方法を授けるね』
声の主は、とある魔法の詠唱を授けた。
その魔法は、どの魔法使いも絶対に使いたくないと言われる最悪の魔法。
そして彼女は、《隠れ魔法使い》だったのだ。
隠れ魔法使いだった彼女に、最悪なタイミングで最悪な魔法を授けた声の主。
彼は、面白そうな魔力持ちに自ら声を掛け、魔法を授けていく。しかし彼の誘いに乗った人間は全員惨い形で人生を終わらせる。
彼の名は、《邪悪なる遊戯者 デ・ル=フィング》と言う。
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《隠れ魔法使い》
基本的に自身に《魔導管》があるかを調べる方法はない。
人によって異なるが、きっかけによって魔法が発言する事で自身が魔法使いである事を理解するのだが、平穏に過ごす事で魔法使いであると気が付かずに一生を終える者もいる。
そういった魔法使いを《隠れ魔法使い》と言う。
隠れ魔法使いは、最悪な状況になった時に邪悪な超常的存在に声を掛けられ、いいように弄ばれる場合があり、国にとっても甚大な被害が出てしまう為、国が今隠れ魔法使いの炙り出し方――もとい、対策方法を研究している最中だ。
《邪悪なる遊戯者 デ・ル=フィング》
魔法使いが彼の力を借りる事を躊躇う程の邪悪な存在。
主に彼は、絶望を味わっている魔法使いに声を掛け、周囲もろとも不幸にする魔法を甘い言葉で囁きながら授けていく。
さながら、弄んでいるような態度から邪悪なる遊戯者という二つ名を与えられる。
本人はその二つ名を相当嫌っており、魔法使いがそれを口にした瞬間、彼からの惨い死刑が待っている。
今回、彼が女性に授けた魔法は――
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